第一期
お名前
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私が風丸一郎太という人物を知ったのは一年生のとき。入学して一ヶ月経った頃に行われた席替えで、彼と隣の席になった。
ただ綺麗な子だな。と思った。風に従ってさらさらと流れる水色の髪の毛。私は彼の左隣だったので顔全体は見えないものの、通った鼻筋と薄い唇は、彼が端正な見た目であることを示していた。
「あの…よろしくね。えっと、名前は…」
まだ入学して一ヶ月。女子の名前は覚えても男子の名前まで覚えていない私は、情けない気持ちで話しかけると、彼はゆっくりこちらに顔を向けた。ぱっちりと開かれた目に嵌められた赤茶色の瞳はそれはもう美しく、流石に失礼なので言ってはいないがそこらの女の子よりも美人であった。
「…風丸一郎太。よろしくな。みょうじ」
「え、私の名前覚えてるの?」
「まぁ入学して一ヶ月経つからな。俺、人の名前と顔覚えるの得意なんだ。」
「そうなんだ…私まだ全然覚えられてないや、ハハハ…」
その見た目とは裏腹に、意外と声が低くてドギマギした。そして自分から話を振ったくせにミリも話題を広げられない自分がさらに情けなく感じて、悲しくなった。きっとなんだコイツ、って思われてるんだろうな。今席替えしたばっかりだけど今すぐ席替えがしたい。
一人空回る私に優しく微笑んで、彼は手を差し伸べた。
「あ、え…?」
「ほら、握手。」
「あ、あぁ、、えっと、よろしくね。風丸くん」
「あぁ。」
隣の席になったくらいで握手ってするもんなのか…?と思いつつ差し出された手を握った。彼はとてもしなやかで華奢な手をしていて、やっぱり身に付けている学ランは嘘なんじゃないか、と思えた。こうして、入学して初めて覚えた男の子の名前は風丸一郎太になった。
彼と仲良くなる内に気がついた事がある。彼は見た目とは裏腹に男らしい性格をしていた。真面目でしっかりしていると思いきや、休み時間に他の男子と遊ぶ姿は年相応な感じがした。面倒見も良くて、隣のクラスの円堂くんの世話係のような位置についている。
部活では陸上部に入ると直ぐに一年のエースの座につき、その見た目と性格から彼がモテる事は自然な流れだったし、私が風丸くんに想いを寄せる一人になるのも時間はかからなかった。
あっという間に遠い存在になってしまった気がしたが、隣の席の彼は入学当初と変わらず私と接してくれる。それがたまらなく嬉しかった。
話せば話す程気持ちが強くなって、二学期に入るととうとう気持ちを抑えることが出来なくなった。
木々が赤く色付いて来た頃、私は部活終わりの彼を教室に呼び出した。
あまりにもありきたりなシチュエーションだった為か、彼も何かを察しているようで、いつも優しく弧を描く口には力が入っていた。
「ごめんね、いきなり…」
「い、いや、大丈夫だ」
二人ともいつもみたいに話すことが出来なくて、絶妙に気まずい雰囲気に包まれたが、このままじゃダメだと自分を奮い立たせる。
「私、風丸くんが好きなんだ」
中々大きな声だったと思える。言ってしまえばやはり恥ずかしくて、床を見ることしか出来ない。心臓の音がドクンドクンと脳内に響く。手と脚が震えるのが自分でも分かった。
「…そっか、ありがとな」
彼の言葉に顔を上げると、彼は何とも言えない微妙な顔をしていて、何となく、この先が予想出来てしまった。
「でも、ごめん。俺今、陸上とか勉強とかでいっぱいで……そういうの、考えられないんだ。」
予想通りの返事だった。頭が真っ白になって、呼吸の仕方を忘れる。私は無意識にこんなことを口走っていた。
「考えられないってことは、考えられるまで待てばいいっ、てこと?」
「は?」
「わ、私、待つから、風丸くんがきちんと考えてくれるようになるまで!それで考えて、「私とは付き合いたくない」って言ってくれたなら、諦めるから」
違う、違う。こんなことを言うつもりは無かった。頭ではそう思っても、もう止まることは出来なかった。
「だから、私、諦めないよ」
「…そんなの、答えがいつになるかなんて分からないぞ。それにお前がそれまで俺を好きでいるかなんて分からない」
「っ、じゃあ、毎日言うよ!私、風丸くんが好きだって…!風丸くんを諦めるその日まで!」
「私の言う事は、適当に聞き流してくれるだけでいいから。だから、私が諦めない事、許して欲しい」
必死に言葉を紡ぐ私を、風丸くんはただ黙って見詰めていた。こんな事、言うつもりも、ましてや思ってもなかったのに。我ながら気持ち悪い。絶対嫌われた。最悪だ。
「…好きにすればいいんじゃないか」
たった一言、そう呟いて彼は教室を出ていった。
いつもの彼とは少し違う、少々冷めた対応だったが決して拒絶の言葉ではなかった。
