刀の巣
「………………」
暗闇の中で、審神者は目を開けた。
「寝れない……」
ついさっきまで仕事をこなして、疲れを感じたから布団に入ったのに一向に寝つけない。明日やるべきことをぐるぐると考えてしまって、思考が休まらなかった。
仕方がないので、水を飲んで明日の分の仕事もやってしまおう。審神者は起き上がって、羽織を羽織って部屋の外に出た。
「あれ、明かりついてる……」
皆が寝静まっている時間なのに、厨から光が漏れている。
「誰かいるの?」
ひょこりと覗くと、そこには寝巻き姿の後家がいた。
「あ、主だ」
「後家、こんな時間に何してるの?」
「喉渇いちゃって。主も?」
「私は……寝つけないからお水貰おうと思って。もう眠れないなら仕事をしようかなと」
「えー、寝た方がいいよ」
「ぐるぐる色んなこと考えちゃって……」
審神者はコップに水を注いでぐいと煽る。水分を摂ってから、自分は喉が渇いていたのだと気づいた。
「寝つき悪いの、元々?」
「そうだね。小さい頃から寝るのは苦手だったかな。寝る前って明日やることとか嫌なこと考えちゃうんだ。後家はそういう経験ない?」
「んー、寝る前は明日のごはんのこと考えるかな」
どうやら後家は寝る前にネガティブになる経験はないらしい。正直羨ましい。
「じゃあね後家、おやすみ」
コップを片付けて部屋に戻ろうとする。が、後家に手を掴まれた。
「後家?」
「やっぱり、冷たい。主、ボクと一緒に寝よ?」
「……へ!?」
言葉の意味が理解できていない間に、軽々と姫抱きをされて、どこかに連れていかれる。
「後家、一緒に寝るって、待って!」
「主、身体が冷えきってるんだよ。だからすぐに寝られなかったんだと思う」
後家は彼の部屋に辿り着いて、審神者を布団の上に下ろした。
「だからあっためるよ」
布団に入った後家が、布団をめくる。隣に来いということなのだろう。
「…………は、恥ずかしいよ」
「なして?」
「だってその、寝顔見られるのとか……」
もしよだれなんて垂らしてしまって、後家にそれを見られてしまったら死んでしまう。
「好きな子の寝顔なんて最高じゃん。ほら、おいでよ主」
後家に優しく微笑まれて、しぶしぶ彼の隣に入る。後家は審神者をそっと包み込み、肩まで布団をかけてくれた。
「っ…………」
厚い胸板が目の前にあって心臓がうるさい。この場合、手はどこにやればいいのだろうか。後家に触れてもいいのだろうか。
「触っていーよ」
審神者の心の中を覗いているのだろうか。後家に許されて、審神者はそっと後家の胸板に手を置いた。しっかりとしたそれは、自分の弱々しい肉体と全く違った。
後家に触れているだけで、心臓が壊れてしまいそうだ。そう思うのが恥ずかしくて、審神者は顔を隠すように布団に潜り込んだ。
「主、ゆーっくり息吐いて」
言われた通りに息を吐く。全身の力がふっと抜けていくのがわかる。
「次はゆーっくり吸って」
すぅ、と息を吸うと、さっきまで呼吸が浅かったことを自覚した。
「ボクの体温、感じて。あったかいから、きっとすぐ寝れるよ」
触れ合ったところから、後家の体温が伝わってくる。子どもをあやすようにゆっくり頭を撫でられると、ひとつ欠伸が零れた。
「いーこ、いーこ……」
後家の穏やかな声が眠気を誘う。やがて瞼が重くなって、審神者は静かに目を閉じた。
「…………ん…………」
目を開けると、大きな胸板と鮮やかな赤色が視界に映った。
「うわっ!?」
がばっと起き上がろうとしたが、何かが身体を拘束していて動けない。見ると、後家の腕が審神者を強く抱き締めていた。
少し目線を上にすると、後家の綺麗な寝顔が視界いっぱいに映る。
「ひえっ……」
どうにかしてこの状況から逃げなければ。ばたばたと身体を動かしていると、後家の目がゆっくり開いた。
「…………ん?」
「ご、ごけっ、近い!」
「……おはよ、よく寝れた?」
後家は審神者が慌ててるのを気にせず、髪の毛をそっと撫でる。
「寝れた! 寝れたから!」
「よかったぁ。じゃもーちょっと寝よ?」
後家は更に強く抱き締めて、審神者を逃がさない。
「だから、近いの!」
審神者は後家を起こしに来た姫鶴に救助されるまで、ずっと腕の中から逃げられなかった。
