誰よりも愛を知っている貴方は

「ふあ……」
 まだ眠気の残る目を擦る。今日も澄み渡った青空で、風が気持ちいい。
 審神者はいつものように廊下を歩いて──。
 ふにり、と柔らかい何かを踏んだ感覚がした。
「……ん?」
 下を見ると、そこには己の近侍──亀甲貞宗が寝転がっていた。
「おはよう、ご主人様!」
「ぎゃあっ!? き、亀甲、なんでこんなところで寝てるの!」
「それはもちろん、ご主人様に踏んでもらうためさ! いつもここを通るからね。うまくいってよかった……」
 亀甲は頬を赤らめて息を荒くしている。なんというか、怖い。
「ああご主人様、もっと体重をかけてくれていいんだよ……! こう、みぞおちを抉るように!」
 彼は悦んでいるが──審神者ははたと気づく。自分が今スカートを履いていて、亀甲からはその中が見えてしまっていることに。
「きゃああぁっ!?」
 審神者は足をどけてスカートを手で押さえた。男性に下着を見られるなんて。
「き、亀甲、下着、みた……?」
 亀甲は起き上がって、にっこりと笑う。
「ああ、うん! でも僕は下着より、踏まれることに興奮しているから気にしないでほしい!」
「~~~~っ!」
 渾身の力で亀甲の頬を叩く。バチィンと乾いた音が、本丸の廊下に響いた。

「もう、亀甲ってなんであんなに……」
「変態なのかって?」
 初期刀である加州とお茶を飲みながら、他愛もない雑談をする。亀甲は何かにつけて審神者に踏んでほしいやら殴ってほしいやら頼んでくるのだ。正直、自分にそういう趣味はないが、口より先に手が出てしまうタイプなので、結果的に彼を悦ばせてしまっている。
「もうああいうものだと思って諦めたら?」
「うーん……見た目はあんなに格好いいのになあ……」
 亀甲は頭もいいし、戦闘においても実力がある。この本丸に欠かせない存在だ。だが、普段の行動だけがどうにも玉に瑕だ。
「……告白、した?」
「ぶっ!?」
 思わずお茶を吹き出しそうになる。必死に飲み込んで、息を整えた。
「な、何言ってるの加州」
「ずーっと亀甲近侍だし、主も亀甲と一緒だと大変だけど楽しそうだし? ま、俺の目はごまかせないってこと」
「……」
 そう、審神者はずっと亀甲に惹かれている。いざという時は支えてくれるし、騒がしい日々は楽しいと思える。
「……でも、さ」
「うん」
「なんていうか亀甲、私を女の子として見てないから……下着見ても踏まれる方が興奮するとか言ってたし……」
「は? あいつ主のパンツ見たの? 斬っていい?」
 加州が本体を持って部屋を出ようとする。審神者はまずいと思いながら、どうにか彼を押しとどめた。
「不可抗力! 不可抗力だから!」
 どうやら自分の恋は実りそうにない。どこにでもある日常は、ずっと続くはずだった。
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