OL
私がはじめて見たお兄ちゃんの彼氏は、お兄ちゃんの隣で、緊張の上に社交性をコーティングしたような笑顔を浮かべていた。
お兄ちゃんから、今日彼氏が来るというお話を聞いていた私は、その人が「牧の友達の」と自分の名前を口にするのを聞いて、思わずお兄ちゃんの顔を盗み見た。お兄ちゃんは、慣れたような笑みを浮かべていたけれど、私の眼差しに気づくと、その笑みを困ったときのものへと変えた。そのあまりにもナチュラルな笑顔で、この男の人が、はじめての人ではないことに気づいてしまった。高校生のお兄ちゃんは、今までもこんなことがきっとたくさんあったのだ。
小さなころから、お兄ちゃんは、優しかった。プーさんのお気に入りのぬいぐるみを縁側のしたのくぼみにできた水たまりに落としてしまって、泥色に汚れて泣いていたとき。飼っていたカブトムシが半透明のさなぎになったまま土の中で死んでしまったとき。そういうどうしようもない悲しみに直面して動くこともできずただ凝視するだけの私の隣で、お兄ちゃんはいつも困ったように唇の端に温かい微笑みを浮かべて傍にいてくれる。あれだけ外でお人形遊びはやめるようにいわれていたのに。元には戻らないかもしれないけど、お母さんに云って綺麗にしてもらおう。仕方ないよ。ソラのせいじゃないよ。がんばって世話をしていたじゃん。そういう子だったんだ。
お兄ちゃんは誰よりも優しくて、外ではすごく控え目だった。そんなお兄ちゃんが、私やお母さんには軽口をたたいて悪戯に目を細めることがすごくうれしかった。私は、お兄ちゃんのなかで許されていると思えるから。お兄ちゃんを中心とした小さいな円のなかにちゃんと存在していると思えるから。
友達を駅まで送っていくと云ってお兄ちゃんは、出ていってしまった。終始握りしめていたハーフパンツに浮いたしわを眺めていたら、視界がぼやけてきて、それを隠すために鼻を啜ったら、どんどん追い立てられるように、感情の波が打ち寄せてくる。
「ソラ、」
私は、お母さんを見られなかった。悔しかった。お兄ちゃんは、ぜんぜん私のこともお母さんのことも頼ってくれてなんていなかったのだ。お兄ちゃんにとって私はただの妹だったのだ。
「お兄ちゃんの彼氏、不細工だったね」
「そうね、お兄ちゃんの方がかっこよかったわよね」
二人で小さく笑う。やっと時間が動き出したような気がした。
お母さんとテーブルの上に並んだ四つのコップを片づける。
きっと、お兄ちゃんは、私とお母さんの同情や怒りが入り込む隙のない、あの笑顔を浮かべてこの家へ帰ってくる。そんなお兄ちゃんを、私は許せないけれど大好きだった。
「ただいま」
予想通りのお兄ちゃんの笑顔の前で、私は能天気な妹のように、ドタドタと玄関に向かって走っていく。
「お兄ちゃんの彼氏、顔が微妙だった」
「そんなことないよ」
お兄ちゃんが甘く笑う。胸がぎゅっとした。
「まぁお父さんの若い頃には負けてたかもね」
リビングからでてきたお母さんがニヤニヤしながら云った。頭にお父さんの狸みたいな姿がパッと浮かんで、お兄ちゃんと目を見合わせる。
「それはないよ」
「うん、お母さん、微妙だったけどそれはないよ」
「失礼ね」
ソラ、カーテン閉めてきて。台所でいつも通りの献立を作っているお母さんが、私を見ずに云う。カーテンの隙間から見た平日の夕陽は、いつもよりずっとみずみずしく私の瞳に映った。今日感じたことはおそらくこの先ずっと忘れないという気がした。
二人目の彼氏。三人目の彼氏。人数を重ねるにつれて、私とお母さんの歓迎は盛大になっていった。お兄ちゃんの彼氏のタイプは様々だったが、どの人も悪い人ではなかった。毎回、私は期待した。今度こそお兄ちゃんを安心させてくれる人なのかもしれない、と。平日の夕陽はその度に私を裏切るのだけど、私もお母さんもまったく大丈夫だった。
