OLの徒然なる
名前変換
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皆の尽力の甲斐あって、戦況を覆すことができた。二宮が落ちたことにより、二宮の背後を守っていた三輪への集中砲火は免れなくなってしまっていた。
しかし、そこに遠方からの加古の着弾により建物が一掃され、自らが落ちるリスクもからがらに、東の援護もあったことによって相手の目標を短時間とは言え、逸らすことが出来た。
一旦、合流をしてしまえば後は東による指揮でそれぞれが役目を果たしていく。
無論、戦況は覆したがそこから圧倒的勝利とはならないのがランク戦だ。その後、三輪と近い位置で戦っていた加古が攻撃手からの攻撃の隙をつかれ、浮いたところを相手狙撃手にとられる。が、そこを見逃さずに東が相手狙撃手を確実にとることで、なんとか生存点と取得点で辛くも今回のランク戦でのトップを取ることができた。
終わってみれば勝利、というものではあったが、明らかに課題は浮き彫りとなり、二宮の消沈具合は筆舌に尽くし難かった。
ランク戦後の作戦室は、勝利した隊のそれとは思えないほどである。
「みんな、お疲れ様でした」
「いや、名前もお疲れ。良い指示だったよ」
「あはは、東さんに言われると嬉しいです」
軽口を叩き合う東と名前の姿を眺めるのは、先ほどよりは元気を取り戻した二宮だった。ただ、元気は戻っているのだろうが、精神的な落ち込みは先ほどよりも増しているようだ。何故かと言えば、一言も発しない。ベラベラと話すタイプではないが、思うことがあるのであれば言わずにはいられない性格も有している。色々と思うことはあるだろうに、何も発しないのは通常とは随分違っていた。
その様子の異常には、無論東も気付いていたが、同様に他の隊員も気付かないわけがなかった。ただ、それに対して出倦ねているのも事実。特に先日作戦会議で討論をした名前は、何かを言いたげだと東は推察する。
彼女の性格を考えると、罵倒やらの類いでないのは分かる。
(むしろ、名前はあまり感情を表に出さないから強そうに見られることが多いが、実際は脆いからな…)
気に病んでいる可能性の方が高いだろう。
別段、彼女と特別親しい訳でも、付き合いが長い訳でもない東がそう思うのは、よく彼女のことを見ていたからである。その観察がどういった感情からのものだったのか、この時点では曖昧なものだった。
「加古、悪いが人数分の飲み物を買ってきてくれるか?荷物持ちも連れて行って良いぞ」
「は~い、それじゃあ三輪くん、名字ちゃん行くわよ」
察しの良い加古はこういう時に大変助かる。通常なら名前に声をかけても良いところだが、今回の二宮の件であまり冷静でないような気もした。おそらく残って二宮に対して何かを言いたい気持ちがあったかもしれない。
ただ、それは今名前の口から言ったところで、二宮には火に油を注ぐようなものだと東は理解していた。
躊躇いながらも、微妙な目配せを送ってきた名前に、東も軽く微笑んでみせる。少しでも安心させるようにとの配慮の表情だった。
「二宮、今回のランク戦はどうだった?」
「…すみませんでした。油断をした結果です」
「いや、違うな。油断じゃない。それはお前も分かってるはずだ」
「…」
二人きりになった作戦室で切り出してみれば、二宮は一呼吸置いて返答した。他の隊員がいなくなったことによって、いつもよりは幾分素直な様子に見える。だが、言葉としては素直でも、感情的には未だ認めたくない気持ちが残っていた。
それを、東はあっさり看破する。名前の言ったことを、本当は認めたくなったのに認めたくないのだと。
「お前の気持ちも、わからなくはない。別に名前の言葉を全部鵜呑みにしろっていう訳でもない」
「アイツは、癇に障るんですよ…。知ったような口をききやがる」
「…アイツはアイツなりに努力をした上でこの間も意見をした。で、それに対して二宮、お前はどうだ?」
「…」
「少しでも名前の言葉にあったことを、反芻したか?」
語気が荒い言葉ではない。いつも通りの東の口調だ。だが、二宮は多少の威圧を感じた。初めてとも言える、少々の怒気だった。東も怒りたい訳ではなかったし、怒っているつもりも本人には全くなかっただろう。
それでも、彼女の内心を思うと、持つ者が自分の持つ才能を見殺していくことに抵抗があったのは事実だった。その気持ちが言葉にも滲んだ。
「二宮、守るべきものと敵を見誤るな。ランク戦で勝つためにトリガーを握ってる訳じゃない、そうだろう?」
ランク戦に勝って上位に行く、そのためには自分の力を、全力を出し切る、それしか考えていなかった。そんな彼の頭に、東の言葉は水を浴びせてくれるような、そんなものだった。
「…はい」
「戦闘でのお前の成長ぶりは目を見張るものがある。影ながら努力をしているのも知っている。トリオンの量一つとっても才能の塊だろう。…だからこそ、アイツのような存在もお前には必要だと、俺は思うよ」
最後の方は東も、怒気は消え、いつもの穏やかな、諭すような雰囲気に戻っていた。
二宮自身の様子から、変化の兆しが見えたからだろう。俯き加減で、不機嫌さの残っていた二宮も、軽く顔を上げ、東を見ている。
その目の奥には、挫折からの再起を感じさせた。
そして、この一件から二宮の、名前を見る目は変わった。
いつか必ずアイツに自分を認めさせる、と。