第一話
何故僕は、さっき会ったばかりの女の子とカフェに来ているのだろうか。
彼女に連れられて来たのは、静かで雰囲気の良いオシャレなカフェだった。
休日の日盛りを一人楽しむ婦人や、小声で笑い合う高校生、読書をする社会人まで様々な人がこの空間で至福の時を過ごしている。
ここで気まづい思いをしてるのは、きっと僕だけだろう。
目の前で真剣にメニューに目を通す彼女をそっと見やる。
どうしてこうなったのか。
お礼なんていいよ。そう言えば良かったのに。
あの目で見られてしまったら、どうにも言えなかった。
「……」
流されやすい自分に小さくため息をつく。
同時に、メニュー表が手元に差し出された。
「何にしますか?」
「あっ、えっ、と」
受け取るがまま、紙面に並ぶ食べ物たちを眺める。
こんなオシャレなカフェは一人じゃ来ないだろうし本当はもっと悩むべき所なのだろうが、何となく目に止まったチーズケーキが美味しそうだったから即決してしまった。
僕の注文を了承した彼女は、そのまま店員さんを呼んでくれた。
「ご注文お伺いします」
「チーズケーキを一つ。あと、ショートケーキとイチゴタルトとシフォンケーキと期間限定さくらケーキをお願いします」
「え……」
さも当たり前のようなトーンで言うもんだから、思わず声が出てしまった。
どう考えても、今のは一人分じゃない。
それにその身体のどこにそれだけの量を入れるスペースがあるのか。
無意識の内に目の前の人物を凝視してしまう。
その視線に気づいたのか、店員を見送った彼女は姿勢を正して僕に向き直った。
「そう言えば自己紹介がまだでしたね。三藤かなえと言います。19歳で専門学校に通ってます」
19歳…やっぱり年下か。
「僕は、小林蒼太。一応大学生、かな。今年で21になるから、君の一個上」
「……小林、さん」
たどたどしく僕の名前を呟く声に、少しだけ心臓が跳ねた。
その時、丁度ケーキが運ばれてきて彼女の意識は大量の甘味に向けられてしまった。
輝かせた瞳で、4皿を見渡す三藤さん。
うん…やっぱり多い。
見ているだけで胃もたれして来そうなそれらを横目に、セットで付いてきた紅茶を飲んだ。
「いただきます」
まるでケーキの神にお祈りでもするかのように深々と合掌した彼女は、フォークで上手にスポンジの部分を切っていく。
一口分はやはり小さく、細やかな破片を上品に口へと運んでいた。
咀嚼をする三藤さんはどこか幸せそうで、心做しか口元が緩んでいた。
さっきから彼女の行動に何か既視感があると思っていたけど、やっと分かった。この子、小動物っぽいんだ。
思えばナンパ男に声を上げた時も、まるで威嚇しているリスみたいだった。
「食べないんですか?」
「えっ、あ、食べる」
僕があまりにも注視していたから痺れを切らしたのかと思ったが、既に2皿目に突入し相変わらず楽しそうにケーキを切る姿を見るに特に気にしている様子はなさそうだった。
安堵の息と共に、チーズケーキを口に入れる。
適度な甘さが身体中に広がり、高級な美味しさだった。
「甘いもの、好きなの?」
「はい。休日はよく喫茶店巡りを」
「へぇ…」
高尚な趣味だ。
「…実はこのお店に来るのは初めてなんです」
「え、そうなの?」
「はい。いつも外から見ててずっと行きたくて…けど、高級感もあるし最初に一人で入るのには少し躊躇いがあったんです」
確かに、店の雰囲気も分からないまま足を踏み入れるのは誰しも一度は躊躇してしまうものだろう。
ほんのちょっと切なそうに、三藤さんは続ける。
「いつも一人なので結局行き慣れたお店に行ってしまうんです。だから、今日小林さんが一緒に来てくれて嬉しかったです」
それは、初めて彼女の笑顔を見た瞬間だった。
ほんの数秒。微笑みを見せたその唇は、すぐに一文字に形を戻した。
「……」
この子は、ずっと一人なのだろうか。
誰かと一緒でなければ新しい店を発掘出来ないほど、その『誰か』を望んでいるのに。
一人は好きだけど、孤独は嫌い。
そう言いたげに揺れる瞳に、僕は勝手に親近感を覚えていた。
「……僕で良ければ、また付き合うけど」
気づけば、そんなことまで口走っていた。
「……」
何を言ってるんだ、僕は。
自分で言った言葉なのに、自分が一番理解出来ていなかった。
普通に考えて、初対面の人にそんなことを言われても困るに決まっている。
それに少し近くに感じたからって、彼女が頼んでもないことを申し出るのは自分勝手だ。
「ご、ごめん。今の忘れて…」
「良いんですか…!?」
丸い目に、光が宿った。
「是非!お願いします!」
「えっ」
机に手をつき、前のめりになる三藤さんに思わず身を引いてしまう。
今日一テンション上がってないか、この子。
言ってしまった後悔が頭を過ぎる。
けれど、ここまで期待させておいて前言撤回するのは流石に気が引けた。
「……はぁ」
今度はさっきよりも嬉しそうに甘味を吸収する三藤さんに聞こえないように、小さくため息をついた。
