Short.
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「げ……」
その姿を見つけた瞬間、驚くほど低い声が出てしまった。
いつも行くラーメン屋。チェーン店ではなく、店主が個人で経営している。高校に入った頃から通っている店で、此処の塩ラーメンが本当に美味しい。さっぱりとしながら、確かに油分を感じるスープ。いつも麺や具を食べ終わったあとは、スープを全て飲み干してしまう。ちなみに私の一番好きな具はメンマだ。このお店のメンマもまた美味しいが自家製のチャーシューも肉厚なカットで、なかなかイケる。
今日は授業が終わって、たまたま予定が空いていたし、お腹が減っていたからこのお店に寄ったのだが……。
それが、とんだ間違いだった。
ボックス席に座る紺色の髪の男。漣ジュン。シトリンのような金色の瞳。その猫みたいな瞳が僅かばかりに見開かれている。食べかけのギョーザを箸で掴んでいるのが見えた。
――なに、呑気にギョーザ、頼んでんの。まさか此処のギョーザもかなりイケるの知ってたの、こいつ……。
「あら、いらっしゃい!」
「あ、こんにちは。……めちゃくちゃ流行ってますね。席、空いてますか?」
「お陰様でね。ごめんなさい、いま、満席で……。相席なら、すぐ通せるんだけど……」
申し訳なさそうに笑う女性は、店主の奥様だ。気さくな優しい方で、炒飯がすごく美味しい。たまーに、サービスで少し多めに盛ってくれる。女子といえど、ご飯はガッツリと食べたいので、そういう気遣いがかなり嬉しい。
さて。
どうやら、相席らしいが……店内を見渡す限り、相席出来そうなところは漣ジュンが座っているボックス席しか見当たらない。あいつと相席するくらいなら、出直した方がいいが……残念ながら、私のお腹はかなり限界を迎えている。出直す気はさらさらなかった。
「相席で、大丈夫です」
「そう? ごめんなさいね」
「そんな。お店が流行ってるのはいい事じゃないですか」
話しながら、ボックス席へと近づく。私の姿を見ながら、マジか、という驚きの顔を作る漣ジュンに奥さんが声をかけた。
「ごめんなさい、相席お願いできますか?」
「え、あ、ああ……いいっすけど……」
「ごめんなさい、ありがとう。……いま、お水持ってくるわね」
「ありがとうございます」
奥さんが下がると、私はあいつの斜め前に座った。横に鞄を置いて、メニュー表を眺める。
「……アンタもこの店、来るんすね」
「それなりにね」
今日は、どうしようか。定番の塩ラーメンと炒飯のセットにギョーザをつけようか。塩ラーメンならコーンバターをトッピングするのも有りだ。いや、醤油と煮卵も捨て難い。味噌にキムチをトッピングするのもいい。久々に豚骨もいいな。
「はい、お水。メニューは決まった?」
「あー……そうですね、塩ラーメン、コーンバタートッピングとミニ炒飯、それにギョーザお願いします」
「はい、塩コーンバターにミニ炒飯、ギョーザね」
水の入ったコップをテーブルに置き、手早くメモを取った奥さんは「ちょっと待っててね」と笑顔を浮かべて、厨房に戻って行った。
「……」
「……」
……なんだ、この沈黙は。気まずいわけではないが、全く知らない関係でもない。だが何かしらの話題を振るのも気が引ける。結局、少しだけ悩んでから、沈黙を誤魔化すために水をひとくち飲んだ。
ちなみに。
私は、この男が苦手だ。同じ学校に通うクラスメイトでもあるが、ほとんど挨拶すらしたことが無い。あの猫のような目に見られると、どうも萎縮してしまう。世間では影だなんだと言われているが、瞳の光だけはどうも強烈なのも苦手なところだ。
