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幻想水滸伝






 もう止められない。






 罪には罰を





 窓のない暗い室内に嬌声と水音が響く。ロウソクの揺らめく明かりに照らされて、ベッドの上で痴態を晒す白い素肌が浮かび上がる。
 すらりと伸びる細い手足。少し痩せすぎに思える細い体、その胸でつんっと立ち上がったピンク色の乳首。赤く上気して快感に歪む整った美しい顔。
「あ、あ……ッ!」
 その口から流れ出る嬌声はまだ声変わり前で、まるで少女のようだ。
 シーツを掴み、逃げるように身をよじろうとする少年の体を押さえ付け、最奥まで一気に突き上げる。
「……ンンッ!!」
 ビクリと体が震えて、少年は背中を弓なりにしならせる。苦痛に耐えるように眉根が寄せられ、目尻から涙が流れて行くと自分の中の加虐心が首を擡げ出すのだ。
 たまらず細い腰を爪痕が残るほど強く引き寄せ、自らの欲望を満たすべく何度も何度も穿ち突き上げる。
「ひ、あ……あぁッ!」
 少年はボロボロと涙を零し、悲鳴のような喘ぎ声を上げる。それがより一層、俺を欲情させるとも知らずに。
 だから少年の弱い部分を狙って刺激してやるのだ。もう数え切れないほど犯した体だ、どこをどう攻めたら、どんな声で鳴くのかなど全て把握している。
「は……あっ、あっ、んっ」
 弱いところを優しく突いてやると、嬌声にも表情にも艶が出だす。潤んだ瞳はトロリと熱に浮かされ、開いたままの唇からは涎と甘い喘ぎ声が流れ出る。
 望まない行為を強要しているというのに、少年の体の中心では勃起した性器の先から先走りの蜜が溢れ出ている。
「あ――も、イッ!」
 そろそろ限界が近いのか、少年は荒い息を吐き出しながら自分の体を拘束する男の腕に爪を立てる。
 その様子が可愛くて、愛しくて。気持ち良くさせてやりたいと思う一方で、少年の意思を無視して激しく突き上げてしまう自分がいる。
「や――ッ!」
 グチュグチュと卑猥な音を立てながら抽挿を繰り返しこね回し、ただ自らの性を限界まで高め上げ、そして少年の最奥で解放させる。
「――ッ!!」
 内壁を打つ熱い迸りに、少年の体がビクリッと震えた。
 何度目かの腸内への射精に、逆流した精液が結合部から溢れ出し、少年の肌を汚した。それを視界に捉えると先ほど解放したばかりの熱がまた疼き出す。
 少年を凌辱し汚すことで、より興奮が沸き立つ。脳が痺れて理性が失われてしまい、もう自分では止められないのだ。
 少年の中から自身を引き抜き、少年の体を俯せにさせる。何度も見ているというのに少年の背中のラインに魅了される。
 細い首筋に唇を落とし、痕を残す。だが、それだけでは自分の中の独占欲が満たされることがなく、歯を立ててその肩口に噛み付いた。
 そして、そのまま突き上げる。同時に襲ってきた二つの衝撃に、少年の口から悲鳴が上がる。
 すまない、そう思いながらも止められない。軽く血の滲んだ歯型の痕に舌を這わせる。
 愛しくて愛しくて。
 こんなの間違っている。わかっていても、こうしていないと満たされないのだ。
「カイリ……」
 名を呼び、そしてまた何度も少年を貫く。
 上がる嬌声が、淫猥な水音が、苦痛に歪む顔が、駆け上がってくる快感が、満たされる独占欲が、罪の意識を凌駕する。


 もう止められない。












 初めてカイリを抱いたのは、もう数年前になる。まだ入団したばかりの頃だったか。

 入団前からフィンガーフート伯の元で小間使い扱いをされている孤児だと聞かされていたため、多少は他の団員より目をかけてやろうと思っていた。
 恐らくフィンガーフートの屋敷でも辛い扱いを受けていただろうし、その息子のスノウもとんだバカ息子だ。きっと身も心も擦り減ってしまっているだろう。
 その屋敷から離れ、海上騎士団の館で暮らすようになるとはいえ、フィンガーフートと縁が切れるわけではない。だから、この館で暮らす間は息子のように接して、可愛がって上げようと思っていた。

