触れる権利
「みんな、クッキーが焼けましたよ」
審神者は談話室で雑談をしていた短刀たちに声をかける。甘い香りに、皆が喜びの声を上げた。
「わあっ、あるじさんのクッキーだ!」
「しかも焼き立て……なんて素敵」
「俺っちも貰っていいか、大将」
「もちろん、どうぞ」
乱と京極、薬研がクッキーに手を伸ばす。小さな子たちが菓子を頬張っている姿は見ていてとても癒された。
「主、俺も食べていい!?」
包丁がキラキラとした瞳でこちらを見つめてくる。彼はなにかと審神者と交流をはかろうとしてくれるのだ。
「ええ、たくさん食べてください」
「やったー!」
包丁はそう言うと、審神者の膝の上に座ってクッキーに手を伸ばした。
「おい包丁……それは流石に……」
薬研がまずいだろ、と口を出すが、包丁は離れようとしない。
「大丈夫ですよ、薬研。五虎退や今剣を膝に乗せることもありますから」
「いや、それとはちょっと意味合いが……」
「ふへへ……人妻の膝の上……」
包丁は顔をにやけさせてクッキーを食べている。
「包丁、私は離婚したから人妻じゃないですよ?」
「違うんだ主、人妻っていうのは概念なんだ!」
「いや概念じゃないと思うぞ」
「甘やかしてくれるしお菓子もくれるし、主は最高の人妻なんだ!」
包丁は審神者の膝の上に頭を乗せて、ぐりぐりと押しつけてくる。幼子のようなそれに、審神者は微笑みを浮かべた。
「ふへへ……」
「まあ、包丁は甘えんぼうさんですね」
「なあ、甘い匂いがするがなにか────あ?」
ひょこりと顔を出した鶴丸は、包丁に膝枕をしている審神者を見た瞬間ぴしりと固まった。
「あーあ」
「まあ、これは修羅場というものではなくて?」
「京極、そいつは言ったらダメなやつだ……」
「……姫さん、一応聞くが、何してるんだ?」
「クッキーが焼けたので、みんなに食べてもらっていたんです」
「そっちじゃなくてだな、どうして包丁に膝枕を……」
「包丁が甘えてくれたので、お貸ししているんですよ。可愛らしいですよね」
ふふ、と笑うと、鶴丸は目にも止まらぬ速さで包丁を退けて審神者を抱き締めた。
「姫さん、それは駄目だ」
「鶴丸……?」
「ぶー、せっかくの人妻の膝枕だったのにー!」
「膝枕はしてはいけないんですか……? よく今剣や小夜にもしているんですが……」
「そいつはいいんだが、包丁は別なんだ」
他の短刀がよくて包丁が駄目な理由がわからない。審神者はそっと鶴丸の頬に触れて、肌をなぞった。
「鶴丸、短刀の子たちが甘えてくれるのはとても嬉しいんです。小夜たちはよくて包丁が駄目というのは、可哀想じゃありませんか?」
「そうだそうだー! 人妻に甘える権利は平等だー!」
「そうじゃなくてだな……」
包丁はぶうぶうと頬を膨らませている。鶴丸は少し困った顔をした後、そっと審神者を抱き寄せた。
「下心がある男に、きみを触れさせたくないんだ」
「下心……ですか?」
「ああ。俺がきみに下心ありきで触れてるから、同族はわかるんだ。頼む姫さん、そういうことは俺にだけしてくれ」
子どものように懇願する鶴丸に、思わず笑みが零れた。つまり、彼は包丁に嫉妬をしてくれたのだ。鶴丸が審神者に下心を持っているというのも、嬉しくて仕方がない。そんな風に言われてしまったら、気持ちに答えたくなるのが女心だ。
「ええ、わかりました。包丁、ごめんなさい。鶴丸が拗ねてしまうので膝枕はできないです」
「うー……でも今の言葉、すごく人妻っぽくてよかった……」
「包丁、後でいち兄に報告だな」
「ぎゃー! それだけはご勘弁を!」
涙目になる包丁に、どっと笑いが怒る。鶴丸の腕の中で、審神者は幸せを噛み締めたのだった。