流されやすい自分に。そして、僕をここまで連れてきた朝の占いに。
彼女に連れられて来たのは、静かで雰囲気の良いオシャレなカフェだった。
休日の日盛りを一人楽しむ婦人や、小声で笑い合う高校生、読書をする社会人まで様々な人がこの空間で至福の時を過ごしている。
ここで気まづい思いをしてるのは、きっと僕だけだろう。
目の前で真剣にメニューに目を通す彼女をそっと見やる。
どうしてこうなったのか。
お礼なんていいよ。そう言えば良かったのに。
あの目で見られてしまったら、どうにも言えなかった。
「……」
流されやすい自分に小さくため息をつく。
同時に、メニュー表が手元に差し出された。
「何にしますか?」
「あっ、えっ、と」
受け取るがまま、紙面に並ぶ食べ物たちを眺める。
こんなオシャレなカフェは一人じゃ来ないだろうし本当はもっと悩むべき所なのだろうが、何となく目に止まったチーズケーキが美味しそうだったから即決してしまった。
僕の注文を了承した彼女は、そのまま店員さんを呼んでくれた。
「ご注文お伺いします」
「チーズケーキを一つ。あと、ショートケーキとイチゴタルトとシフォンケーキと期間限定さくらケーキをお願いします」
「え……」
さも当たり前のようなトーンで言うもんだから、思わず声が出てしまった。
どう考えても、今のは一人分じゃない。
それにその身体のどこにそれだけの量を入れるスペースがあるのか。
無意識の内に目の前の人物を凝視してしまう。
その視線に気づいたのか、店員を見送った彼女は姿勢を正して僕に向き直った。
「そう言えば自己紹介がまだでしたね。三藤かなえと言います。19歳で専門学校に通ってます」
19歳…やっぱり年下か。
「僕は、小林蒼太。一応大学生、かな。今年で21になるから、君の一個上」
「……小林、さん」
たどたどしく僕の名前を呟く声に、少しだけ心臓が跳ねた。
その時、丁度ケーキが運ばれてきて彼女の意識は大量の甘味に向けられてしまった。
輝かせた瞳で、4皿を見渡す三藤さん。
うん…やっぱり多い。
見ているだけで胃もたれして来そうなそれらを横目に、セットで付いてきた紅茶を飲んだ。
「いただきます」
まるでケーキの神にお祈りでもするかのように深々と合掌した彼女は、フォークで上手にスポンジの部分を切っていく。
一口分はやはり小さく、細やかな破片を上品に口へと運んでいた。
咀嚼をする三藤さんはどこか幸せそうで、心做しか口元が緩んでいた。
さっきから彼女の行動に何か既視感があると思っていたけど、やっと分かった。この子、小動物っぽいんだ。
思えばナンパ男に声を上げた時も、まるで威嚇しているリスみたいだった。
「食べないんですか?」
「えっ、あ、食べる」
僕があまりにも注視していたから痺れを切らしたのかと思ったが、既に2皿目に突入し相変わらず楽しそうにケーキを切る姿を見るに特に気にしている様子はなさそうだった。
安堵の息と共に、チーズケーキを口に入れる。
適度な甘さが身体中に広がり、高級な美味しさだった。
「甘いもの、好きなの?」
「はい。休日はよく喫茶店巡りを」
「へぇ…」
高尚な趣味だ。
「…実はこのお店に来るのは初めてなんです」
「え、そうなの?」
「はい。いつも外から見ててずっと行きたくて…けど、高級感もあるし最初に一人で入るのには少し躊躇いがあったんです」
確かに、店の雰囲気も分からないまま足を踏み入れるのは誰しも一度は躊躇してしまうものだろう。
ほんのちょっと切なそうに、三藤さんは続ける。
「いつも一人なので結局行き慣れたお店に行ってしまうんです。だから、今日小林さんが一緒に来てくれて嬉しかったです」
それは、初めて彼女の笑顔を見た瞬間だった。
ほんの数秒。微笑みを見せたその唇は、すぐに一文字に形を戻した。
「……」
この子は、ずっと一人なのだろうか。
誰かと一緒でなければ新しい店を発掘出来ないほど、その『誰か』を望んでいるのに。
一人は好きだけど、孤独は嫌い。
そう言いたげに揺れる瞳に、僕は勝手に親近感を覚えていた。
「……僕で良ければ、また付き合うけど」
気づけば、そんなことまで口走っていた。
「……」
何を言ってるんだ、僕は。
自分で言った言葉なのに、自分が一番理解出来ていなかった。
普通に考えて、初対面の人にそんなことを言われても困るに決まっている。
それに少し近くに感じたからって、彼女が頼んでもないことを申し出るのは自分勝手だ。
「ご、ごめん。今の忘れて…」
「良いんですか…!?」
丸い目に、光が宿った。
「是非!お願いします!」
「えっ」
机に手をつき、前のめりになる三藤さんに思わず身を引いてしまう。
今日一テンション上がってないか、この子。
言ってしまった後悔が頭を過ぎる。
けれど、ここまで期待させておいて前言撤回するのは流石に気が引けた。
「……はぁ」
今度はさっきよりも嬉しそうに甘味を吸収する三藤さんに聞こえないように、小さくため息をついた。
流されやすい自分に。そして、僕をここまで連れてきた朝の占いに。
