いちゃいちゃするおはなし
愛おしい香り。
「先生、先生の付けてる香水をください」
仕事の合間の休憩中、藪から棒に司書が言った。
普段から唐突なことを言う子だと思ってはいたが、今回もまた思いがけないことを言い出したものだ。
今まで司書と香水の話なんてしたことは無かった。それなのに、俺が使っている香水が欲しいとは。脈絡がないにもほどがあるぞ。
あんたにこの香水は大人すぎると思うが…と前置きして、それに付け加えるように理由を訪ねると、司書は少し恥ずかしそうにこう答えた。
「だって…同じ香水付けてたら、いつでも先生と一緒にいる気分になれそうじゃないですか」
なるほど。そういうことか。小瓶にでも移して、少し分けてやるくらい別に構わない…と、先ほどまでは思っていたが。
「そうか。そんな理由なら、やれねえな」
「えっ、ど、どうしてですか」
「どうしてって、そりゃあ…」
言いかけて、司書の手首を掴む。そしてぐっと抱き寄せた。司書は「ふぎゃっ」と猫のような声を上げて、俺の腕の中にぽすんとおさまった。おさまるのと同時に彼女の背中にするりと腕をまわす。そしてふわりと抱きしめて言う。
「実際に一緒にいれば良いだけの話だろ」
それを聞いた司書の体が、一瞬強張ったように感じた。そして「あ…は、はい…」と答えた。その声から、緊張が伝わってくる気がした。声の主へちらりと目をやると、赤らめた顔に上目遣いで俺を見つめている。その様子がなんとも可愛らしい。背中に回していた右手で彼女の髪を撫でて、こう続ける。
「それにあんたの匂いが消えそうだから、俺としてはなるべく付けて欲しくないんだがなあ…」
俺の匂いに染まるあんたも良いもんだ。だけどな、俺はあんたの匂いが好きなんだよ。そう言って、俺は司書へ微笑みをひとつ落とした。
「うう…そんなの、ずるいです…」
司書はか細い声でそう呟いて、俺の胸に顔をうずめた。
【了】