私も好きな男の人ができたり、悲しいことだけどどうしようもないことにぶつかって別れたりということが何度か起こった。そういう出会いの中には、そうしても家族に云うことができないこともあって、そういう瞬間、お兄ちゃんのことを思い出す。大切だから、大切にしてもらっているから、云えないということは確かにあるのだと思う。
四人目のいかにも几帳面ですという風貌の彼氏は、私とお母さんの前に、シャトレーゼやコージーコーナーのものではない高そうな焼き菓子のセットを差し出すと、いきなり牧くんを私にくださいと頭を下げた。
「政宗さん」
お兄ちゃんのたよりない手が隣で頭を下げている政宗さんの肩を擦る。お母さんが、そんな顔をあげてください、なんてドラマで役者さんが云うような台詞を云っている。政宗さんが、すごすごと顔をあげる。顔をあげた政宗さんのまっすぐで慈愛に満ちた瞳に、ハッとした。この人は、本当にお兄ちゃんのことを安心させることができる人だと思った。やわらかい甘さがするであろう洋菓子が、口のなかで溶けていく。
「この、お菓子おいしい。ありがとうございます。お兄ちゃんのお話からお金持ちのオトナな人かなって思っていたのですけど。本当に思っていた通りでした」
「安いなぁ」
「なによ」
政宗さんの隣でお兄ちゃんが、馬鹿にしたように笑う。政宗さんは、軽く笑って愛おし気にぐるりとリビングを見渡した。
「どうしたのですか?」
「いや、凌太はここで育ったのだなぁと思ってな」
お兄ちゃんが驚いたように、政宗さんのことを覗きこむ。
「いや、普段あまり自分の私生活を見せないので」
なぜか、政宗さんは、正面に座る母にそう云った。なんだか、家庭訪問みたいだ。政宗さんの隣で、お兄ちゃんが恥ずかしそうにそっぽを向いた。
おいしいお菓子に、静かで穏やかな会話。平日の午後の日差しが、ゆったりとテーブルの上を照らす。早めの夕食は、野菜がゴロゴロとは入った煮物だった。私たちは、お兄ちゃんのお話から、政宗さんが野菜好きだということを知っていたからだ。お父さんの分のご飯だけが、ラップが掛けられたままシンクの上に置いてあった。
大学から帰宅したら、お父さんが檻のなかのクマのように部屋のなかをウロウロと歩き回っていた。
「お母さん、お父さんどうしたの?」
私の夕食を温めていたお母さんが、仕方のない動物を見るようにお父さんを見る。
「さっき、お兄ちゃんから電話があって、明日彼氏さんを家に連れてくるんだって」
「えっ! 春田さん来るの?」
お兄ちゃんがルームシェアをしている春田さんと、そういう関係になったような気がするというようなことは、時々来る電話や母の話で知っていた。
「嘘! お父さんに云ったの?」
自然と声が小さくなったのは、椅子の足に足の指をぶつけて悶えているクマに配慮してのことだ。
「そうみたい。お父さんに変わってっていうから、あらっと思ったのよ」
お母さんと二人で笑う。
「楽しみね」
後ろで復活したクマが再びウロウロと動きはじめた。
春田さんは、男の子のような男の人だった。あんまりにお母さんのご飯を美味しそうに食べるのを見て、一目で好きになった。お兄ちゃんは、私や母と話すように春田さんと話す。ちっともしっかりしていない春田さんは、お兄ちゃんの一言、一言に百面相をしていてとても面白い。
春田さんの視線が、私の胸をチラチラと見ていることに気づいた。この人は普通に女の人を好きな人なのかもしれないと少し不安に思った。
「ルームシェアするってきいて、迷惑かけてないかなぁって心配してたの。でも中良さそうでよかったぁ」
お母さんが呑気に笑う。
「いや、僕もまさか付き合うことになるとは思わなかったですけど」
たくさん食べ物が入った口を腕で隠しながら、モゴモゴと春田さんが云った。その瞬間、さっき感じた不安がストンと落ちた。あぁ、そっか。この人は、普通に女の人を恋人にしてきた人で、お兄ちゃんが初めての男の恋人なんだ。お兄ちゃんのことが好きなんだ。お兄ちゃんが、この人を変えたんだ。目の前で美味しそうにご飯をほおばる春田さんを見る。