おそらく向こうも私のことが苦手だろう。派手な金髪に、メイク。お気に入りの香水をつけて、制服は少しだけ着崩している。上下関係が厳しい学校だから、先輩方から目をつけられることもあったが、結局は実力主義の世界。下のものが何を言おうと、実力が上の人間には響かない。
「はい、お待ちどうさま」
結局お互い、何も話すことなく、やがて奥さんがラーメンと炒飯を持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
「ごめんね、ギョーザはもうちょっと待ってて」
「大丈夫です、ありがとうございます」
目礼だけして備え付けの割り箸を手に取り、両手を合わせる。
「いただきます」
ぱきん、と箸を割ったら、まずはスープから。左手にレンゲを持って、塩ラーメンのスープを啜る。このあっさりとした味。バター独特のまろやかなコクもいい具合に溶けだしている。やっぱり塩が一番好きだな。
続けて、麺を頂く。ちぢれ麺にスープが絡み、勢いよく啜っていく。此処のラーメン屋は、麺も自家製だ。細めながらもちっとした食感が2口目、3口目、と、どんどん食べ進めてしまう。
ミニ炒飯にも手を伸ばす。炒飯の中には細かくカットされた自家製チャーシューが入っており、熱された油の匂いが食欲を擽る。レンゲですくって、大きく口を開ける。美味しい……美味しい、が。
「……なに」
食べている最中、あいつからの視線を感じた。
「いや……」
「そんなに見られてると、食べづらい」
「とてもそんな風には見えねえっすけどね」
言われた言葉は店内の喧騒と、私がラーメンを啜る音にかき消された。
「……っていうか、そもそもあんたの方こそ、こういう店、来るんだね」
「まあ。ラーメン好きなんで」
「へえ……」
そこからは無心でラーメンを食べ進めた。途中、炒飯も挟みながら。あいつからの視線はまだ少し感じていたけれど、そもそも仲がいい関係でもない。そこまで交わす言葉もなく、私は順調に食事を進めていた。
「ごめんね、お待ちどう。ギョーザだよ」
「ありがとうございます……あれ、多くないですか?」
やがて、テーブルにギョーザが運ばれてきたが、奥さんが持ってきてくれたお皿にはいつもより1個多く乗っていた。確か、5個のものを頼んだはずだけれど、あれ。間違えて注文しただろうか。
「ああ、それはサービス。2人で仲良く食べなさいって、旦那が」
「えっ。すみません、ありがとうございます……」
「ありがとうございます……!」
2人して小さく頭を下げた。いいの、いいの、なんて奥さんは笑って「じゃあ、ごゆっくり」と、戻って行く。
「……食べなよ。此処のギョーザ、美味しいよ」
「知ってますけど……」
「2人でって戴いたんだし、1人で食べんのも気が引けるし。……どうぞ」
軽くギョーザの皿をあいつ側に寄せると、私とお皿を何度か見てから、「……いただきます」と小さく言ってから手をつけた。
「美味しいよね、此処のギョーザ。いや、まあラーメンも炒飯も美味しいけど」
「醤油に煮卵とか、味噌にキムチ入れんの最高っすよね」
「それ。……結構、此処来んの? 来るなら、裏メニュー教えたげるけど」
「裏メニュー?」
「そ、角煮丼。豚バラブロックをじっくりと醤油や麺つゆ、生姜で煮込んだ角煮がたっぷり乗った丼物なんだけどね。常連しか知らないの。ちなみに煮卵付き。……今度頼んでみなよ。くせになるくらい、美味しいから」
「へえ……初めて聞きました。今度食ってみます」
と、ここまで話しておいてなんだが、何を私は少し盛り上がってるんだ。こいつのことは苦手だっただろう。
「……てっきり、アンタには嫌われてると思ってました」
「嫌ってはいないよ。苦手ではあるけど」
「それ、本人に面と向かって言う事っすかぁ……?」
