貴方を想って

 その日は、乱と一緒に買い物に来ていた。都会の喧騒に紛れながら喋っていると、ふとゲームセンターが視界に映った。
「あっ、ゲームセンターだ。あるじさん行ったことある?」
「ないんだよね、どんなところかちょっと気になる」
「じゃあ行ってみよう! ほらほらっ」
 乱が腕を引っ張ってゲームセンターの中へ入っていく。中はコインや機械が音を鳴らしていて、少しうるさいほどだった。
「あるじさんはどんなゲームがいいかなあ。シューティング……は苦手そうだし……」
 乱は一生懸命審神者でもできそうなゲームを考えてくれている。彼はこういう気遣いのできる優しい刀だ。
 そんな中で、審神者はふとひとつのクレーンゲームに目をやった。
 大きな大きな、おにぎりのぬいぐるみが機械の中に鎮座している。デフォルメされた目と口がついていて、可愛らしい。
「ねえ乱、あれ……」
「ん? あっ、クレーンゲームやってみたい?」
「私でもできるかな?」
「とりあえずやってみようよ! 百円玉持ってる?」
 乱に教わって、クレーンゲームを起動してみる。どうやら空箱を取り出し口まで運んだら景品がもらえるらしい。
 ボタンを押すとアームが動いて、ほんの少し空箱を持ち上げたが、すぐに落ちてしまった。
「あっ!」
「がんばれ、あるじさん!」
 二回目、三回目と繰り返しても、箱はほんの少し動くだけ。すぐに百円玉がなくなってしまった。
「ボク両替してくる! あるじさんちょっと待ってて!」
「ありがとう!」
 乱はすぐにお札を大量の百円玉に交換してきてくれた。何回か繰り返していると、なんとなくコツも掴めてくる。
 そして、約三十回目。アームが持ち上げた空箱を、するりと取り出し口に落とした。
「と、取れたっ!」
「やった! あるじさんすごい!」
「乱ありがとう! 乱のおかげだよ!」
 店員に空箱を持っていくと、すぐにおにぎりのぬいぐるみと交換してくれた。審神者が両腕で抱っこするのがやっとなくらい大きい。
「ボクが持つよ!」
「えっ、でも」
「あるじさん、ボクも男なんだよ?」
 乱はひょいとぬいぐるみを抱えた。
「ありがとう……」
「他は何で遊ぶ?」
「あのお菓子のやつ、やってみたいな」
 審神者は乱と、存分にゲームセンターを楽しんだ。

「ただいまー!」
「ただいま」
「おかえり」
 本丸に帰ると、山姥切国広が出迎えてくれた。
「……なんだ、そのおにぎりは」
「クレーンゲームで取ったんだよ!」
「くれーんげーむ」
「あるじさん、どーしてもこれが欲しかったんだもんね?」
「まあ、その、うん……」
 おにぎりのぬいぐるみを見た時に思い浮かんだのは、後家の顔だった。米が好きな彼は、当然おにぎりも好きだ。彼に渡したら喜ぶだろうかと思ったのだ。
「後家さんの部屋まで運べばいい?」
「っえ!?」
 後家にあげるつもりだったのがばれている。顔を赤くすると、乱はかわいいなあ、なんて愛らしく笑った。
「じ、自分で渡すから、いいよ」
「はぁい。じゃあ、どーぞっ」
「乱、さっき一期一振がまだ帰らないのかと心配していた。顔を見せてやれ」
「もーいち兄は心配性だなあ。じゃあね、あるじさんっ」
 乱は軽い足取りで去っていった。審神者も後家にぬいぐるみを渡すために、国広と別れた。

「後家、いる?」
「はーい、どうぞー」
 部屋の前で声をかけると、彼の声がした。障子を開けようとしたが、両手が塞がっていてそれができない。
「ご、ごめん、開けてくれるかな」
「ん?」
 障子が開く。そこには内番姿の後家がいた。
「……おにぎり?」
 どうやら彼の視界には、審神者より先にぬいぐるみが映ったらしい。
「これ、クレーンゲームで取ったの。後家おにぎり好きだから……」
 だが、よくよく考えてみれば恋人に贈るものとしては幼かったかもしれない。普通はアクセサリーや服を贈るべきだろう。
「あっ、でもいらなかったら」
「……これ、ボクにくれるの!?」
 後家は目をきらきらと輝かせた。そしてぬいぐるみを受け取って、ぎゅうと強く抱き締める。
「かわいい! ありがとう、主!」
「気に入ってくれたなら、よかった……」
「おにぎりのぬいぐるみなんて最高! これ抱っこしてごろごろするよ!」
 後家はやったぁ、と言いながらぬいぐるみを可愛がる。体躯の大きな彼がぬいぐるみを愛でる姿は、とても可愛らしかった。
「これ、わざわざ主が取ってくれたんでしょ!?」
「う、うん」
 後家はぬいぐるみを置いて、次は審神者を腕の中に閉じ込めた。
「ボクのために?」
「……その、うん。後家が喜ぶかなって思って」
 素直に考えていたことを伝えると、彼の腕の力が強まった。
「優しいなあ主は。そういうところ、大好きだよ」
「後家がよくプレゼントしてくれるから……おかえしになればいいなって思ったの」
「最高だよ! ね、これ枕にしてお昼寝しよーよ」
 後家は倒れ込んでぽすん、と枕に頭を着地させる。審神者は彼の上に乗る形になってしまった。
「わっ」
「へへ、すっごい嬉しいなあ」
 子どものようにはしゃぐ後家に、審神者はまた彼が喜びそうなものを見つけたら絶対にプレゼントをしようと、心に誓った。
 
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