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 肉体が滅んでも、魂が失われることはない。







 腕の中で朽ちてゆく君を見て





 腕の中で朽ちてゆく君を見ながら、私はただ叫び声を上げる。
 悲しいのに、淋しいのに、私の瞳から涙が零れ落ちることは決してない。半身をもぎ取られ、魂を裂かれたのに等しいというのに、ヒトではないこの身では、愛しい人の亡骸を前にしても、悲しさに泣き喚くことも出来ないのだ。
 冷たくなる体を両腕に抱えながら、私はただ悔しさに声を上げる。喉が張り裂けるまで、この声が涸れる果てるまで、悲しみに己の自己が狂いゆくまで。





 私には「個」というものがない。
 気がついた時には私は私であり、誰に言われたわけでもなく、自分は人間ではない別の存在で半永久的な命を持ち合わせていることを知っていた。
 「個」を持ち合わせていないせいかも知れないが、それを辛いと感じたことは一度としてない。
 暗い暗い土の奥深くで、上の世界で起こる戦事にも興味を示さず、永久に流れる月日をただ過ごしていた。
 自分が何者なのか、自分が何のためにこの世に生み出されたのか、問うことや疑問も抱くこともなく、ただヒトの「まね事」をして生きてきた。

 そんな私を暗い土の底から引き上げ、共に生きる喜びを与えてくれた人がいる。
 世界に残る最後の一人の存在でありながら、彼女は数人の人間と共に世界を救うと豪語した。
 その超越した力や存在から、人間から迫害を受けていた過去を持ちながらも、それでも彼女は愛する人間を守るために、人間と戦うのだと言う。

 その時、私の中に初めての欲望が湧いた。

 ただ、欲しかったのだ。私と同じヒトでないものでありながら、人間と共に生き、人間を愛する彼女の愛が、私にも。
 だから、私は差し延べられた手を迷わずに掴んだ。彼女と共に世界を救う「まね事」をしてみれば、彼女の愛を得ることが出来るのではないかと考えたからだ。

 だが、私はついに彼女の愛を手にすることが叶わなかった。

 私は愛し、愛されるために、戦が終わってからも彼女と数年を共にした。しかし、私にとってはその些細な月日が彼女を蝕んだのだ。
 彼女の体は病に侵され、変わらぬ美しい姿のまま私の腕の中で息を引き取った。




 フィガロ城で行われた葬儀の夜、私は彼女の遺体を抱えて城を飛び出した。そして、もう二度と戻るつもりのなかった、あの暗い暗い土の底へと舞い戻った。
 彼女に密かな想いを寄せていた城主のエドガーや、戦を共にした仲間たち、そして彼女を母と慕い、無償の愛を受けていた子供たちは、きっと私のことを怨み続けるだろう。
 
 だが、どうしても彼女の愛が欲しくて、独り占めしたくて堪らなかったのだ。
 私は彼女の亡骸に縋り付き、ただ叫び声を上げ続けた。なぜ愛しい人の死に対しても、この身は涙の一粒も零せないのか、ただ悔やみ続けた。
 長い長い時間をそうして過ごし、腕の中で彼女が朽ちて崩れてゆくのを見ながら、私はあることを思い付き、そして決意した。


 それからの私は狂ったように、取り憑かれたかのように、土をいじり、ヒトを作る「まね事」を続けた。
 何十年、何百年、何千年、世界が変わり、世界が滅び、世界が生まれ変わっても、それでも私は暗い土の底で土をいじり続け、創作をし続けた。
 造形の腕の向上のために戯れに上の世界の人間や建物の創作などもしてみたが、私の取り憑かれた心が癒えるはずなどない。
 私は睡眠も食事も一切を禁じ、体が腐り初めても、指先が動き続ける限り、ただ作り続けた。



 愛しい彼女を、寸分の狂い無く。



 私を愛するためだけの、私に愛されるためだけの、人形を。






 人形に魂が宿るのは、私の指先が腐り落ち、この目が光を失い、私の命が尽きる、その時だ。







・END・



 ☆お粗末さまでした☆


・9で「魔法の指先」をダゲレオのじいさんに渡した時の台詞を見たら、物凄く書きたくなりました。
 愛に狂った男です。妄想激しくて、すみません。

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