誰よりも愛を知っている貴方は

 怯えながらカラオケの前に向かう。そこには、男と──見知らぬ十人ほどの男たち。
「よお」
「…………その人たちは……?」
「ああ、今日はコイツらの相手してもらおうと思ってなあ」
「うひょー、マジで上玉じゃん! 好きにしていいの、タクちゃん?」
「ああ、いい画になるように頼むぜ。素人AVって売りに出すからよ」
「っ……!」
 見知らぬ男たちに蹂躙されて、しかもその映像を撮られるなんて。
「い、嫌……」
「あ?」
 男は審神者の手を無理やり掴んだ。
「テメェに拒否権なんてねぇんだよ! ハメ撮りの写真、本丸にバラまいてやろうか!?」
「や、やめて……! それだけは……!」
「なら言うこと聞け! おら、ホテル行くぞ!」
「っ……!」
『ぼくが助けるよ』
 亀甲の言葉が頭に浮かぶ。
『ぼくはあなたを地獄にだって救いに行くよ』
「きっ、こう……」
 もし、その言葉が本当なら。
 縋ってもいいのだろうか。彼を、求めてもいいのだろうか。
「……す、けて……」
「あ?」
「亀甲、助けてぇっ!」
 ありったけの大声で叫んだ瞬間、審神者の手を掴んでいた男が吹っ飛んだ。
「ぶへぇっ!?」
 そして、あたたかい何かに包まれる感覚。見上げると、そこには男を睨んでいる亀甲がいた。
「ご主人様、もう大丈夫だよ」
「き、こう……どうしてここに……」
「言っただろう? 地獄だって救いに行くって」
 亀甲は審神者を抱き締めて、ふわりと微笑む。男はよろよろと立ち上がって、審神者と亀甲を睨んだ。
「テメェっ……その女の連れか!?」
「その通り。ご主人様は返してもらうよ」
「ハ、そんな女のどこがいいってんだ! 元暴走族だぜ!? それにとっくに手垢がついてる中古品だ、ここにハメ撮りの写真だってあるしなあ!」
「……暴走族?」
「……昔、暴走族だったの。それを本丸の皆にバラすって脅されて……写真も、撮られて……。私、皆に軽蔑されたくなかったの……」
「…………なるほど、そういうことか」
 亀甲はさらりと審神者の頬を撫でて、優しい眼差しを向けた。
「昔少しヤンチャをしていたくらいで、僕が──僕たちがご主人様を軽蔑するわけがないだろう?」
「え……」
「むしろご主人様の拳のキレの理由がわかってスッキリだ! 実戦の中で育まれたものなら納得もいくよ」
「……軽蔑、しない、の?」
「どんな過去があろうとも、あなたはぼくのご主人様で、愛しいひとだよ。あまりぼくのことを舐めないでほしいな?」
「な……テメェ、その中古品がいいってのか!? 散々俺がハメ倒したんだぜ!?」
 亀甲は冷たい視線で男を睨む。男は蛇に睨まれた蛙のように動くことができない。
「ご主人様を中古扱いするな、外道。僕の大切なひとをそれ以上侮辱したら、首が胴体から離れることになるぞ」
「な……」
 見捨てないで、いてくれる。審神者を大切な人だと言ってくれた。目を背けたい過去すら、あっさりと受け入れてくれた。
 ああ──なんだ、何も怖がることはなかったのだ。そう思った途端、身体に力が宿る。そして、目の前の屑への怒りが沸いた。
「さあ、写真とやらを消してもらおうか。嫌だと言うのなら、力づくだ」
「っ……は、テメェみてえなひょろっちい男ひとりで何ができんだよ!」
 男は亀甲に向かって拳を振り下ろそうとして──審神者は亀甲の腕の中から飛び出して、男の顎を正確に捉えて拳をお見舞いした。
「ごふぁっ!?」
「ご主人様!?」
「……亀甲、今からこいつらボコボコにするから手伝って」
「いや、荒事になるからご主人様には下がっていてほしいのだけど……」
「嫌。てめえでケリつけないと溜飲が下がらない」
 久しぶりの感覚だ。自らの拳で敵を潰す。まだ無敵だった、少女の頃のように。審神者はにやりと笑った。
「さあ亀甲、暴れるよ! ついてきて!」
「……ふふ、これだからぼくのご主人様は最高だ!」
「や、やっちまえ!」
 やってくる男たちをちぎっては投げ、拳を叩き込み、蹴りをお見舞いする。十人ほどの男たちはあっという間に地面に伸びた。
「が、あ……」
 亀甲は審神者を脅していた男を見下げ、首元を掴んだ。
「今から答える質問に、正確に答えてほしい。ご主人様の写真のデータはどこにある?」
「お、俺の、スマホ……」
「……ふむ、これか」
 亀甲は男のズボンからスマートフォンを取り出した。
「なら次の質問だ。写真のバックアップを取ったり、他の誰かに送ったりしたかい?」
「し、してねえ……」
「本当に? 嘘だったら死ぬより辛い目にあうよ」
「本当です! こ、これから、送るつもりだったから……!」
「……なるほど」
 亀甲は男を投げ捨て──スマートフォンを懐にしまった。
「今度、家に伺わせてもらう。データが本当にこれだけか信用できないからね。これからまともな人生が送れるとは思わないことだ」
「ひ、ひい……!」
「さて、ぼくとしてはまだ足りないくらいなのだけど……」
「た、助けてくれぇえええっ!」
 男は泣き叫びながら走り去っていく。あとに残ったのは死屍累々の男の仲間たちと、傷だらけの審神者と亀甲だけ。
 遠くからサイレンが聞こえる。誰かが通報したのだろうか。
「ご主人様、逃げよう!」
 亀甲が手を引いてくれて、夜の街を駆けていく。繋がった手は、何よりも頼もしかった。
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