「でも今回は本気なんだね」
「はぁ」
「だってお父さんが、家にいるときに連れてきたのはじめてじゃん」
苦虫をかみつぶしたような顔でお兄ちゃんがそっぽを向く。ばれていないとでも思っていたのだろうか。それとも本当に、気づいていなかったのか。
「本気?」
春田さんがお兄ちゃんの顔をのぞき込む。その仕草が、あまりにも男の子で、私まで可愛らしいと思ってしまった。
日曜の午後は、面白可笑しく、明るく過ぎていく。太陽の光を浴びてカラッとしたお布団のようだ。
「泊まっていけばいいじゃない」
「いや、明日会社だから」
「今日は本当にありがとうございました。結局夜ご飯までごちそうになっちゃって。ご飯美味しかったです。お邪魔しました」
「また、来てくださいね」
後ろでリビングから、こっそりお父さんが、私たちを見ているのに気づく。拗ねてないでこっちに来ればいいのにと思う。
楽しそうにお兄ちゃんとその彼氏が自分たちの住処へと帰っていいった。扉が小さく音を立ててしまったとき、お祭りの後のような気分になった。
「春田さん、面白い人だったね」
「お兄ちゃんみたいな人には、春田さんくらい明るい人がいいのかもしれないわね」
ため息みたいにお母さんが笑う。今までお兄ちゃんが連れてきた彼氏を思い浮かべる。その誰よりも春田さんは、まっすぐで明るくて、浅くて、鈍感で子供のように思えた。すごくすごく力強く怒りに任せて、叩いても軽く素っ頓狂な音しか鳴らない楽器みたいな人だ。
「そうかもしれないね」
さてと、とお母さんはリビングへ向かう。
「お父さん、いつまで拗ねてるの。もぅ」
遠くから母とお父さんの会話が聞こえる。
お兄ちゃんと春田さんが出ていった玄関の扉を眺める。今度二人がまた来た時、今日よりも盛大にお迎えしようと決意を固めて。
日曜日の夕暮れは少しだけセンチメンタルな気持ちになった。
お兄ちゃんから、今日彼氏が来るというお話を聞いていた私は、その人が「牧の友達の」と自分の名前を口にするのを聞いて、思わずお兄ちゃんの顔を盗み見た。お兄ちゃんは、慣れたような笑みを浮かべていたけれど、私の眼差しに気づくと、その笑みを困ったときのものへと変えた。そのあまりにもナチュラルな笑顔で、この男の人が、はじめての人ではないことに気づいてしまった。高校生のお兄ちゃんは、今までもこんなことがきっとたくさんあったのだ。
小さなころから、お兄ちゃんは、優しかった。プーさんのお気に入りのぬいぐるみを縁側のしたのくぼみにできた水たまりに落としてしまって、泥色に汚れて泣いていたとき。飼っていたカブトムシが半透明のさなぎになったまま土の中で死んでしまったとき。そういうどうしようもない悲しみに直面して動くこともできずただ凝視するだけの私の隣で、お兄ちゃんはいつも困ったように唇の端に温かい微笑みを浮かべて傍にいてくれる。あれだけ外でお人形遊びはやめるようにいわれていたのに。元には戻らないかもしれないけど、お母さんに云って綺麗にしてもらおう。仕方ないよ。ソラのせいじゃないよ。がんばって世話をしていたじゃん。そういう子だったんだ。
お兄ちゃんは誰よりも優しくて、外ではすごく控え目だった。そんなお兄ちゃんが、私やお母さんには軽口をたたいて悪戯に目を細めることがすごくうれしかった。私は、お兄ちゃんのなかで許されていると思えるから。お兄ちゃんを中心とした小さいな円のなかにちゃんと存在していると思えるから。
友達を駅まで送っていくと云ってお兄ちゃんは、出ていってしまった。終始握りしめていたハーフパンツに浮いたしわを眺めていたら、視界がぼやけてきて、それを隠すために鼻を啜ったら、どんどん追い立てられるように、感情の波が打ち寄せてくる。
「ソラ、」