暗闇の中で、審神者は目を開けた。
「寝れない……」
ついさっきまで仕事をこなして、疲れを感じたから布団に入ったのに一向に寝つけない。明日やるべきことをぐるぐると考えてしまって、思考が休まらなかった。
仕方がないので、水を飲んで明日の分の仕事もやってしまおう。審神者は起き上がって、羽織を羽織って部屋の外に出た。
「あれ、明かりついてる……」
皆が寝静まっている時間なのに、厨から光が漏れている。
「誰かいるの?」
ひょこりと覗くと、そこには寝巻き姿の後家がいた。
「あ、主だ」
「後家、こんな時間に何してるの?」
「喉渇いちゃって。主も?」
「私は……寝つけないからお水貰おうと思って。もう眠れないなら仕事をしようかなと」
「えー、寝た方がいいよ」
「ぐるぐる色んなこと考えちゃって……」
審神者はコップに水を注いでぐいと煽る。水分を摂ってから、自分は喉が渇いていたのだと気づいた。
「寝つき悪いの、元々?」
「そうだね。小さい頃から寝るのは苦手だったかな。寝る前って明日やることとか嫌なこと考えちゃうんだ。後家はそういう経験ない?」
「んー、寝る前は明日のごはんのこと考えるかな」
どうやら後家は寝る前にネガティブになる経験はないらしい。正直羨ましい。
「じゃあね後家、おやすみ」
コップを片付けて部屋に戻ろうとする。が、後家に手を掴まれた。
「後家?」
「やっぱり、冷たい。主、ボクと一緒に寝よ?」
「……へ!?」
言葉の意味が理解できていない間に、軽々と姫抱きをされて、どこかに連れていかれる。
「後家、一緒に寝るって、待って!」
「主、身体が冷えきってるんだよ。だからすぐに寝られなかったんだと思う」
後家は彼の部屋に辿り着いて、審神者を布団の上に下ろした。
「だからあっためるよ」
布団に入った後家が、布団をめくる。隣に来いということなのだろう。
「…………は、恥ずかしいよ」
「なして?」
「だってその、寝顔見られるのとか……」
もしよだれなんて垂らしてしまって、後家にそれを見られてしまったら死んでしまう。
「好きな子の寝顔なんて最高じゃん。ほら、おいでよ主」
後家に優しく微笑まれて、しぶしぶ彼の隣に入る。後家は審神者をそっと包み込み、肩まで布団をかけてくれた。
「っ…………」
厚い胸板が目の前にあって心臓がうるさい。この場合、手はどこにやればいいのだろうか。後家に触れてもいいのだろうか。
「触っていーよ」
審神者の心の中を覗いているのだろうか。後家に許されて、審神者はそっと後家の胸板に手を置いた。しっかりとしたそれは、自分の弱々しい肉体と全く違った。
後家に触れているだけで、心臓が壊れてしまいそうだ。そう思うのが恥ずかしくて、審神者は顔を隠すように布団に潜り込んだ。
「主、ゆーっくり息吐いて」
言われた通りに息を吐く。全身の力がふっと抜けていくのがわかる。
「次はゆーっくり吸って」
すぅ、と息を吸うと、さっきまで呼吸が浅かったことを自覚した。
「ボクの体温、感じて。あったかいから、きっとすぐ寝れるよ」
触れ合ったところから、後家の体温が伝わってくる。子どもをあやすようにゆっくり頭を撫でられると、ひとつ欠伸が零れた。
「いーこ、いーこ……」
後家の穏やかな声が眠気を誘う。やがて瞼が重くなって、審神者は静かに目を閉じた。
「…………ん…………」
目を開けると、大きな胸板と鮮やかな赤色が視界に映った。
「うわっ!?」
がばっと起き上がろうとしたが、何かが身体を拘束していて動けない。見ると、後家の腕が審神者を強く抱き締めていた。
少し目線を上にすると、後家の綺麗な寝顔が視界いっぱいに映る。
「ひえっ……」
どうにかしてこの状況から逃げなければ。ばたばたと身体を動かしていると、後家の目がゆっくり開いた。
「…………ん?」
「ご、ごけっ、近い!」
「……おはよ、よく寝れた?」
後家は審神者が慌ててるのを気にせず、髪の毛をそっと撫でる。
「寝れた! 寝れたから!」
「よかったぁ。じゃもーちょっと寝よ?」
後家は更に強く抱き締めて、審神者を逃がさない。
「だから、近いの!」
審神者は後家を起こしに来た姫鶴に救助されるまで、ずっと腕の中から逃げられなかった。