OLの徒然なる
名前変換
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他の隊員よりはここに縁はあるだろう、しかしここがメインの身の置き場ではないことは誰でも分かっている。そんな人物が廊下の壁に背を預けてもたれている姿は、誰が見ても誰かを待っているのだろうと分かった。
用があるならばその一室に入れば良し、入らないと言うことはそういうことなのだろうと。
響子はちょうど用事を言いつけられて別室に書類を運んできた帰りだった。
今日の仕事は普段よりも落ち着いてはいたものの、未だゴタゴタの後処理もあるなど、気苦労は耐えない。
ふぅ、と息をつく。忍田本部長だけが癒やしだわ、と思いながら前をむき直すと、珍しい人物が視界に映り込んだ。
長身だからか、ただ廊下に背を預けて立っているだけでも目立つ。
「東くん」
「やっと帰ってきたか。職員さんに聞いたらちょうど出て行ったって教えてもらってな」
「そんなに待ちくたびれるほど私を待つなんてどうしたの?」
疑問を口に出すように尋ねたが、響子にはこんなタイミング良く東が自分のところに来るなんて、理由は一つしか考えられなかった。
今日のお昼に聞いた、名前の話。
ただ、そのことを自分から言うのは癪、とまでは言わないけれど変な感じがして、あえて言わない。
なんとなくそういう話に持って行くのも、彼の策に嵌まっているようにも思えて。
一方の東は東で、本題を分かっているはずの響子が何も突っ込んでこないことを分かってはいた。
背を預けていた壁から離して、しゃんと立つと親指を立てて部屋を指さす。
「まだ荷物運びはないのか?女子一人じゃ大変だろう、手伝うよ」
「…まぁ、荷物の移動はまだあるけれど…」
この男、ここで話す気はないな…じとっとした目で東を見やるが、そんなことは意に介していないとも言いたげな男は、軽く笑っている。
事務処理仕事の合間の体を動かす仕事は良い気分転換だ。だから響子は別に荷物の移動は好きだったし、苦でもなかったが、今はまだ移動する物が残っていることを悔やむ。
「で、本題を早く言ってくれない?あんなとこで私のこと待ってたら、忍田本部長に変な目で見られるかもしれないじゃないの」
「今日はやけに当たりがキツいな…、心配しなくても忍田本部長はそこまで気にする人じゃない」
「そんなことわかってるけど!」
そんなんじゃ話聞かないわよ!と続けざまに言うと、さすがに東も困ったのか、眉尻を下げて悪い悪いと軽く謝る。
適度にご機嫌を取りながら話を進めなければ、本当に響子は話を聞いてはくれないだろうと、昔からの付き合いで分かってはいる。意外と直情型だからな、と内心思う。
「で、名前はなんて言ってた?」
「なんで私と名前が話してたって知ってるのよ…ちょっと可笑しくない?」
「偶々ラウンジで見かけただけだよ、そうストーカーを見るような目で見ないでくれ」
「見るに決まってるじゃない!タイミングがタイミングだし、あんなところで私のこと待っちゃうし…」
ラウンジで見かけたのは本当のことだった。大学院での研究に少し行き詰まりを感じ、考えるよりもとりあえず動いてみるかと思い、早めにこちらに来たのだ。
昼食もこちらで取るかと思い、ラウンジを覗いたところ、偶然にも名前と響子を見つけただけ、ということだ。
勿論、響子は東に対し疑惑の眼差しを向けるが、それに対しては東も苦笑するしかない。
「きっと沢村なら気の利いたこと言ってくれてるだろうとは思ってるが…」
「ふふっ、それは思い違いね、東くん。私、本当に東くんが何を思って言ったのかわからなかったから、気にしなくて良いんじゃなーい?的に返事をしたわよ!」
やってやったぜ!とも言いたげなほど、自慢げな響子。術中にははまらなかったわよ!と言ってのけてやりたかったが、そこまでは言わずに堪えた。
意外なほど、東が項垂れたからだ。なんとなく可哀想になるほど、段ボール箱を抱えた東は顔を段ボール箱に向けている。
大きな溜息も響子の耳に入ってきた。さすがに哀れになった響子は先ほどまでの誇らしげな顔は一変、不安げな顔を東に向けた。
「ご、ごめんって…まさかそこまで気にするとは思ってなかったの…。大体、名前には彼氏もいるし、東くんそういう冗談も言うんだーくらいの気持ちだったのよ」
そうか…、と小さく漏らした東からはいつもの毅然とした指揮官然としたものはない。
同情の念のわいた響子は、私に協力してくれるなら私も協力するから…と言うしかなかった。