これは、諦めなくていいってことなのだろうか。そう言って貰えた、と思うだけでその時の私は天にも昇る気持ちだった。
ただ綺麗な子だな。と思った。風に従ってさらさらと流れる水色の髪の毛。私は彼の左隣だったので顔全体は見えないものの、通った鼻筋と薄い唇は、彼が端正な見た目であることを示していた。
「あの…よろしくね。えっと、名前は…」
まだ入学して一ヶ月。女子の名前は覚えても男子の名前まで覚えていない私は、情けない気持ちで話しかけると、彼はゆっくりこちらに顔を向けた。ぱっちりと開かれた目に嵌められた赤茶色の瞳はそれはもう美しく、流石に失礼なので言ってはいないがそこらの女の子よりも美人であった。
「…風丸一郎太。よろしくな。みょうじ」
「え、私の名前覚えてるの?」
「まぁ入学して一ヶ月経つからな。俺、人の名前と顔覚えるの得意なんだ。」
「そうなんだ…私まだ全然覚えられてないや、ハハハ…」
その見た目とは裏腹に、意外と声が低くてドギマギした。そして自分から話を振ったくせにミリも話題を広げられない自分がさらに情けなく感じて、悲しくなった。きっとなんだコイツ、って思われてるんだろうな。今席替えしたばっかりだけど今すぐ席替えがしたい。
一人空回る私に優しく微笑んで、彼は手を差し伸べた。
「あ、え…?」
「ほら、握手。」
「あ、あぁ、、えっと、よろしくね。風丸くん」
「あぁ。」
隣の席になったくらいで握手ってするもんなのか…?と思いつつ差し出された手を握った。彼はとてもしなやかで華奢な手をしていて、やっぱり身に付けている学ランは嘘なんじゃないか、と思えた。こうして、入学して初めて覚えた男の子の名前は風丸一郎太になった。
彼と仲良くなる内に気がついた事がある。彼は見た目とは裏腹に男らしい性格をしていた。真面目でしっかりしていると思いきや、休み時間に他の男子と遊ぶ姿は年相応な感じがした。面倒見も良くて、隣のクラスの円堂くんの世話係のような位置についている。
部活では陸上部に入ると直ぐに一年のエースの座につき、その見た目と性格から彼がモテる事は自然な流れだったし、私が風丸くんに想いを寄せる一人になるのも時間はかからなかった。
あっという間に遠い存在になってしまった気がしたが、隣の席の彼は入学当初と変わらず私と接してくれる。それがたまらなく嬉しかった。
話せば話す程気持ちが強くなって、二学期に入るととうとう気持ちを抑えることが出来なくなった。
木々が赤く色付いて来た頃、私は部活終わりの彼を教室に呼び出した。
あまりにもありきたりなシチュエーションだった為か、彼も何かを察しているようで、いつも優しく弧を描く口には力が入っていた。
「ごめんね、いきなり…」
「い、いや、大丈夫だ」
二人ともいつもみたいに話すことが出来なくて、絶妙に気まずい雰囲気に包まれたが、このままじゃダメだと自分を奮い立たせる。
「私、風丸くんが好きなんだ」
中々大きな声だったと思える。言ってしまえばやはり恥ずかしくて、床を見ることしか出来ない。心臓の音がドクンドクンと脳内に響く。手と脚が震えるのが自分でも分かった。
「…そっか、ありがとな」
彼の言葉に顔を上げると、彼は何とも言えない微妙な顔をしていて、何となく、この先が予想出来てしまった。
「でも、ごめん。俺今、陸上とか勉強とかでいっぱいで……そういうの、考えられないんだ。」
予想通りの返事だった。頭が真っ白になって、呼吸の仕方を忘れる。私は無意識にこんなことを口走っていた。
「考えられないってことは、考えられるまで待てばいいっ、てこと?」
「は?」
「わ、私、待つから、風丸くんがきちんと考えてくれるようになるまで!それで考えて、「私とは付き合いたくない」って言ってくれたなら、諦めるから」
違う、違う。こんなことを言うつもりは無かった。頭ではそう思っても、もう止まることは出来なかった。
「だから、私、諦めないよ」
「…そんなの、答えがいつになるかなんて分からないぞ。それにお前がそれまで俺を好きでいるかなんて分からない」
「っ、じゃあ、毎日言うよ!私、風丸くんが好きだって…!風丸くんを諦めるその日まで!」
「私の言う事は、適当に聞き流してくれるだけでいいから。だから、私が諦めない事、許して欲しい」
必死に言葉を紡ぐ私を、風丸くんはただ黙って見詰めていた。こんな事、言うつもりも、ましてや思ってもなかったのに。我ながら気持ち悪い。絶対嫌われた。最悪だ。
「…好きにすればいいんじゃないか」
たった一言、そう呟いて彼は教室を出ていった。
いつもの彼とは少し違う、少々冷めた対応だったが決して拒絶の言葉ではなかった。
これは、諦めなくていいってことなのだろうか。そう言って貰えた、と思うだけでその時の私は天にも昇る気持ちだった。