「ごめんね、本心が口をついて出ちゃったみたい」
「いい性格、してますねぇ……」
「よく言われる」
最後のギョーザを口に放り込んで、咀嚼する。このニンニクの効きっぷりがたまらない。
塩ラーメンも、炒飯もギョーザも全部食べ終わった。さて、と。両手を合わせて、
「ご馳走様でした」
「さっきっから思ってましたけど」
「なに?」
「意外と、『ちゃんと』してますよねぇ……」
「意外と、ってなに」
「いや、見かけによらずそういう挨拶とか、言うんだなって」
「……普通でしょ、こんくらい」
言ってから、水をひとくち飲む。……いやまあ、確かに最近では『いただきます』を言わない子もいるとかいうけども。それでもやっぱり私の中では普通のことだ。
「じゃあ、私、先に出るから」
伝票を持って、レジに向かおうとする私を漣ジュン止めた。
「なに?」
「それ、オレの分も入ってるんで」
「あー……」
伝票を見て思う。さすがに奢る関係ではない。仕方なく、一緒にレジに向かった。
会計を済ませ、店を出ると空が赤くなっていた。そりゃあそうか、放課後に来たんだし。そこそこ長居したし、こんな時間になっていてもおかしくない。
「じゃあ私、ここで」
「どっか寄るんすか?」
「いや、真っ直ぐ帰るけど」
「どうせ、寮に帰んなら、いっしょに帰りません?」
「えぇ……あんたさあ、自分が超人気アイドルってこと、わかってる?いくら同じ学校だからって、女と歩いてるとこなんて撮られたら、大変だよ。……ほら、わかったら、行った行った」
「……じゃあ、また明日」
「あ、うん、また明日」
ひらり、と右手を振って歩き出したあいつの後ろ姿を見ながら、思う。
まあ、意外と悪いやつではないのかもしれない。いや、そもそも悪いやつではないんだけど。なんというか、持っていた苦手意識がなくなった。
――今度は、あいつを誘ってラーメン食べに行くか。
そんなことを考えてしまうくらいには。
その姿を見つけた瞬間、驚くほど低い声が出てしまった。
いつも行くラーメン屋。チェーン店ではなく、店主が個人で経営している。高校に入った頃から通っている店で、此処の塩ラーメンが本当に美味しい。さっぱりとしながら、確かに油分を感じるスープ。いつも麺や具を食べ終わったあとは、スープを全て飲み干してしまう。ちなみに私の一番好きな具はメンマだ。このお店のメンマもまた美味しいが自家製のチャーシューも肉厚なカットで、なかなかイケる。
今日は授業が終わって、たまたま予定が空いていたし、お腹が減っていたからこのお店に寄ったのだが……。
それが、とんだ間違いだった。
ボックス席に座る紺色の髪の男。漣ジュン。シトリンのような金色の瞳。その猫みたいな瞳が僅かばかりに見開かれている。食べかけのギョーザを箸で掴んでいるのが見えた。
――なに、呑気にギョーザ、頼んでんの。まさか此処のギョーザもかなりイケるの知ってたの、こいつ……。
「あら、いらっしゃい!」
「あ、こんにちは。……めちゃくちゃ流行ってますね。席、空いてますか?」
「お陰様でね。ごめんなさい、いま、満席で……。相席なら、すぐ通せるんだけど……」
申し訳なさそうに笑う女性は、店主の奥様だ。気さくな優しい方で、炒飯がすごく美味しい。たまーに、サービスで少し多めに盛ってくれる。女子といえど、ご飯はガッツリと食べたいので、そういう気遣いがかなり嬉しい。
さて。
どうやら、相席らしいが……店内を見渡す限り、相席出来そうなところは漣ジュンが座っているボックス席しか見当たらない。あいつと相席するくらいなら、出直した方がいいが……残念ながら、私のお腹はかなり限界を迎えている。出直す気はさらさらなかった。
「相席で、大丈夫です」
「そう? ごめんなさいね」
