OLの徒然なる
名前変換
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恐る恐る挙手された手に注目が集まった。
膠着した作戦室は、いつも通りの作戦とも言えるかイマイチ定かではない作戦のまま今回のランク戦も行くのかと、そういう空気になりつつあった。場を仕切る人物も、盛んな意見の場として機能しないのであれば、とその様子を眺めたままだ。
しかし、手を挙げた人物は、なんとなくこのままでは面白くもないし、それで勝ってもいいのだろうかと思っていた。
「すみません、東さん。私の意見も言ってもいいですか?」
手の挙手の様から想像するよりは、声は上擦ってもいなかった。それよりも、どちらかというと堂々とした声のようにも思える。
彼女は東の肯定の合図に、手を下ろして展開されたマップの中かから何枚かを選んだ。
「今のところ常勝パターンが決まっているうちの隊は、正直、相手のチームが練った作戦を火力でどうにか出来るかっていうところが問題になっていると思うんです」
彼女の言うとおり、ここのところの東隊は割と勝ちパターンが固定されてきていた。それというのも、トリオン量で有利のある二宮が射手としての技量が格段に上がったことが理由の一つだ。火力と正確さのある攻撃で多少逃した相手の残党を東たちがまた正確な動きで捕らえていく。この力押しからなかなか逃れられる隊は少なかった。
事実として今期もやられた相手と言えば、同じく射手として才覚のある出水を要する太刀川隊や組み合わせとして相性の悪い風間隊などだ。特に風間隊は作戦を練れば工夫次第では勝てる相手であったのにも関わらず、負けたという印象があった。
それは名前の印象でもあったし、率いていた東もそう思ってはいた。全体的に力押しだなと。
しかし、東の教育方針は「自分で考えさせる」こと。自分で率先して引っ張っていくことはせず、教育対象に対して促すだけだ。
とあるマップを引き合いに出して名前は説明をし出す。
「例えば私はこのマップなら大通り沿い…ここは二宮くんが陣取るんだろうなって考えるし、実際このマップになったら二宮くんをここに案内する。今までの作戦通りならね」
「…要するに何が言いたい?今まで倒せているような雑魚相手にもこっちが作戦を立てていけと?馬鹿らしい、時間の無駄だ」
「そうかしら?現に倒せるような相手にもそういう風に向かっていって負けているってことが物語っていると思うけれど」
指を指しながら解説をしようとする名前に対し、二宮は食い気味に呆れたようだが、強めた語気で意見する。無論、二宮の実力はトリオン量だけでない。技量もあり、相手の作戦を看破する能力も東の仕込みで仕上がってはいる。だが、慢心が残っている。相手がどんな武器を持っているか分からない状態での戦いでは、そういう慢心は危うさを持ちうる。
加古も同じように思っていたが故に、名前の意見に助け船を出す。
彼女の場合、調子にのっている様子もある二宮が気にくわないという理由も勿論あるだろう。
「(名前の意見は最もだ、俺もそう考えはするだろう。ただ、二宮をどう説き伏せるか…)」
「黙っていろ。今はコイツの意見に対して言ってる」
二宮の眼光が鋭く名前を射貫く。明らかな敵意に近い類いの視線だ。マップから視線を外した名前は、自分の向かいに座っていた二宮を見据える。その表情には苛立ちなどは顕れていない、むしろ見ようによっては穏やかな表情に見える。
「二宮くんはずっと自分が一番でいると思っている、そうでしょう?」
「…さっきから的を射ない言葉ではぐらかしやがって。はっきり言ってみろよ」
「自分より強い相手と戦う想像を二宮くんは全くしていないねってこと」
目をそらさずにはっきりと伝えた結果は、二宮の表情をぐっと強張らせた。
「それとも…自分よりも強くて、自分の想像しない武器を持っている相手と対峙したときも、自分ならすぐに対応できると思っている?」
「…お前は自分が戦いもしない癖によく知ったような口を利くもんだな。所詮安全なところから指示を出すだけのヤツが」
「二宮、流石に言い過ぎだ」
今まで黙って彼らの話を聞いていた東も、同じ隊の人間に言うような言葉ではないと判断した。伏せていた目を開くと、二宮を見る。隊に入って長くは経っていないが、東に対して尊敬の念を抱いている彼としては、それ以上は何も言えず押し黙るしかなかった。
その様子に対し、名前は東にすみません、と軽く頭を下げる。
別に名前が謝る必要はないのだが、と思いながらも東はもう一度沈黙することにした。ここが彼の変わりどころだろうとの思いから。