眠りに誘うぬくもり

「これは明日国広に確認して……こっちは明日博多に聞こう」
 審神者は目の前の書類を確認しながら、どんどんと捌いていく。審神者の仕事のひとつが本丸の運営なので、その為の書類仕事は毎日できてしまう。締め切りがまだ先のものもあるが、油断するとすぐに期限が来てしまうから早めに仕上げたいところだ。けれど────。
 審神者はちらりと後ろを見やった。そこには布団の上でレシピ本を読んでいる後家がいる。
 後家は最近、よく審神者の仕事を見張る。ちゃんとやっているかではなく、ちゃんと休んでいるか、という点で。心配してくれるのはありがたいが、後家は少し心配性すぎるところがある。何度か体調を崩してしまっているので、心配されるのも当然ではあるのだが。
「……後家、先寝てていいよ」
「んー?」
「まだ仕事かかるから」
「主、もう夜の十時だよ? そろそろ休んだら?」
「まだそんな遅くないでしょ……」
「こんな時間まで仕事してるの主くらいだよ?」
 おそらく彼は審神者が休むまで寝ない気だ。眠そうな気配はないが、彼をあと数時間付き合わせるのは気が引けた。
「……わかった、もう寝る」
「やった、ほら寝よ寝よ」
 後家はレシピ本を閉じて、布団の中に入る。掛布団をめくって、おいでと審神者を導いた。
「……」
 隣で眠るのはまだ恥ずかしいと思いながら、彼を拒めずに布団の中に入った。後家は布団をかけてくれて、ゆっくりと審神者の背中を撫でる。
「今日もお疲れ様」
「……ありがとう」
「明日はちょっと遅起きにしない? 朝ごはんボクが作るよ」
「駄目だよ、みんながちゃんと起きるのに私だけ寝てちゃ」
「主はいっつも早起きしてるんだから、一日くらいいーのに」
 後家は審神者の身体を引き寄せて、体温でそっと包み込む。それだけでほっとするのだから、温もりとは不思議なものだ。
「主ってほんとう真面目だよね」
「別に真面目なつもりはないよ。しなくちゃいけないことしてるだけ」
「それが真面目なんだよなあ」
 子どもを寝かしつけるように頭を撫でられると、小さなあくびがひとつ漏れた。彼の体温に触れていると、それだけで心が穏やかになっていく。
「眠くなってきた?」
「……うん」
「へへ、ボク、寝かしつけ得意かも」
「上手だと思うよ。後家に抱き締められてると眠くなるもの」
「……主は嬉しいこと言ってくれるなあ」
「? なんで?」
「だって眠くなるってことは、安心してるってことでしょ? 主はボクにぎゅーってされると安心するんだなあって」
「……」
 確かに、そう言われると恥ずかしいことを言ってしまった気がする。顔を隠すと後家が顔見せて、と顎を掬ってくる。
「主、かわいいね」
「っ……なんでそういうことさらっと言えるのか不思議……」
「思ったことそのまま口にしてるだけだよ?」
 ちゅ、と額に口づけを落とされて、顔が火照る。
「も、もうこれ以上はドキドキして寝れなくなっちゃうから、やめて」
「わかった、じゃあまた明日起きたらね?」
 後家は審神者をぎゅう、と抱き締める。大きな彼に包まれて、だんだんと瞼が重たくなっていく。
「おやすみ、主」
「……おやすみなさい」
 優しい微睡みに包まれて、審神者は目を閉じた。
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