不運を幸運に変えて
今回のお題は「不運/諦める」です。
その日、審神者は安定と共に万屋に赴いていた。
「主、他に買うものは?」
「もうないよ。ごめんね安定、付き合わせちゃって」
審神者の個人的な買い物に刀を同行させるのは慣れない。けれど何かあってはいけないと彼らは心配をしてくれるので、それに甘えている。
「主はもっと僕たちを頼ってくれていいんだよ」
「ありがとう。お礼になんか奢るよ。食べたいものない?」
「本当!? じゃあ僕、クリームソーダ飲みたい!」
「ふふ、クリームソーダね。じゃあ喫茶店に行こうか」
喫茶店まで歩いていると、ふと薄い桃色が目に入った。
「あっ」
「どうしたの?」
「あの傘、かわいいなって」
傘屋に置かれている薄桃色の折り畳み傘。ポップに日傘と書いてある。日傘はお下がりのものを持っているが、大きい普通の傘のサイズなので持ち運ぶのが少し面倒だ。
「日傘かあ……」
「確かにかわいいね、見てみる?」
「うん、ちょっとだけ──」
そう言って近づこうとすると、すっと女性が気になっていた薄桃色の日傘を手に取って店内に入ってしまった。
「あ……」
「だ、大丈夫だよ主。在庫があるかもしれないし!」
安定は走って店員に在庫がないかを確かめてくれたが、現品限りと言われて彼と肩を落とした。
「……他の、見てみる?」
「ううん、絶対に日傘が欲しかったわけじゃないから……」
あの柄が可愛らしいと思って惹かれただけで、日傘そのものが欲しいのではない。
「大丈夫だよ、諦める。日傘はもう持ってるし、縁がなかっただけだよ」
「主……」
「さ、クリームソーダ飲みに行こう。私はアイスココアにしようかなあ」
悲しそうな安定に微笑んで、歩き出す。不運というものはどうしようもないのだと、そう思うことにした。
「ただいまー」
「ただいま」
喫茶店で涼んでから、本丸に帰ってきた。
「お、おかえりー」
顔を出したのは加州だ。
「主、後家が探してたよ」
「後家が? なんだろ」
「デートのお誘いかも?」
「いいね、楽しそう。主はどこ行きたい? 映画? 水族館?」
「っ、違うから! 多分仕事の話!」
加州と安定のからかった物言いに顔が赤くなる。
「そうかなあ? 後家が話しかけることなんて、仕事だと思えないな。ね、清光」
「うんうん。ぜーったいプライベート」
「もう! からかわないで!」
審神者がむくれると、ふた振りは顔を合わせてくすくすと笑う。審神者は後家を探しに、廊下を歩き出した。
「あ、後家。いた」
本丸を探しても彼の姿は見当たらず、もしかしてと思って自分の部屋を覗いた。そこには長い足を投げ出して座っている後家がいた。
「主、おかえり。買い物?」
「そう、安定と。私のこと探してたって聞いたんだけど」
「うん。これをあげたくて」
そう言って後家はラッピングされた袋を差し出した。
「? なに、これ」
「まあまあ、開けてみて?」
ラッピングをほどくと、そこには薄桃色の日傘があった。審神者が店頭で気になっていて、けれど手に取れなかったものと全く一緒だ。
生地全体は薄桃色で、露先に近いところの生地だけ白に近いグレーになっていて、花の模様が描かれている。
「っ、これ……!」
「日傘なんだけど、雨の日も使えるんだって。主に似合うかなって思ったんだけど、どう?」
「さっき気になって、買えなかったやつ……!」
「え、ほんとう?」
「最後の一個が目の前で買われちゃって……」
「ならちょうどよかった」
「で、でもさ、誕生日でもなんでもないのにもらっていいの? お金払うよ?」
「主」
後家はふに、と審神者の頬をつついた。
「恋人に贈り物するのに、理由が必要?」
にっこりと綺麗な笑顔で言われて、体温が一気に高くなる。
「じゃあ……ありがたく、もらいます……」
審神者はきゅう、と日傘を抱き締める。欲しかったものをくれるなんて、まるで彼は魔法使いだ。
「……これ早く使いたい。ちょっと出かけてこようかな……」
この日傘を使って歩いたら、どれだけ楽しいだろう。
だが、後家にぽすんと腕の中に閉じ込められて、髪の毛を撫でられた。
「だめ。さっき出かけたばっかりでしょ? こんな暑い中何回も歩いたら熱中症になっちゃうよ。この前みたいに」
「う……」
審神者はつい先日熱中症で倒れたばかりだ。その時随分と後家に迷惑をかけた。
「明日なら、いい?」
「いーよ。でもボクも連れていってね?」
「どこか行きたいところある?」
「主の行きたいところならどこでも」
「ええ……。じゃあ、フルーツサンド食べに行きたいな」
「いいね、行こう!」
後家は審神者の髪を梳いて、ひとつ口づけを落とす。
「また主とデートできるなんて幸せ」
悪戯する子どものように笑む彼は、この世の何よりもかっこよくて。