「そんな。お店が流行ってるのはいい事じゃないですか」
話しながら、ボックス席へと近づく。私の姿を見ながら、マジか、という驚きの顔を作る漣ジュンに奥さんが声をかけた。
「ごめんなさい、相席お願いできますか?」
「え、あ、ああ……いいっすけど……」
「ごめんなさい、ありがとう。……いま、お水持ってくるわね」
「ありがとうございます」
奥さんが下がると、私はあいつの斜め前に座った。横に鞄を置いて、メニュー表を眺める。
「……アンタもこの店、来るんすね」
「それなりにね」
今日は、どうしようか。定番の塩ラーメンと炒飯のセットにギョーザをつけようか。塩ラーメンならコーンバターをトッピングするのも有りだ。いや、醤油と煮卵も捨て難い。味噌にキムチをトッピングするのもいい。久々に豚骨もいいな。
「はい、お水。メニューは決まった?」
「あー……そうですね、塩ラーメン、コーンバタートッピングとミニ炒飯、それにギョーザお願いします」
「はい、塩コーンバターにミニ炒飯、ギョーザね」
水の入ったコップをテーブルに置き、手早くメモを取った奥さんは「ちょっと待っててね」と笑顔を浮かべて、厨房に戻って行った。
「……」
「……」
……なんだ、この沈黙は。気まずいわけではないが、全く知らない関係でもない。だが何かしらの話題を振るのも気が引ける。結局、少しだけ悩んでから、沈黙を誤魔化すために水をひとくち飲んだ。
ちなみに。
私は、この男が苦手だ。同じ学校に通うクラスメイトでもあるが、ほとんど挨拶すらしたことが無い。あの猫のような目に見られると、どうも萎縮してしまう。世間では影だなんだと言われているが、瞳の光だけはどうも強烈なのも苦手なところだ。
おそらく向こうも私のことが苦手だろう。派手な金髪に、メイク。お気に入りの香水をつけて、制服は少しだけ着崩している。上下関係が厳しい学校だから、先輩方から目をつけられることもあったが、結局は実力主義の世界。下のものが何を言おうと、実力が上の人間には響かない。
「はい、お待ちどうさま」
結局お互い、何も話すことなく、やがて奥さんがラーメンと炒飯を持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
「ごめんね、ギョーザはもうちょっと待ってて」
「大丈夫です、ありがとうございます」
目礼だけして備え付けの割り箸を手に取り、両手を合わせる。
「いただきます」
ぱきん、と箸を割ったら、まずはスープから。左手にレンゲを持って、塩ラーメンのスープを啜る。このあっさりとした味。バター独特のまろやかなコクもいい具合に溶けだしている。やっぱり塩が一番好きだな。
続けて、麺を頂く。ちぢれ麺にスープが絡み、勢いよく啜っていく。此処のラーメン屋は、麺も自家製だ。細めながらもちっとした食感が2口目、3口目、と、どんどん食べ進めてしまう。
ミニ炒飯にも手を伸ばす。炒飯の中には細かくカットされた自家製チャーシューが入っており、熱された油の匂いが食欲を擽る。レンゲですくって、大きく口を開ける。美味しい……美味しい、が。
「……なに」
食べている最中、あいつからの視線を感じた。
「いや……」
「そんなに見られてると、食べづらい」
「とてもそんな風には見えねえっすけどね」
言われた言葉は店内の喧騒と、私がラーメンを啜る音にかき消された。
「……っていうか、そもそもあんたの方こそ、こういう店、来るんだね」
「まあ。ラーメン好きなんで」
「へえ……」
そこからは無心でラーメンを食べ進めた。途中、炒飯も挟みながら。あいつからの視線はまだ少し感じていたけれど、そもそも仲がいい関係でもない。そこまで交わす言葉もなく、私は順調に食事を進めていた。
