第一話
その日は占いの結果が良かった。
ほんの気の迷いだった。
やめて下さい。そんな彼女の声が聞こえて、振り返った。ガタイのいい男に腕を掴まれて、嫌そうな顔をしていた。
助けなきゃ。咄嗟にそう思ったんだ。
普段の僕なら絶対に思わないのに。見て見ぬふりをするのに。
占いを見ながら焼いたパンが美味しかったから、テンションが上がっていたのかもしれない。
とにかく、気づいたら手を離せと言っていた。
「何だお前!!関係ないやつは引っ込んでろ!!」
そう言うのも無理はない。実際関係ないやつだし。
それでもこの時の僕は、引くことはしなかった。
占いの力が凄すぎる、と後になって思う。
「僕は、あー、えっと、そ、その人の彼氏なので!」
我ながら良い判断力だった。演技はお世辞にもどこの賞も取れないような粗末なものだったけど。
相手を払うには一番の理由に思えた。
「彼氏だぁ?」
目だけで人を殺せそうな形相でこちらを思いっきり睨む男。
正直あの演技力で信じたらそれはそれでヤバいと思うが、このまま僕が無関係だとバレたらもっとまずい。
彼女にも迷惑がかかるし、何よりしつこくナンパしてるこいつより何百倍もヤバい人認定をされてしまうに違いない。
それだけは避けなければ。
先程召喚した判断力を駆使すべく脳みそをフル回転させていると、突然彼女が僕の腕に抱きついてきた。
「そうなんです!私、この人の彼女なのでお引き取り願います!」
「んだよ彼氏持ちかよ」
わざと聞こえるような舌打ちをした男は、あのままの目つきで人混みへと消えていった。
「……」
結構あっさりだったな。いや、それよりも。
ほぅ、と安堵の息を吐く彼女は未だに僕の腕を強く抱き締めて離さなかった。
僕の言い訳を利用してくれたのは有難かったが、そういつまでもくっついていられると流石に困る。
「えーっと…」
「……すみません」
僕の声にハッとした彼女は、急いで腕を解き頭を下げた。
「あの、ありがとうございました」
「いえ、全然…」
その時、初めてしっかり彼女の顔を見た。
僕を反射した、可愛らしくて大きな瞳。
けれど何故だか威圧感もあって、思わず息を飲んだ。一文字に結んだ口のせいだろうか。
とにかく、小さいのに気が強そうで愛想の無い顔立ちをしていた。いや、小さいは関係ないか。
「あ、じゃあ、僕はこれで…」
感謝もされたし、もうここに留まる理由は無い。
軽く手を挙げて踵を返すと、突如として身体が後ろに引っ張られた。
「ぐえっ」
「待って下さい」
強くシャツを引かれ、首が締まるかと思った。
「な、何…?」
首元を緩めながら振り返る。
彼女が、まっすぐこちらを見ていた。
「私、これからカフェに行くんです」
「は、はぁ…」
「貴方も一緒に行きましょう」
「えっ、何で僕も…?」
「お礼させて下さい」
「いや大丈夫だから」
「お願いします…!」
今度は強く手を掴まれ、ぐっと距離が近くなる。
その綺麗な眼には、情けなくたじろぐ自分の姿が映っていた。
ほんの気の迷いだった。
やめて下さい。そんな彼女の声が聞こえて、振り返った。ガタイのいい男に腕を掴まれて、嫌そうな顔をしていた。
助けなきゃ。咄嗟にそう思ったんだ。
普段の僕なら絶対に思わないのに。見て見ぬふりをするのに。
占いを見ながら焼いたパンが美味しかったから、テンションが上がっていたのかもしれない。
とにかく、気づいたら手を離せと言っていた。
「何だお前!!関係ないやつは引っ込んでろ!!」
そう言うのも無理はない。実際関係ないやつだし。
それでもこの時の僕は、引くことはしなかった。
占いの力が凄すぎる、と後になって思う。
「僕は、あー、えっと、そ、その人の彼氏なので!」
我ながら良い判断力だった。演技はお世辞にもどこの賞も取れないような粗末なものだったけど。
相手を払うには一番の理由に思えた。
「彼氏だぁ?」
目だけで人を殺せそうな形相でこちらを思いっきり睨む男。
正直あの演技力で信じたらそれはそれでヤバいと思うが、このまま僕が無関係だとバレたらもっとまずい。
彼女にも迷惑がかかるし、何よりしつこくナンパしてるこいつより何百倍もヤバい人認定をされてしまうに違いない。
それだけは避けなければ。
先程召喚した判断力を駆使すべく脳みそをフル回転させていると、突然彼女が僕の腕に抱きついてきた。
「そうなんです!私、この人の彼女なのでお引き取り願います!」
「んだよ彼氏持ちかよ」
わざと聞こえるような舌打ちをした男は、あのままの目つきで人混みへと消えていった。
「……」
結構あっさりだったな。いや、それよりも。
ほぅ、と安堵の息を吐く彼女は未だに僕の腕を強く抱き締めて離さなかった。
僕の言い訳を利用してくれたのは有難かったが、そういつまでもくっついていられると流石に困る。
「えーっと…」
「……すみません」
僕の声にハッとした彼女は、急いで腕を解き頭を下げた。
「あの、ありがとうございました」
「いえ、全然…」
その時、初めてしっかり彼女の顔を見た。
僕を反射した、可愛らしくて大きな瞳。
けれど何故だか威圧感もあって、思わず息を飲んだ。一文字に結んだ口のせいだろうか。
とにかく、小さいのに気が強そうで愛想の無い顔立ちをしていた。いや、小さいは関係ないか。
「あ、じゃあ、僕はこれで…」
感謝もされたし、もうここに留まる理由は無い。
軽く手を挙げて踵を返すと、突如として身体が後ろに引っ張られた。
「ぐえっ」
「待って下さい」
強くシャツを引かれ、首が締まるかと思った。
「な、何…?」
首元を緩めながら振り返る。
彼女が、まっすぐこちらを見ていた。
「私、これからカフェに行くんです」
「は、はぁ…」
「貴方も一緒に行きましょう」
「えっ、何で僕も…?」
「お礼させて下さい」
「いや大丈夫だから」
「お願いします…!」
今度は強く手を掴まれ、ぐっと距離が近くなる。
その綺麗な眼には、情けなくたじろぐ自分の姿が映っていた。