 だが、カイリを見てしまったその時から俺の思いは歪んでしまった。

 確かに他の誰より優しく接してはいただろう。
 カイリは良い子だった。素直で従順で、フィンガーフートの屋敷で酷い仕打ちを受けていたとは思えないほど快活で明るくて、なにより周りの人間を引き付ける何かを持っていた。
 俺も最初はそれに引き付けられたのだろうと錯覚し、思い込もうとしていた。可愛い子だと目にかけた。
 しかし――俺の思いはいつしか狂い、あの子を息子と思うどころか、俺はあの子に欲情していた。
 訓練後に赤く上気した肌を見るたび、その唇が目の前で開かれるたび、堪え難いほどの興奮を体に覚え、犯し尽くしてしまいたい欲求に駆られた。

 そんな生殺しのような日が数週間続き、とうとう欲望は爆発した。

 何がきっかけだったかは覚えていない。ただ、あの日は理性を失うほど酒に飲まれていた。自室で泥酔した俺は、階下のカイリの部屋へと向かい、暴れるあの子を無理矢理押さえ付け、強姦した。
 それ以来、俺は毎晩のようにカイリを犯した。
 頭では罪であると理解出来ていても、あの子の白い肌が、細い手足が、涙を零す青い大きな瞳が、苦痛と快楽に歪む顔が、俺を狂わせるのだ。
 可愛がって上げたいのに、優しくしてやりたいのに、思いとは裏腹にあの子の体と心に爪痕ばかりを残してしまう。
 今日もそうだ。昼間は普段通りに接することが出来るのに、夜を迎えると堪え難い肉欲に蝕まれ、理性を失い、俺はカイリを犯すのだ。
 こうしていないと満たされない。こうしていないと、カイリがどこかへ行ってしまいそうで。
 嫌われても疎まれても、それでもカイリが欲しくて堪らない。

 欲は鎮まるどころかエスカレートする。その内、カイリを壊してしまうのではないかと恐怖に怯えながらも、俺は俺を止められないのだ。
 あの子を目の前にすると、その体に触れたくて気が触れる。


 もしかしたら、俺は待っているのかも知れない。いつか、自らに罰が下ることを――








 ――ズキンッ。
 左手に宿った黒い紋章が痛みを発する。背筋を貫かれるような、その痛みで我に返った俺の腕の中ではカイリが意識を手放していた。
 白い体を白濁で汚し、弾け飛んだ欲望が汚れたシーツにシミを重ねている。シーツを取り替える余裕もないのだろう、使い晒したシーツには前回か前々回の性交の後が色濃く残されている。
 シーツの上に投げ出された肢体は、それでも誘惑的だ。視界に捉えてしまうとまた黒い欲望が沸いて来る。
 ――ズキンッ。
 またもや紋章が痛みを発する。まるで暴走する俺を引き止めるように、嘲笑うように。
 左手に視線を落とすと、渦を巻くような黒い紋章から不気味な光が溢れ出す。

 ――どれだけお前は罪を深めるのか――

 笑うような声が脳内に響く。
 この紋章が何なのかは知らない。だが、この紋章は俺を選んだのだろう。
 そうだとでも言わんばかりに紋章の宿った手の甲から肩にかけて、貫かれるような激しい痛みが走り思わず声が漏れた。
「……ぐうっ!」
 罪を深めれば深めるほど、紋章の黒い光は強さと濃さを増してゆく。自らの意志を強めて、俺の意識を喰らおうとする。
 罪には罰を、与えるために。

「……だん、ちょう……?」
 漏らした呻きに目を覚ましたのか、カイリが気怠そうに身を起こした。未だ涙で得るんだ目の回りは腫れて、疲労が色濃く見える。
 カイリは重い体を引きずりながら、俺に身を寄せた。肩に頭を凭れ、長い睫毛に彩られた瞳を閉じる。
「団長……」
 そして、譫言のように俺を呼ぶ。
 愛しくて愛しくて、抱き寄せてしまいたい気持ちと、愕然とする自分がいる。
 嫌われているだろうと、疎まれているだろうと。この子になら殺されても良いと覚悟していたのに無理矢理、身体を強要している俺に身を寄せてくるなどと、思ってもみなかった。
「……だんちょ」
 また呟いて、カイリは寝息を立て始めた。無防備に身を預けて。

 その髪を優しく撫でる。
 こんな罪深い俺を、受け入れてはいけない。許してはいけない。それではカイリを不幸にしてしまう。止めようのない欲望に負けて、いつかカイリを壊してしまうかも知れない。
 それだけは避けなくてはならない。