審神者は談話室で雑談をしていた短刀たちに声をかける。甘い香りに、皆が喜びの声を上げた。
「わあっ、あるじさんのクッキーだ!」
「しかも焼き立て……なんて素敵」
「俺っちも貰っていいか、大将」
「もちろん、どうぞ」
乱と京極、薬研がクッキーに手を伸ばす。小さな子たちが菓子を頬張っている姿は見ていてとても癒された。
「主、俺も食べていい!?」
包丁がキラキラとした瞳でこちらを見つめてくる。彼はなにかと審神者と交流をはかろうとしてくれるのだ。
「ええ、たくさん食べてください」
「やったー!」
包丁はそう言うと、審神者の膝の上に座ってクッキーに手を伸ばした。
「おい包丁……それは流石に……」
薬研がまずいだろ、と口を出すが、包丁は離れようとしない。
「大丈夫ですよ、薬研。五虎退や今剣を膝に乗せることもありますから」
「いや、それとはちょっと意味合いが……」
「ふへへ……人妻の膝の上……」
包丁は顔をにやけさせてクッキーを食べている。
「包丁、私は離婚したから人妻じゃないですよ?」
「違うんだ主、人妻っていうのは概念なんだ!」
「いや概念じゃないと思うぞ」
「甘やかしてくれるしお菓子もくれるし、主は最高の人妻なんだ!」
包丁は審神者の膝の上に頭を乗せて、ぐりぐりと押しつけてくる。幼子のようなそれに、審神者は微笑みを浮かべた。
「ふへへ……」
「まあ、包丁は甘えんぼうさんですね」
「なあ、甘い匂いがするがなにか────あ?」
ひょこりと顔を出した鶴丸は、包丁に膝枕をしている審神者を見た瞬間ぴしりと固まった。
「あーあ」
「まあ、これは修羅場というものではなくて?」
「京極、そいつは言ったらダメなやつだ……」
「……姫さん、一応聞くが、何してるんだ?」
「クッキーが焼けたので、みんなに食べてもらっていたんです」
「そっちじゃなくてだな、どうして包丁に膝枕を……」
「包丁が甘えてくれたので、お貸ししているんですよ。可愛らしいですよね」
ふふ、と笑うと、鶴丸は目にも止まらぬ速さで包丁を退けて審神者を抱き締めた。
「姫さん、それは駄目だ」
「鶴丸……?」
「ぶー、せっかくの人妻の膝枕だったのにー!」
「膝枕はしてはいけないんですか……? よく今剣や小夜にもしているんですが……」
「そいつはいいんだが、包丁は別なんだ」
他の短刀がよくて包丁が駄目な理由がわからない。審神者はそっと鶴丸の頬に触れて、肌をなぞった。
「鶴丸、短刀の子たちが甘えてくれるのはとても嬉しいんです。小夜たちはよくて包丁が駄目というのは、可哀想じゃありませんか?」
「そうだそうだー! 人妻に甘える権利は平等だー!」
「そうじゃなくてだな……」
包丁はぶうぶうと頬を膨らませている。鶴丸は少し困った顔をした後、そっと審神者を抱き寄せた。
「下心がある男に、きみを触れさせたくないんだ」
「下心……ですか?」
「ああ。俺がきみに下心ありきで触れてるから、同族はわかるんだ。頼む姫さん、そういうことは俺にだけしてくれ」
子どものように懇願する鶴丸に、思わず笑みが零れた。つまり、彼は包丁に嫉妬をしてくれたのだ。鶴丸が審神者に下心を持っているというのも、嬉しくて仕方がない。そんな風に言われてしまったら、気持ちに答えたくなるのが女心だ。
「ええ、わかりました。包丁、ごめんなさい。鶴丸が拗ねてしまうので膝枕はできないです」
「うー……でも今の言葉、すごく人妻っぽくてよかった……」
「包丁、後でいち兄に報告だな」
「ぎゃー! それだけはご勘弁を!」
涙目になる包丁に、どっと笑いが怒る。鶴丸の腕の中で、審神者は幸せを噛み締めたのだった。