いちゃいちゃするおはなし
視覚と味覚の記憶。
俺様には宝物がある。
司書からもらった飴の包み紙だ。
べっ甲飴のもの、くだもの飴のもの、海外の有名な画家がデザインしたらしいもの…毎日もらっているわけじゃないが、いつのまにかこんなにもらっていた。
まあ他のやつらから見たらたいしたもんじゃないだろうし、何故そんなものをと思われるだろう。
だが俺様にとっちゃ大事なもんだ。
それぞれの包み紙を見てると、その飴を寄越したときのあいつの表情や、受け取ったときの気持ちを思い出す。今の俺様と司書との、大切な記憶の一つだ。
今日もらったのは、個包された袋の中にキューブ型の小さな飴が二つ入っているものだ。
一つは透き通った黄蘗色きはだいろ。もう一つは同じく透き通った浅紫色。
「ほらこの黄色い飴、先生の瞳みたいで綺麗です」と言いながら、袋に入ってる大量の個包の中から選んで寄越したやつだった。
「それならもう片方はお前の瞳の色のようだ」と思ったが、それは言葉にせずに「あんがと。あとで食うよ」とだけ言って受け取って、自分の部屋へ戻った。
個包してある袋ごと、飴を太陽にかざす。飴たちは太陽がこぼす光を受けてきらきらと輝いている。ああ、これは確かに。綺麗だ。
飴を通して自分に降りそそぐ光をひとしきりを楽しんだら、個包されている袋の上あたりをつまみ、横に引っ張って開ける。ぎざぎざしてる部分を切り口にして、縦に裂いて開けるほうが楽だろうが、それだと二つに分かれてしまうから。俺様はそれが気に入らない。
開けた袋から、飴をころんと出して掌に乗せる。そして二ついっぺんに口に含む。蜜柑と葡萄の二つの味が舌の上で溶けて、ほどけて、混じる。
「…甘いな」
感じているのは飴の甘さだけではないのだろうと思いながら、包み紙を引き出しに仕舞った。
【了】