「ごめんね、お待ちどう。ギョーザだよ」
「ありがとうございます……あれ、多くないですか?」
やがて、テーブルにギョーザが運ばれてきたが、奥さんが持ってきてくれたお皿にはいつもより1個多く乗っていた。確か、5個のものを頼んだはずだけれど、あれ。間違えて注文しただろうか。
「ああ、それはサービス。2人で仲良く食べなさいって、旦那が」
「えっ。すみません、ありがとうございます……」
「ありがとうございます……!」
2人して小さく頭を下げた。いいの、いいの、なんて奥さんは笑って「じゃあ、ごゆっくり」と、戻って行く。
「……食べなよ。此処のギョーザ、美味しいよ」
「知ってますけど……」
「2人でって戴いたんだし、1人で食べんのも気が引けるし。……どうぞ」
軽くギョーザの皿をあいつ側に寄せると、私とお皿を何度か見てから、「……いただきます」と小さく言ってから手をつけた。
「美味しいよね、此処のギョーザ。いや、まあラーメンも炒飯も美味しいけど」
「醤油に煮卵とか、味噌にキムチ入れんの最高っすよね」
「それ。……結構、此処来んの? 来るなら、裏メニュー教えたげるけど」
「裏メニュー?」
「そ、角煮丼。豚バラブロックをじっくりと醤油や麺つゆ、生姜で煮込んだ角煮がたっぷり乗った丼物なんだけどね。常連しか知らないの。ちなみに煮卵付き。……今度頼んでみなよ。くせになるくらい、美味しいから」
「へえ……初めて聞きました。今度食ってみます」
と、ここまで話しておいてなんだが、何を私は少し盛り上がってるんだ。こいつのことは苦手だっただろう。
「……てっきり、アンタには嫌われてると思ってました」
「嫌ってはいないよ。苦手ではあるけど」
「それ、本人に面と向かって言う事っすかぁ……?」
「ごめんね、本心が口をついて出ちゃったみたい」
「いい性格、してますねぇ……」
「よく言われる」
最後のギョーザを口に放り込んで、咀嚼する。このニンニクの効きっぷりがたまらない。
塩ラーメンも、炒飯もギョーザも全部食べ終わった。さて、と。両手を合わせて、
「ご馳走様でした」
「さっきっから思ってましたけど」
「なに?」
「意外と、『ちゃんと』してますよねぇ……」
「意外と、ってなに」
「いや、見かけによらずそういう挨拶とか、言うんだなって」
「……普通でしょ、こんくらい」
言ってから、水をひとくち飲む。……いやまあ、確かに最近では『いただきます』を言わない子もいるとかいうけども。それでもやっぱり私の中では普通のことだ。
「じゃあ、私、先に出るから」
伝票を持って、レジに向かおうとする私を漣ジュン止めた。
「なに?」
「それ、オレの分も入ってるんで」
「あー……」
伝票を見て思う。さすがに奢る関係ではない。仕方なく、一緒にレジに向かった。
会計を済ませ、店を出ると空が赤くなっていた。そりゃあそうか、放課後に来たんだし。そこそこ長居したし、こんな時間になっていてもおかしくない。
「じゃあ私、ここで」
「どっか寄るんすか?」
「いや、真っ直ぐ帰るけど」
「どうせ、寮に帰んなら、いっしょに帰りません?」
「えぇ……あんたさあ、自分が超人気アイドルってこと、わかってる?いくら同じ学校だからって、女と歩いてるとこなんて撮られたら、大変だよ。……ほら、わかったら、行った行った」
「……じゃあ、また明日」
「あ、うん、また明日」
ひらり、と右手を振って歩き出したあいつの後ろ姿を見ながら、思う。
まあ、意外と悪いやつではないのかもしれない。いや、そもそも悪いやつではないんだけど。なんというか、持っていた苦手意識がなくなった。
――今度は、あいつを誘ってラーメン食べに行くか。
そんなことを考えてしまうくらいには。