 カイリの体をベッドに横たえ、部屋を出る。もう二度とカイリに触れないことを心に誓って。




 これ以上、罪は犯せない。










 ズウウン……!
 立て続けに起こる振動に建物が悲鳴を上げる。頑丈に作られた建物ではあるが、こうも立て続けに紋章砲を食らってはそう長くは持たないだろう。
 壁と天井との結合部分に黒い亀裂が走り、パラパラと砂が振り落ちてくる。
 カタリナに言って、海上騎士団の館からは人払いをさせた。館が崩れたところで被害は俺一人で済むだろうが、守るものを失えば騎士団員の士気が下がる。せめて追い払うまで持てば良いが。

 ドオンッ!
 足元から突き上げるような振動が襲ってくる。これは確実に直撃したな、館の壁に大穴でも開けられたのだろう。
 窓から港を見下ろすと、港は火の海と化していた。ガイエン艦と思われる船が何隻も沈み、雨のように次々と紋章砲が降り注いでいる。
 いくらなんでも多勢に無勢だ。騎士団員の努力も虚しく、海賊たちが次々と上陸して来ている。
 俺が動ければ直接、兵に指示が出せるのだが。悔しさと不甲斐なさに指先に力が篭る。
 しかし窓枠を掴む左手に、もう感覚はない。絶えることなく続く痛みと痺れに、左半身はすでに感覚が失しなわれ、毎夜繰り返される悪夢で精神的にも肉体的にもガタが来ている。港に出向いたところで、俺に出来ることは何もないだろう。
 カタリナが上手く動いてくれているようだ。兵たちもこの先の見えない異常事態の中で、自分に出来ることを成してくれている。皆、愛するラズリルを守るために奔走しているのだ。
 しかし、いくらなんでも数が違い過ぎる。兵の数が追い付いていない、しかも突然の奇襲。このままでは町に大きな被害を被るだろう。いや、最悪ラズリルが落ちる可能性もある。

 なにより、カイリは無事でいるだろうか。あの子は賢く、実力もある。しかし、こんな混戦の中では背後からの攻撃など常套手段の一つだ、どんなに剣の腕が立つ人間もこればかりは防ぎようがない。
 狭い視界の中にカイリらしい姿はない。あの子のことだ、町には行かず館周辺にいると思うのだが。
 行くべきか行かぬべきか。行ったところで剣など握れぬ。しかし、カイリだけは守りたいのだ。
 カイリのためにこの命をかけること、それが俺に出来るたった一つの償い。

 ブゥン……ッ。
 左手から一対の翼のような黒い光が立ち上る。翼は己の存在を誇示するかのようにバサリと空を打つ。
 ――使えと、言うのか。
 本能的にはわかっている。この紋章を使えば、この状況を打破出来ると。そして、その後自分がどうなるのかも。
 ドオオンッ!
 また紋章砲が着弾したのだろう、足元が大きく傾ぐ。窓の外の火の手は強まり、海上騎士団員の姿が減って行く。

 不意に、笑うカイリの顔が思い出された。無邪気に、穏やかに笑みを浮かべる美しい姿。

 そうだ、迷っている場合ではない。今後の騎士団のこと、ラズリルのこと、この攻防の行く末、不安は尽きることはないが、カイリの命を守るためならば、そんなものはどうでも良い。
 あの子が不幸にならなければ、それだけで俺は救われる。

 窓枠を掴む手を離し、重い体を引きずりながら部屋を出る。
 目の前に浮かぶカイリの幻影を追いかけるように屋上までの階段を上がる。
 屋上は熱気に包まれていた。港で燃える炎から発せられた熱風と、屋上に被弾した紋章砲から上がる火の手が渦を巻き、産毛が焼け、息をするのも苦しいほどだ。
 屋上の縁に立ち、赤々と燃える海を見下ろす。燃え上がる炎に照らされ、夜とは思えぬほど空が明るい。
 無意識にカイリの姿を探す。だが、その姿は依然見当たらないままだ。無事だと良いが。出来れば傷の一つも負って欲しくはない。
 そのためには早く終わらせなければ。
 顔を上げ、船に埋め尽くされたラズリルの港を見渡す。この身に宿る紋章がどんなもので、どれほどの力を秘めているかは知らないが、半数も減らせば良い。さすれば海賊共も撤退して行くはずだ。
 とにかく、こちらが態勢を立て直すまで時間が稼げれば良い。時間さえあればガイエン本国からの応援が来る。