私は、お母さんを見られなかった。悔しかった。お兄ちゃんは、ぜんぜん私のこともお母さんのことも頼ってくれてなんていなかったのだ。お兄ちゃんにとって私はただの妹だったのだ。
「お兄ちゃんの彼氏、不細工だったね」
「そうね、お兄ちゃんの方がかっこよかったわよね」
二人で小さく笑う。やっと時間が動き出したような気がした。
お母さんとテーブルの上に並んだ四つのコップを片づける。
きっと、お兄ちゃんは、私とお母さんの同情や怒りが入り込む隙のない、あの笑顔を浮かべてこの家へ帰ってくる。そんなお兄ちゃんを、私は許せないけれど大好きだった。
「ただいま」
予想通りのお兄ちゃんの笑顔の前で、私は能天気な妹のように、ドタドタと玄関に向かって走っていく。
「お兄ちゃんの彼氏、顔が微妙だった」
「そんなことないよ」
お兄ちゃんが甘く笑う。胸がぎゅっとした。
「まぁお父さんの若い頃には負けてたかもね」
リビングからでてきたお母さんがニヤニヤしながら云った。頭にお父さんの狸みたいな姿がパッと浮かんで、お兄ちゃんと目を見合わせる。
「それはないよ」
「うん、お母さん、微妙だったけどそれはないよ」
「失礼ね」
ソラ、カーテン閉めてきて。台所でいつも通りの献立を作っているお母さんが、私を見ずに云う。カーテンの隙間から見た平日の夕陽は、いつもよりずっとみずみずしく私の瞳に映った。今日感じたことはおそらくこの先ずっと忘れないという気がした。
二人目の彼氏。三人目の彼氏。人数を重ねるにつれて、私とお母さんの歓迎は盛大になっていった。お兄ちゃんの彼氏のタイプは様々だったが、どの人も悪い人ではなかった。毎回、私は期待した。今度こそお兄ちゃんを安心させてくれる人なのかもしれない、と。平日の夕陽はその度に私を裏切るのだけど、私もお母さんもまったく大丈夫だった。
私も好きな男の人ができたり、悲しいことだけどどうしようもないことにぶつかって別れたりということが何度か起こった。そういう出会いの中には、そうしても家族に云うことができないこともあって、そういう瞬間、お兄ちゃんのことを思い出す。大切だから、大切にしてもらっているから、云えないということは確かにあるのだと思う。
四人目のいかにも几帳面ですという風貌の彼氏は、私とお母さんの前に、シャトレーゼやコージーコーナーのものではない高そうな焼き菓子のセットを差し出すと、いきなり牧くんを私にくださいと頭を下げた。
「政宗さん」
お兄ちゃんのたよりない手が隣で頭を下げている政宗さんの肩を擦る。お母さんが、そんな顔をあげてください、なんてドラマで役者さんが云うような台詞を云っている。政宗さんが、すごすごと顔をあげる。顔をあげた政宗さんのまっすぐで慈愛に満ちた瞳に、ハッとした。この人は、本当にお兄ちゃんのことを安心させることができる人だと思った。やわらかい甘さがするであろう洋菓子が、口のなかで溶けていく。
「この、お菓子おいしい。ありがとうございます。お兄ちゃんのお話からお金持ちのオトナな人かなって思っていたのですけど。本当に思っていた通りでした」
「安いなぁ」
「なによ」
政宗さんの隣でお兄ちゃんが、馬鹿にしたように笑う。政宗さんは、軽く笑って愛おし気にぐるりとリビングを見渡した。
「どうしたのですか?」
「いや、凌太はここで育ったのだなぁと思ってな」
お兄ちゃんが驚いたように、政宗さんのことを覗きこむ。
「いや、普段あまり自分の私生活を見せないので」
なぜか、政宗さんは、正面に座る母にそう云った。なんだか、家庭訪問みたいだ。政宗さんの隣で、お兄ちゃんが恥ずかしそうにそっぽを向いた。
おいしいお菓子に、静かで穏やかな会話。平日の午後の日差しが、ゆったりとテーブルの上を照らす。早めの夕食は、野菜がゴロゴロとは入った煮物だった。私たちは、お兄ちゃんのお話から、政宗さんが野菜好きだということを知っていたからだ。お父さんの分のご飯だけが、ラップが掛けられたままシンクの上に置いてあった。
