自分が可愛いと思ったもの

自分が可愛いと思ったもの
「これね、加州がくれたんだ、ジェルネイルって言うんだって」
 審神者は桜色に色づいた爪を後家に見せた。
「ネイルやりたいって言った記念、って。すごく可愛くて、視界に入ると楽しくなるんだ」
「ほんとうだ。かわいいね」
 後家はにこやかに笑って審神者を引き寄せた。
「ねえ、主?」
「……どうしたの?」
「加州くんからのプレゼントは嬉しいのに、ボクが主にプレゼントしたら嫌?」
 ちゅ、と手の甲に口づけがひとつ落ちる。
「え、嫌なんじゃなくて、後家はなんでもくれるから申し訳なくて……」
 そう、審神者は後家のこの癖に悩まされていた。彼は審神者にすぐ贈り物をしてしまうのだ。食べ物から雑貨まで、彼からのプレゼントはもう個数を数えられない。
「主」
 後家が腰を抱いてくる。美しい顔が近くなって、胸がきゅうと締めつけられた。
「ボクにも贈り物させて?」
「で、でも」
「ねえ、お願い」
 彼は慣れた手つきで顎を掬って更に距離を詰めてきた。甘く蕩けるような声が耳に届いて心拍数が上昇する。
「ボクも、かわいい主にプレゼントしたいんだ」
 後家はすっと目を細めて、審神者に口づけた。
「は、い……」
 雰囲気に飲まれて、思わず肯定してしまう。最近の後家は大人っぽくて格好いいのがずるいと思いながら、審神者は顔を朱に染めた。

 次の日、まだ夏の暑さが残る外を歩いて、デパートに辿り着いた。
「主、欲しいものあったら言ってね?」
「うん。でも本当にいいの?」
「いーの。ボクがしたくてたまらないんだ」
 それから、審神者と後家はデパートを回った。審神者はレースのハンカチを後家に買ってもらうことにした。
「ありがとう、後家。可愛いけど自分で買うにはちょっと緊張しちゃって」
「主にぴったりだと思うよ。すごくかわいい」
 プレゼントを受け取って、デパートの中を歩く。ふと、いい香りが鼻をくすぐった。
「いい香り。なんだろう?」
「香水じゃないかな。ほら、あそこにあるやつ。ちょっと寄らない?」
「うん、いいよ」
 店の中に入ると、沢山の瓶が置いてあった。香りを試しに嗅ぐことができるらしい。
「これかわいいね、入れ物がハートだよ」
 後家は色々な香水の香りを試していく。審神者もそれにならって、試供品の香りを嗅いでいった。
「あ、これ、いい香りする」
 甘酸っぱくて可愛らしい香り。説明文を見るとストロベリーの香りが主になっているらしい。けれどあまりにも甘やかで、審神者がつけるには可愛らしすぎると思った。それ以外の色々な香りを嗅いでも、自分に合う気がしない。
「気に入ったのあった?」
「えっ、あ、その……ご、後家はどれが好き? 似合うのがわからなくて」
 自分では選べないのだから、後家の選んだものにしようと思った。けれど後家は審神者の頬に触れて、ふっと笑んだ。
「ボクの好みじゃなくて、主がいいなって思ったものにしよう?」
「けど……その、どれがいいのかわからなくて。可愛いなって思ったのは、あったんだけど……」
「だいじょーぶだよ。自分が気に入ったもの選んで? 好きなものにしていいんだよ。それが一番似合うって、ボクが保証する」
 きっぱりと言い切る彼に、胸が暖かいもので満たされていく。
「主、どれがいい?」
「……これ、が、いい」
 審神者はストロベリーの香りがする香水を選んだ。自分ひとりだったら、絶対に選ばなかったそれを。
「うん。しょーち」
 後家はそう言って可愛らしいピンクの香水の瓶を手に取って、レジへと向かう。
「えっ、後家待って、自分で買うから!」
「今日はボクがプレゼントするって話だったからね」
「さっきハンカチ買ってくれたじゃない!」
「あれはあれ。これはこれだから」
 彼はさっさと会計を済ませて、ラッピングされた香水を渡してきた。
「それに、これつける度に主はボクのこと思い出してくれるでしょ? 主がボクのこと考えてくれるだけで嬉しいんだ」
 この彼氏には、いつまで経っても敵わないらしい。審神者は香水を大事に受け取った。
「わかった、ありがとう。……お茶にしようか。そこでは私が出すから」
「んー、それはどうかなあ」
「絶対、絶対に私が出すから!」
 ひと振りとひとりは手を繋いで歩き出す。恋の香りの香水は、確かに審神者のものだった。
1/1ページ
スキ