 右手で左腕を掴み、宙に差し出す。左手の甲から、ブワリと黒い羽根が出現する。
「……この命、お前にくれてやる」
 途端、女の悲鳴と共に膨大な黒い光の渦が溢れ出した。翼はみるみる大きさを増し、天へと昇っていく黒い靄は徐々に人の形を成していく。
 異常なほど長い腕と指先で屋上の縁を掴むと、それは身を起こした。
 靄なのか光なのか液体なのか、よくわからない何かで出来た細長い体の先、本来顔のあるべき部分には何もなかった。ただ顔の形をした闇が渦巻いているだけだ。
 しかし、その細い顎のラインと首筋、鎖骨には女性を感じる。身体にそれを表すものはないというのに、その異形の怪物が女ではないかと思えたのだ。
 怪物はその背の巨大な羽根をはためかすと、身を前に乗り出した。
 すると闇が漂うだけの顔にガパリと口が開く。頬まで裂けた口で並ぶ歯列の奥に舌はなく、赤と黒が混じり合う混沌が見える。
 怪物は身をくねらせて息を吸い込む仕種を見せると港に標準を合わせ、口腔の奥の混沌を吐き出した。
 つんざくような悲鳴が上がり、大気を震わせる。
 吐き出された黒い閃光は、港を襲う海賊船を次々と燃え上がらせ、船一隻を一瞬で炭へと変えてしまう。
 三分の一ほどの船が消し飛ぶと怪物はまたもや息を吸い込み、続けて悲鳴を上げた。何千、何万もの人間の悲鳴が混じり合い、一つの女の悲鳴となって曇天の夜空に響き渡る。
 悲鳴の後には炭へと変わり果てた船が海面に漂い、先程とは打って変わり港は黒く染まっていた。燃えていた炎も混沌に飲まれ、代わりにぽつりぽつりと雨が降り落ちてくる。
 怪物は身を反らせ天に向かって小さく嘶くと、こちらに顔を向けた。今度はお前の番だとでも言うように。
 ちらりと視線だけで港を確認すると、残った海賊船は面舵を切って撤退して行くようだった。
 ――ああ、なら良い。もう思い残すことはない。海上騎士団の今後はカタリナが上手く計らってくれる。この紋章も次に移るべき人間が近くいなければ、俺と一緒に朽ちてゆくだろう。
 カイリ、カイリは無事でいるだろうか。ただ一つ気掛かりがあるとすれば、カイリの無事それだけだ。最期に一目、無事な姿を見ておきたかった。
 目の前の巨大な顔が口を開く。その中の渦巻く混沌に人の姿が見える。金髪の女性、金髪の少年、白髪の男、海賊ブランド……この紋章に命を喰われ、この暗い闇の中を永遠にさ迷っているのだろう。
 俺もこの一部となる。だが、恐ろしくはない。俺などこの世界から消えてしまった方が良い。
 ゴウッと風を唸らせ、怪物の口の中へと飲み込まれる。真っ黒な視界の中で、ペタリペタリと子供の手が触れていく感覚がする。そして体から何かが引きはがされる感覚。ゾワリとした寒気と共に怪物の体がすり抜けて、視界が開ける。
 命を食い尽くした怪物は数度辺りを見回すが、次に取り憑くべき人間を見つけられなかったのだろう、身をくねらせると羽根を折り畳み、左手の紋章の中へと帰って行った。
 これで良い。これで良いのだ。こんな呪われた紋章など、俺と共に滅びれば良い。



「団長……!!」
 薄れゆく意識が、急速に引き戻される。ここにあってはならない、カイリの声で。
 来るな、その叫び声より早く、左手から黒い光が放たれ、それは無情にもカイリの左腕に絡み付いてしまう。
「うっ!」
 小さく呻いたカイリの目が見開かれ、その顔色がドス黒く豹変する。両手で頭を抱えると、自らの体を支えることすら出来なくなったようで、その場で崩折れ膝をついた。
「あ、あぁぁ……っ!」
 見せられているのだ、紋章の中に在る何千、何万もの人の死、その死に様一つ一つを。
「団長!」
 スノウの声がする。俺の体を抱え上げ、何かを言っているようだが、そんなものはもう聞こえない。視界に写るものも聴覚が捉えるものも、カイリただ一人だ。

「……馬鹿もの……」
 どうして来た、この館には近づくなと命令しておいたのに。一番守りたいお前が、この場所に来てしまっては意味がないではないか。
 

 カイリ、守ってやれなくて、すまない。自分の中の欲望を抑えることが出来ず、今まで酷い仕打ちをしてしまって、本当にすまない。この紋章も止めることが出来なかった。



「……すま……ない」



 カイリ、ただお前を愛していたんだ。それが、罪だとも知らずに。







・END・





 ☆お粗末さまでした☆


 たった一回の使用で団長が死んでいったのは、団長がよほど罪深かったからなのかなって考えたら、こんな暗い妄想してました。
 私はグレン×4主に一番萌えます。










 
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