朝戸と露


今回のお題は「朝露」です。

 前日の夜は、雷が鳴るほどの大雨だった。夏にしては冷え込む夜、審神者は後家の温もりに包まれて眠りについた。
 そして、目が覚めると宙はすっかり晴れていた。後家の腕の中から抜け出して障子を開けると、庭の木々が朝露に濡れている。
「綺麗……」
 雨上がりの庭はとても美しかった。見とれていると、後家がのそりと起き出す。
「主……?」
 どうやら審神者がいないことに気づいたらしい。しぱしぱと目を瞬かせながら辺りを探っている。
「後家、おはよう。庭が綺麗だよ」
「にわ……?」
 おいでと手招きして、彼に雨上がりの庭を見せた。
「ほら、朝露が綺麗」
「んん……ほんとうだ……」
 後家はそう言いながら審神者を腕の中に収めた。寝起きのせいでいつもより体温が高い。
「まだ眠い? もうちょっと寝る?」
「ん……主が起きるなら起きる……」
 起きる、と言っているけれど今にも寝てしまいそうだ。時間を見てもまだ余裕はあるし、今日は審神者は一日休むようにと刀たちから言われている。つまり、久しぶりの休日だ。休みだからとだらだらと寝るのはよくないかもしれないが────。
「いいよ、もう少し寝よう」
「やったあ、主と二度寝……」
 布団に戻って、後家の腕の中に入る。胸板に手を置くと、穏やかな心臓の音が聞こえてきた。
 後家は肩まで布団をかけてくれて、審神者を抱き枕のように抱き締める。
「主、二度寝なんて初めてなんじゃない……?」
「そうかも。本丸来てから、朝は決まった時間に起きてたから」
 生活のだらしないところを、刀たちに見せたくはないと毎朝起きるのを頑張っていた。けれど、きっと今日いつも通り起きてきたら刀たちはもっと休んでいろと怒るだろう。だから、今日は甘えて惰眠を貪ることにする。
「起きたらごはん作るね……何がいい……?」
「じゃあ、味噌の焼きおにぎり。この前作ってくれたのおいしかったから」
「あれおいしいよねえ……ボクも好き……」
 後家はとろんとした目で審神者を見つめる。蕩けた視線で見つめられて、その甘い表情に胸が高鳴った。
 ──眠そうな後家って、いつもより色っぽい……。
 そんなことを考えてしまって、ぶんぶんと頭を振った。
「主どしたの?」
「な、なんでもないよ、ほら寝よう」
 子どもを寝かしつけるように、後家の大きな背中をぽんぽんと叩く。
「んー……あったか……」
 やがて後家はすうすうと寝息を立てて眠ってしまった。穏やかであどけない寝顔が愛らしい。
「……かわいい寝顔」
 さらりと頬を撫でると、傷ひとつない肌の感触が気持ちよかった。
「かっこいいのにかわいいなんて、ずるいなあ……」
 審神者はそんな羨望交じりの声を漏らしながら、後家の腕の中でまた夢の中へと落ちていった。
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