小話

「雨宿り」

突然の雨に降られたので近くの建物へと駆け込んだが、全身びしょ濡れになってしまった。


ラジオでにわか雨に気をつけろと言っていたのを思い出し、傘を持って行かなかったことに後悔するが、もう遅い。


周辺には時間を潰せるような店は無く、雨が止むまでは、この場から動けそうにもない。


長くここにいるわけではないので、雨音を聴きながらのんびりと待つのはいいが、問題が一つある。




そう、となりにいるこいつだ。




運悪くたまたまここで居合わせたのだが、先ほどからこちらを見向きもしないし、濡れた髪に隠れて表情がまったく見えない。


普段はヤナップみたいなくせっ毛が、雨に濡れると肩まであって意外と長いんだなと思ってしまったが、そんなのはどうでもいい。


どうした、いつもの余裕なお前はどこにいったんだ。


時間、空間、思考の全てをこいつに占拠されてしまい、腹が立って仕方がない。


苛立っていることを本人に気づかれたら負けだと思い、この感情が自分の中から溢れ出ないよう徹することにした。


少し時間が経ってから隣を向くと、髪の隙間から頬がほんのりと紅く染まっているのが確かにこの眼に見えた。


...いや。



...まさか。






お前、照れているのか...?



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