0話
フォレスト序◎
炎が肌を焦がす。熱された空気が肺を焼く。振り落ちる火の粉、響く悲鳴と怒号。[#dn=2#]は燃え盛る村の中を走っていた。 閉鎖された小さな村だったのに。何もかもいつも通りだったのに。
「私のせいだ……」
「本当に……?」
「あんなの自業自得だったじゃないか」
----------
その日もいつも通り、[#dn=2#]は薄暗い部屋の中で静かに本のページをめくっていた。
外の天気はおそらく曇り。降っている音はしないけど、少しだけ雨の匂いがするからだ。
紙の音だけがだだっ広いお座敷に響く。
ー つまらない
このお部屋での唯一許された娯楽。この本だってもう空で朗読できるだろう。母が亡くなってからは新聞も読んでいない。ただただ乾いたページをめくる事に飽きて、本棚に戻そうとした時だった。
「キャァァァァァ!!!」
甲高い悲鳴が響いた。部屋の障子を少し開けて廊下を覗くと、家人や使用人達が慌ただしく行き交っている。中には刀を携えている者もいた。
「[#dn=2#]!!奥に隠れていなさい!」
「お、お父様、これは一体……」
「いいから、お前は部屋から出るな!!」
「は、はい」
物々しい雰囲気に怯え、大人しく部屋の隅に布団をかぶってしゃがみ込んだ。聞き耳を立てると怒号や悲鳴の中に知らない声が混ざっている。
ー血の匂い…知らない匂い……村が襲われてる
ドクドクドクと激しい心拍と反して、慌ただしい足音と喧騒が徐々に消えていく。騒ぎが落ち着いたのだろうか。
ーいや、違う、これは……
[#dn=2#]は意を決してそっと部屋を出た。屋敷には誰の姿もない。外がやけに明るい。温く流れる風は焦げ臭い。
「どうなってるの……」
ギシ…ギシ…
足音がゆっくりと、踏みしめるように近づいてくる。さっと血の気が引いた。これは、村の人じゃない。逃げようと後ずさった時……
ギッ……
[#dn=2#]の足元の床が軋んだ。その音に気づいたのだろう。廊下の角から武器を手にした男達が現れた。
「居たぞ。あれだな」
「あぁ。あれがこの村の巫女だ」
[#dn=2#]は踵を返して駆け出した。裸足のままで屋敷の外に飛び出した瞬間、目の前の光景に愕然とした。 村はほとんどが木造の建物で、小さな火種は瞬く間に村を包む大火災となっていた。
背後から[#dn=2#]を追う声が聞こえる。[#dn=2#]は燃え盛る村の中を駆け抜けた。嫌な臭いが鼻をつく。肉の焼ける臭い。
ーあぁ、これはもう、誰もいない。あの人たちは私を殺しにきたんだ。村の人たちが殺されたのも、私のせいだ。
煤で目が痛い。煙のせいで肺も痛い。胸を押さえて咳き込みながらうずくまった。部屋からほとんど出ていなかったこの足ではもう走れない。追っ手の足音が近づいてくる。霞んできた視界に見えたのは、焔の色を反射した刀身だった。
ーあぁ、もうここでおしまいなら…せめて、痛くありませんように。
炎が肌を焦がす。熱された空気が肺を焼く。振り落ちる火の粉、響く悲鳴と怒号。[#dn=2#]は燃え盛る村の中を走っていた。 閉鎖された小さな村だったのに。何もかもいつも通りだったのに。
「私のせいだ……」
「本当に……?」
「あんなの自業自得だったじゃないか」
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その日もいつも通り、[#dn=2#]は薄暗い部屋の中で静かに本のページをめくっていた。
外の天気はおそらく曇り。降っている音はしないけど、少しだけ雨の匂いがするからだ。
紙の音だけがだだっ広いお座敷に響く。
ー つまらない
このお部屋での唯一許された娯楽。この本だってもう空で朗読できるだろう。母が亡くなってからは新聞も読んでいない。ただただ乾いたページをめくる事に飽きて、本棚に戻そうとした時だった。
「キャァァァァァ!!!」
甲高い悲鳴が響いた。部屋の障子を少し開けて廊下を覗くと、家人や使用人達が慌ただしく行き交っている。中には刀を携えている者もいた。
「[#dn=2#]!!奥に隠れていなさい!」
「お、お父様、これは一体……」
「いいから、お前は部屋から出るな!!」
「は、はい」
物々しい雰囲気に怯え、大人しく部屋の隅に布団をかぶってしゃがみ込んだ。聞き耳を立てると怒号や悲鳴の中に知らない声が混ざっている。
ー血の匂い…知らない匂い……村が襲われてる
ドクドクドクと激しい心拍と反して、慌ただしい足音と喧騒が徐々に消えていく。騒ぎが落ち着いたのだろうか。
ーいや、違う、これは……
[#dn=2#]は意を決してそっと部屋を出た。屋敷には誰の姿もない。外がやけに明るい。温く流れる風は焦げ臭い。
「どうなってるの……」
ギシ…ギシ…
足音がゆっくりと、踏みしめるように近づいてくる。さっと血の気が引いた。これは、村の人じゃない。逃げようと後ずさった時……
ギッ……
[#dn=2#]の足元の床が軋んだ。その音に気づいたのだろう。廊下の角から武器を手にした男達が現れた。
「居たぞ。あれだな」
「あぁ。あれがこの村の巫女だ」
[#dn=2#]は踵を返して駆け出した。裸足のままで屋敷の外に飛び出した瞬間、目の前の光景に愕然とした。 村はほとんどが木造の建物で、小さな火種は瞬く間に村を包む大火災となっていた。
背後から[#dn=2#]を追う声が聞こえる。[#dn=2#]は燃え盛る村の中を駆け抜けた。嫌な臭いが鼻をつく。肉の焼ける臭い。
ーあぁ、これはもう、誰もいない。あの人たちは私を殺しにきたんだ。村の人たちが殺されたのも、私のせいだ。
煤で目が痛い。煙のせいで肺も痛い。胸を押さえて咳き込みながらうずくまった。部屋からほとんど出ていなかったこの足ではもう走れない。追っ手の足音が近づいてくる。霞んできた視界に見えたのは、焔の色を反射した刀身だった。
ーあぁ、もうここでおしまいなら…せめて、痛くありませんように。