第一話
教室は、今日も騒がしかった。
派手に飾り立てた人たちの隅で、僕は音楽を聴いていた。
脳に響くベースの心地良さに浸っていると、不意に肩を叩かれた。
「蒼太、おはよ!」
「……一叶。おはよう」
幼馴染の、東一叶だった。
彼女は楽しそうに笑いながら、僕の前の席に腰を下ろした。
「相変わらず元気ないな〜、どうした?」
「別にいつも通りだよ。というか、一叶こそ何でここいにいるの?今日、歌唱コースは別授業じゃなかったっけ?」
「そんなんだけどさー、授業午後からだしせっかくならスタジオ行って歌いたいなって」
「なるほどね…」
芸術統合大学。
僕らが通うこの学校は、大学とは名ばかりでほとんど専門学校のような扱いをされている。
芸術全般を担うここでは、細かな分野選択と設備の充実さから毎年多くの学生が入学し、今や立派なマンモス校だ。
僕と一叶は音楽科で、それぞれ作曲コースと歌唱コース。時々コースを跨いだ授業もある関係で、顔を合わせることは多い。
一叶は昔から歌うことが好きで、この大学に来たのも彼女に誘われたことがきっかけだった。
将来に向けてまっすぐな彼女に対して、僕はまだやりたい事が決まらない。
少し興味のあった作曲コースに入れば何か変わると思っていたけど、未だにずるずると当たり障りのない日々を送っている。
授業はそこそこ楽しいし、一人でいても浮かない学校だから過ごす上で不満はない。
けれど、夢を語る同級生の眩しい姿を見るのは少し辛かった。
「ね、こないださ彼氏とカラオケ言ったんだけど、また歌上手いって褒められたんだ〜!」
「へー良かったね」
「反応薄っ!!」
「毎回聞いてるし」
「えー?もっと盛り上がろうよー」
「盛り上がるって何…」
一叶といつものやり取りをしていると、教室に見覚えのない人達が入ってきた。
「あれ?あの子たちは?」
「今日は作詞コースと合同授業なんだ」
「そっか〜」
何気なく、入室の為に連なる人々を眺めた。
年齢不詳の人やとても作詞という繊細な作業をするとは思えない人、色んな人が僕の視線を抜けていく。
その中で、目が合った。
「え……」
遠くまで見渡す大きな目は僕を捉えて、段々と近づいてくる。
背の高い学生の間を縫って、歩いて、机の前で足を止めた。
「小林さん」
僕の名を呼ぶ彼女の声に肩を震わす。
空いた口が塞がらないまま、顔を上げた。
声を出そうとして、ひゅうと息が零れた。
数分、数時間。もしかしたら数秒だったかもしれない。
室内の喧騒が遠く感じた頃、やっと僕の声は音として発された。
「……三藤、さん」
それはまさに、偶然が重なった瞬間だった。
派手に飾り立てた人たちの隅で、僕は音楽を聴いていた。
脳に響くベースの心地良さに浸っていると、不意に肩を叩かれた。
「蒼太、おはよ!」
「……一叶。おはよう」
幼馴染の、東一叶だった。
彼女は楽しそうに笑いながら、僕の前の席に腰を下ろした。
「相変わらず元気ないな〜、どうした?」
「別にいつも通りだよ。というか、一叶こそ何でここいにいるの?今日、歌唱コースは別授業じゃなかったっけ?」
「そんなんだけどさー、授業午後からだしせっかくならスタジオ行って歌いたいなって」
「なるほどね…」
芸術統合大学。
僕らが通うこの学校は、大学とは名ばかりでほとんど専門学校のような扱いをされている。
芸術全般を担うここでは、細かな分野選択と設備の充実さから毎年多くの学生が入学し、今や立派なマンモス校だ。
僕と一叶は音楽科で、それぞれ作曲コースと歌唱コース。時々コースを跨いだ授業もある関係で、顔を合わせることは多い。
一叶は昔から歌うことが好きで、この大学に来たのも彼女に誘われたことがきっかけだった。
将来に向けてまっすぐな彼女に対して、僕はまだやりたい事が決まらない。
少し興味のあった作曲コースに入れば何か変わると思っていたけど、未だにずるずると当たり障りのない日々を送っている。
授業はそこそこ楽しいし、一人でいても浮かない学校だから過ごす上で不満はない。
けれど、夢を語る同級生の眩しい姿を見るのは少し辛かった。
「ね、こないださ彼氏とカラオケ言ったんだけど、また歌上手いって褒められたんだ〜!」
「へー良かったね」
「反応薄っ!!」
「毎回聞いてるし」
「えー?もっと盛り上がろうよー」
「盛り上がるって何…」
一叶といつものやり取りをしていると、教室に見覚えのない人達が入ってきた。
「あれ?あの子たちは?」
「今日は作詞コースと合同授業なんだ」
「そっか〜」
何気なく、入室の為に連なる人々を眺めた。
年齢不詳の人やとても作詞という繊細な作業をするとは思えない人、色んな人が僕の視線を抜けていく。
その中で、目が合った。
「え……」
遠くまで見渡す大きな目は僕を捉えて、段々と近づいてくる。
背の高い学生の間を縫って、歩いて、机の前で足を止めた。
「小林さん」
僕の名を呼ぶ彼女の声に肩を震わす。
空いた口が塞がらないまま、顔を上げた。
声を出そうとして、ひゅうと息が零れた。
数分、数時間。もしかしたら数秒だったかもしれない。
室内の喧騒が遠く感じた頃、やっと僕の声は音として発された。
「……三藤、さん」
それはまさに、偶然が重なった瞬間だった。
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