大学から帰宅したら、お父さんが檻のなかのクマのように部屋のなかをウロウロと歩き回っていた。
「お母さん、お父さんどうしたの?」
私の夕食を温めていたお母さんが、仕方のない動物を見るようにお父さんを見る。
「さっき、お兄ちゃんから電話があって、明日彼氏さんを家に連れてくるんだって」
「えっ! 春田さん来るの?」
お兄ちゃんがルームシェアをしている春田さんと、そういう関係になったような気がするというようなことは、時々来る電話や母の話で知っていた。
「嘘! お父さんに云ったの?」
自然と声が小さくなったのは、椅子の足に足の指をぶつけて悶えているクマに配慮してのことだ。
「そうみたい。お父さんに変わってっていうから、あらっと思ったのよ」
お母さんと二人で笑う。
「楽しみね」
後ろで復活したクマが再びウロウロと動きはじめた。
春田さんは、男の子のような男の人だった。あんまりにお母さんのご飯を美味しそうに食べるのを見て、一目で好きになった。お兄ちゃんは、私や母と話すように春田さんと話す。ちっともしっかりしていない春田さんは、お兄ちゃんの一言、一言に百面相をしていてとても面白い。
春田さんの視線が、私の胸をチラチラと見ていることに気づいた。この人は普通に女の人を好きな人なのかもしれないと少し不安に思った。
「ルームシェアするってきいて、迷惑かけてないかなぁって心配してたの。でも中良さそうでよかったぁ」
お母さんが呑気に笑う。
「いや、僕もまさか付き合うことになるとは思わなかったですけど」
たくさん食べ物が入った口を腕で隠しながら、モゴモゴと春田さんが云った。その瞬間、さっき感じた不安がストンと落ちた。あぁ、そっか。この人は、普通に女の人を恋人にしてきた人で、お兄ちゃんが初めての男の恋人なんだ。お兄ちゃんのことが好きなんだ。お兄ちゃんが、この人を変えたんだ。目の前で美味しそうにご飯をほおばる春田さんを見る。
「でも今回は本気なんだね」
「はぁ」
「だってお父さんが、家にいるときに連れてきたのはじめてじゃん」
苦虫をかみつぶしたような顔でお兄ちゃんがそっぽを向く。ばれていないとでも思っていたのだろうか。それとも本当に、気づいていなかったのか。
「本気?」
春田さんがお兄ちゃんの顔をのぞき込む。その仕草が、あまりにも男の子で、私まで可愛らしいと思ってしまった。
日曜の午後は、面白可笑しく、明るく過ぎていく。太陽の光を浴びてカラッとしたお布団のようだ。
「泊まっていけばいいじゃない」
「いや、明日会社だから」
「今日は本当にありがとうございました。結局夜ご飯までごちそうになっちゃって。ご飯美味しかったです。お邪魔しました」
「また、来てくださいね」
後ろでリビングから、こっそりお父さんが、私たちを見ているのに気づく。拗ねてないでこっちに来ればいいのにと思う。
楽しそうにお兄ちゃんとその彼氏が自分たちの住処へと帰っていいった。扉が小さく音を立ててしまったとき、お祭りの後のような気分になった。
「春田さん、面白い人だったね」
「お兄ちゃんみたいな人には、春田さんくらい明るい人がいいのかもしれないわね」
ため息みたいにお母さんが笑う。今までお兄ちゃんが連れてきた彼氏を思い浮かべる。その誰よりも春田さんは、まっすぐで明るくて、浅くて、鈍感で子供のように思えた。すごくすごく力強く怒りに任せて、叩いても軽く素っ頓狂な音しか鳴らない楽器みたいな人だ。
「そうかもしれないね」
さてと、とお母さんはリビングへ向かう。
「お父さん、いつまで拗ねてるの。もぅ」
遠くから母とお父さんの会話が聞こえる。
お兄ちゃんと春田さんが出ていった玄関の扉を眺める。今度二人がまた来た時、今日よりも盛大にお迎えしようと決意を固めて。
日曜日の夕暮れは少しだけセンチメンタルな気持ちになった。
