OLの徒然なる
名前変換
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東の一言でその場はとりあえず仕切られた。未だ自分が話を続けて良いのかと伺う名前の表情には、先ほど二宮から言われた辛辣な一言はそんなに突き刺さっているようには思えない。内心は、どう思っているのかいざ知らずだが、ここで何も言えなくなっては隊がまた同じ轍を踏むだけだろう。
彼女自身もそう思って己を奮い立たせる。
「…話を続けますね。私が言いたいのはこのままでランク戦に当たっていったら確実に私たちの隊は、ランクが落ちていく、ということ」
断定的に言った彼女の言葉に、口を挟むこともしていなかった三輪も表情に焦りを見せた。ただ、それは彼女の言葉自体にというよりは、その言葉を聞いた時の東の様子を見てだった。深く頷く東も、彼女と同じ未来を見ていたという事実に、危機感を覚えた。
それまでに全く何も考えていなかったかというと、三輪はそうではなかった。
曖昧ながらもこのままでいいのかと思ったりもしていたが、勝利することが出来ていたし、東も率先して作戦というものを提案してはいなかった。
そこが、三輪や方向性は違うが作戦の必要性を感じていなかった二宮の思考の落とし穴だ。
東が考えないから、隊長が何も言わないから好きにしていい、という意味ではない。そのことに気づけるか、半ば試されている形だったのだ。
試されている中に同じように加古や名前も含まれてはいたが、彼女らは概ね気がついていることに東もわかっていた。現に、名前はこうやって声を挙げることもしている。
「じゃあなんだ?お前の言うことを聞けばずっと勝てるとでも言いたいのか?それこそ暴論が過ぎるな」
未だに食ってかかる気しか感じられない二宮に、名前の隣にいた人物の表情がぴしっと固まる。そして、固まった後、思い切り眉間に皺を寄せた。
「名字ちゃん、もういい加減この男の鼻っ柱、へし折ってもいい?口を開けば不愉快しか感じられないわ」
「加古ちゃん…」
侮蔑の表情でしかない顔を作ると、二宮をさす指をそのままに二宮に顔を向けると、見下すように姿勢を正した加古。その様子に、これは二宮と加古の喧嘩になってしまうと思い、加古を抑えるように名前は左腕を伸ばして制止した。
「わかった。二宮くんが納得いくまで、私も今後は口を出さない」
「…それでいいのか?」
彼女の口から出た言葉は強気の一言ではなく、この話し合いを一旦切り上げる諦め混じりの一言だった。同じ轍を踏むことは嫌だったが、結局この話し合いが有耶無耶になってしまうことの方を避けた結果だ。
もっと徹底的にこの話題について説くかと思っていた東は、意外そうな表情を一瞬浮かべると、一拍置いて名前に今一度意志を問う。
言葉は返さなかったが静かに頷くと、二宮はやや満足げに足を組み直した。
「(ここが正念場とも思ったが、流石に名前には酷だったか)」
いくら加古が名前寄りの意見を持っていても、二宮と加古が喧嘩になってしまえば話は脱線してしまうだろう。内心、話の流れをあまり介入せずに見ていた東だったが、二宮の頑なさと名前に対する援護の弱さからこの場は流れると思い始めていた。
それと同じく、二宮は一回経験しないと分からないかもしれないとも。
現状が良い時、人は自分の欠点には気付きにくいものだ。正に今の二宮はその状態にある。これはランクが多少落ちるのは覚悟で見守る必要があるな、と東は覚悟の上で、作戦会議を切り上げた。
東の予想は半分は当たり、半分は外れた。
ランクは落ちはしたが、そこまで落ちる前に、その状況は訪れた。要するに、決定的な局面は思っていたよりも早く来たのだ。
緊急脱出の音声が伝わり、どさっという音と人の身体がはねるような反動が部屋に響いた。ベッドの上に投げ出された人物は、その人物の性格を考えれば悪態でもつきそうなものだが、一言も発しない。俯き、流れた前髪から放心した感情が読み取れるが、それを見ている暇もないのが名前の状況だった。
「加古ちゃん、三輪くんの周りの建物を破壊できる?」
加古への指示の声は冷静な声音だ。隊員の一人が落ちても落ち込んでいたり、動揺してはいられないのだ。客観視してこのフィールドを見て、誘導をしなければ勝てる試合も負けてしまうのである。だが、その冷静さがその背後にいる彼には突き刺さる。
自分が落とされることを予測していたのだろうか、と。
「それくらいならなんとかできそうよ」
「釣りで俺が出る感じにするか?」
「はい。東さん、少し三輪くんが交戦している場所に近づいて打ってくれますか?おそらくバッグワームを使用してる西側の建物にいる誰かが狙ってくるとは思いますが…」
「だろうな。西側って目星がついているだけで随分避けやすくはなる、打ったらすぐ下がるよ」
「っ、すみません。建物崩れたら一旦合流目指して引きます…」
二宮の空虚さとは裏腹に、戦況はどんどん変わっていく。のしかかる何かを振り切れないままだが、ベッドから起き上がり、オペレーター席の後ろに辿り着く。
彼女は振り向きもしない。慰めの言葉をかけるでも、労いの言葉をかけるでもない。彼自身も、今回の自分のあっけなさに関してはどちらの言葉をかけてもらっても無意味だと思ってはいた。だが、内心に疼く彼女への苛立ちを、何故か隠せなかった。
「ざまぁみろと思ったか、俺のことを」
「…そんなことは思ってないよ、それよりも今の戦況を立て直す方が大事」
そう言い返されたことが非常に腹立たしかった。自分がいなくても平気だと言われたようで癇に障った。
特にこの女に言われたからだろうか、先日の言い合いから残る自分の感情の違和感に二宮はまだ気付いていない。