審神者は頬を染めながら、ぽすんと彼に身体を預けた。
その日、審神者は安定と共に万屋に赴いていた。
「主、他に買うものは?」
「もうないよ。ごめんね安定、付き合わせちゃって」
審神者の個人的な買い物に刀を同行させるのは慣れない。けれど何かあってはいけないと彼らは心配をしてくれるので、それに甘えている。
「主はもっと僕たちを頼ってくれていいんだよ」
「ありがとう。お礼になんか奢るよ。食べたいものない?」
「本当!? じゃあ僕、クリームソーダ飲みたい!」
「ふふ、クリームソーダね。じゃあ喫茶店に行こうか」
喫茶店まで歩いていると、ふと薄い桃色が目に入った。
「あっ」
「どうしたの?」
「あの傘、かわいいなって」
傘屋に置かれている薄桃色の折り畳み傘。ポップに日傘と書いてある。日傘はお下がりのものを持っているが、大きい普通の傘のサイズなので持ち運ぶのが少し面倒だ。
「日傘かあ……」
「確かにかわいいね、見てみる?」
「うん、ちょっとだけ──」
そう言って近づこうとすると、すっと女性が気になっていた薄桃色の日傘を手に取って店内に入ってしまった。
「あ……」
「だ、大丈夫だよ主。在庫があるかもしれないし!」
安定は走って店員に在庫がないかを確かめてくれたが、現品限りと言われて彼と肩を落とした。
「……他の、見てみる?」
「ううん、絶対に日傘が欲しかったわけじゃないから……」
あの柄が可愛らしいと思って惹かれただけで、日傘そのものが欲しいのではない。
「大丈夫だよ、諦める。日傘はもう持ってるし、縁がなかっただけだよ」
「主……」
「さ、クリームソーダ飲みに行こう。私はアイスココアにしようかなあ」
悲しそうな安定に微笑んで、歩き出す。不運というものはどうしようもないのだと、そう思うことにした。
「ただいまー」
「ただいま」
喫茶店で涼んでから、本丸に帰ってきた。
「お、おかえりー」
顔を出したのは加州だ。
「主、後家が探してたよ」
「後家が? なんだろ」
「デートのお誘いかも?」
「いいね、楽しそう。主はどこ行きたい? 映画? 水族館?」
「っ、違うから! 多分仕事の話!」
加州と安定のからかった物言いに顔が赤くなる。
「そうかなあ? 後家が話しかけることなんて、仕事だと思えないな。ね、清光」
「うんうん。ぜーったいプライベート」
「もう! からかわないで!」
審神者がむくれると、ふた振りは顔を合わせてくすくすと笑う。審神者は後家を探しに、廊下を歩き出した。
「あ、後家。いた」
本丸を探しても彼の姿は見当たらず、もしかしてと思って自分の部屋を覗いた。そこには長い足を投げ出して座っている後家がいた。
「主、おかえり。買い物?」
「そう、安定と。私のこと探してたって聞いたんだけど」
「うん。これをあげたくて」
そう言って後家はラッピングされた袋を差し出した。
「? なに、これ」
「まあまあ、開けてみて?」
ラッピングをほどくと、そこには薄桃色の日傘があった。審神者が店頭で気になっていて、けれど手に取れなかったものと全く一緒だ。
生地全体は薄桃色で、露先に近いところの生地だけ白に近いグレーになっていて、花の模様が描かれている。
「っ、これ……!」
「日傘なんだけど、雨の日も使えるんだって。主に似合うかなって思ったんだけど、どう?」
「さっき気になって、買えなかったやつ……!」
「え、ほんとう?」
「最後の一個が目の前で買われちゃって……」
「ならちょうどよかった」
「で、でもさ、誕生日でもなんでもないのにもらっていいの? お金払うよ?」
「主」
後家はふに、と審神者の頬をつついた。
「恋人に贈り物するのに、理由が必要?」
にっこりと綺麗な笑顔で言われて、体温が一気に高くなる。
「じゃあ……ありがたく、もらいます……」
審神者はきゅう、と日傘を抱き締める。欲しかったものをくれるなんて、まるで彼は魔法使いだ。
「……これ早く使いたい。ちょっと出かけてこようかな……」
この日傘を使って歩いたら、どれだけ楽しいだろう。
だが、後家にぽすんと腕の中に閉じ込められて、髪の毛を撫でられた。
「だめ。さっき出かけたばっかりでしょ? こんな暑い中何回も歩いたら熱中症になっちゃうよ。この前みたいに」
「う……」
審神者はつい先日熱中症で倒れたばかりだ。その時随分と後家に迷惑をかけた。
「明日なら、いい?」
「いーよ。でもボクも連れていってね?」
「どこか行きたいところある?」
「主の行きたいところならどこでも」
「ええ……。じゃあ、フルーツサンド食べに行きたいな」
「いいね、行こう!」
後家は審神者の髪を梳いて、ひとつ口づけを落とす。
「また主とデートできるなんて幸せ」
悪戯する子どものように笑む彼は、この世の何よりもかっこよくて。
審神者は頬を染めながら、ぽすんと彼に身体を預けた。