彼の尻尾

「ん……」
 目を覚ますと、美術品のように綺麗な顔立ちが視界に映った。彼はすやすやと寝息を立てている。
 審神者はそっと、彼の下ろされている赤い髪に触れた。
「本当、綺麗な赤……」
 さらさらのそれからは、優しい花の香りがする。きっと香油を使っているのだろう。
「つやつやで、さらさらで……羨ましいなあ……」
 彼が動く度に、尻尾のように揺れる髪。それが視界に入る度、愛しさで胸が疼いてしまう。
「かっこいいなあ、後家の色」
 後家の毛先をいじっていると、不意に腕の中に閉じ込められた。
「わっ?」
「……ちょっと、かわいすぎて我慢できなかった…………」
 見上げると、そこには喜びを隠せていない後家の笑顔があった。
「……起きてたの!? いつから!?」
「綺麗な赤、から」
「最初からじゃない!」
 全てを聞かれていたことが恥ずかしくて、うう、と後家の胸に顔を埋める。
「もう嫌……恥ずかしい……」
「なして? ボクの髪の毛いじる主、かわいかったよ?」
 後家は審神者の頬を撫でて、そっと上を向かせる。
「ね、ボクがかっこいいってほんとう?」
「へ? う、うん……」
 答えると、後家はぱあっと顔を輝かせ、審神者を強く抱き締めた。
「うれしい! 主がかっこいいって言ってくれた!」
「い、言ったことなかったっけ……?」
「ないよ! へへ、そっかあ、ボクってかっこいいんだ!」
 子どものようにはしゃぐ後家に、もう少し普段から思っていることを口にするべきだったかと反省する。
 後家の厚い胸板に、こつんと額をつける。そして、逡巡した後にぽつりと呟いた。
「貴方はいつだってかっこよくて素敵な刀だよ」
「……嬉しいなあ、ねえ、どこがかっこいい? 髪の色だけ?」
「え、えっと……稽古してる時の真面目な顔とか……一生懸命畑仕事してる時とか、あと……」
「あと?」
「私に笑いかけてくれる時の、顔も……っていうかいつだってかっこいいし……っ、もうこれ以上は無理!」
「……もう、主大好き」
 ちゅっ、と額に口づけが落ちる。後家の慈愛のこもった目を見ると、それだけで顔が熱くなった。
「ボクのこと、いーっぱい見てくれてるんだね」
「だ、だって……好きな相手は目で追っちゃうでしょ……」
「確かに。ボクも主のことばっか見てるからなあ」
 後家が髪を撫でて、そっと唇を重ねてくる。彼に身を委ねると、唇を優しく食まれた。
「ん……」
「かわいい、かわいい主……これからもかっこよくなれるように頑張るから、ずっと見てて?」
「そ、れは困る……」
 審神者は顔を真っ赤にしながら両手で覆う。
「なして?」
「これ以上かっこよくなったら、もっと好きになっちゃうでしょ……」
「~~っ、もー、かわいすぎ! 我慢できないっ!」
「きゃあっ!?」
 後家は審神者の腰に手を回して、顔の至るところに口づけを落とした。くすぐったさに身をよじらせると、逃がさないと言う風に唇に愛が捧げられる。
 ささやかな幸せに満ち溢れたひとりとひと振りを、朝日が照らしていた。 
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