given
バイト帰りにたまたま立夏と柊と玄冬に会い、四人でラーメンを食べた帰りだった。
「あ、俺ら付き合っているから」
口角を上げて挑戦的な笑みを浮かべて柊が玄純の腕をとる。わずかに態勢を崩した玄純は、一拍置いてコクリと頷いた。
バイト面倒くせえ。スタジオ代高けえの流れでの突然の発言だった。世界の音が止まった。そう錯覚したのは、一瞬のことで、すぐに車のクラクションや知らない誰かのお喋りで静寂は破られる。
パチクリと瞬きを繰り返す真冬の隣で、立夏の視線は真冬とカップルになった二人の間を高速で往復していた。その様子を見て、真冬は、あぁ上ノ山君は知っていたんだなぁとぼんやりと思った。
「……そう」
「なんだ。驚かねえの?驚かせてやろうと思ったのに」
真冬は内心動揺していた。顔に出にくいタイプなのだ。視線を感じて、斜め上を見上げると、玄純と目があった。玄純にはこの動揺はきっとバレている。
「驚いているよ」
「へえ」
真横に広がった柊の口角から八重歯がチラッと覗いた。だんだん、真冬はこの幼馴染にイライラしてきた。
「なんだよ。あんだけ葉っぱかけておいて嬉しくねえの?」
眉間にしわを寄せた柊が唇を尖らせる。
「わぁ、おめでとう。我儘ばっか言ってシズちゃんに捨てられないようにね」
棒読みでわざとらしくパチパチと拍手する。玄純は、口数は少ないくせに眼差しは雄弁な男だった。執着。真冬にとって初めて知った執着は、柊に向けられたその眼差しだった。由紀が、音楽に心を奪われて自分から離れて行った時、真冬は玄純が柊に向けるその眼差しの意味に気づいてゾッとした。
いったい何年間、玄純は、柊を見ていた?
だから、おめでとうは、柊ではないもう一人の幼馴染に向かって云った。柊はもうシズちゃんから離れることはできないんだろうな。寡黙な幼馴染は、きっと柊が離れたがったとしても、どんな手を尽くしても一生離すつもりはないのだろう。
「ケッ! むかつく。じゃあな」
常に話題の中心にいる爆弾発言野郎は、ひらりと背を向けると、ヒラヒラと真冬と立夏に手を振った。もう片方の手は、新しくできた自分の男の手首を捕まえている。
改札口に消えていく背中を見送ってから、真冬は立ち尽くしたままの立夏の袖を引いた。
「上ノ山くん、知ってた?」
「あぁ、まあな。玄純から」
「へえ、シズちゃん、そんなこと言うんだ」
「愛してるって、歌詞とかドラマじゃなく人間の口からはじめて聞いた」
強張った立夏の表情を和らげるように、真冬はその身体にトンと肩を当てた。立夏の動揺が触れた肩から伝わってくる。
「俺もたぶん云えるよ」
数か月前、立夏をなくしたくないから、音楽から離れてもいいと思った。今、立夏の隣に居たいから音楽を続けようと決めた。
「お前の幼馴染、みんな頭おかしい」
吐き捨てるように立夏が云った。たぶん、立夏が云うその幼馴染には由紀もいる。そうやって「おかしい」って云ってくれる立夏だから大丈夫かもしれないと真冬は思えた。軽々と越えちゃいけない一線を越えることを立夏はしない。断れない状況に追い詰める癖に退路を残して選択させる狡いやり口も遣わないし、軽々とフェンスにも登らない。真冬のために死んだりなんて絶対にしない。
「好きだよ」
近くにあった立夏の顔を覗き込む。バチっとあった眼差しを一瞬反らせれる。太めの髪がパサパサと頬の傍で揺れている。耳が真っ赤なのが可愛いと思った。
「俺も好きだよ」
真冬にだけ聞こえるような小さな声で立夏が囁いた。真冬はそのまま立夏の身体に体重を乗せた。小指が触れる。手は繋がない。でも触れたところをはがしたりはされなかった。それだけで十分だと思った。
「あ、俺ら付き合っているから」
口角を上げて挑戦的な笑みを浮かべて柊が玄純の腕をとる。わずかに態勢を崩した玄純は、一拍置いてコクリと頷いた。
バイト面倒くせえ。スタジオ代高けえの流れでの突然の発言だった。世界の音が止まった。そう錯覚したのは、一瞬のことで、すぐに車のクラクションや知らない誰かのお喋りで静寂は破られる。
パチクリと瞬きを繰り返す真冬の隣で、立夏の視線は真冬とカップルになった二人の間を高速で往復していた。その様子を見て、真冬は、あぁ上ノ山君は知っていたんだなぁとぼんやりと思った。
「……そう」
「なんだ。驚かねえの?驚かせてやろうと思ったのに」
真冬は内心動揺していた。顔に出にくいタイプなのだ。視線を感じて、斜め上を見上げると、玄純と目があった。玄純にはこの動揺はきっとバレている。
「驚いているよ」
「へえ」
真横に広がった柊の口角から八重歯がチラッと覗いた。だんだん、真冬はこの幼馴染にイライラしてきた。
「なんだよ。あんだけ葉っぱかけておいて嬉しくねえの?」
眉間にしわを寄せた柊が唇を尖らせる。
「わぁ、おめでとう。我儘ばっか言ってシズちゃんに捨てられないようにね」
棒読みでわざとらしくパチパチと拍手する。玄純は、口数は少ないくせに眼差しは雄弁な男だった。執着。真冬にとって初めて知った執着は、柊に向けられたその眼差しだった。由紀が、音楽に心を奪われて自分から離れて行った時、真冬は玄純が柊に向けるその眼差しの意味に気づいてゾッとした。
いったい何年間、玄純は、柊を見ていた?
だから、おめでとうは、柊ではないもう一人の幼馴染に向かって云った。柊はもうシズちゃんから離れることはできないんだろうな。寡黙な幼馴染は、きっと柊が離れたがったとしても、どんな手を尽くしても一生離すつもりはないのだろう。
「ケッ! むかつく。じゃあな」
常に話題の中心にいる爆弾発言野郎は、ひらりと背を向けると、ヒラヒラと真冬と立夏に手を振った。もう片方の手は、新しくできた自分の男の手首を捕まえている。
改札口に消えていく背中を見送ってから、真冬は立ち尽くしたままの立夏の袖を引いた。
「上ノ山くん、知ってた?」
「あぁ、まあな。玄純から」
「へえ、シズちゃん、そんなこと言うんだ」
「愛してるって、歌詞とかドラマじゃなく人間の口からはじめて聞いた」
強張った立夏の表情を和らげるように、真冬はその身体にトンと肩を当てた。立夏の動揺が触れた肩から伝わってくる。
「俺もたぶん云えるよ」
数か月前、立夏をなくしたくないから、音楽から離れてもいいと思った。今、立夏の隣に居たいから音楽を続けようと決めた。
「お前の幼馴染、みんな頭おかしい」
吐き捨てるように立夏が云った。たぶん、立夏が云うその幼馴染には由紀もいる。そうやって「おかしい」って云ってくれる立夏だから大丈夫かもしれないと真冬は思えた。軽々と越えちゃいけない一線を越えることを立夏はしない。断れない状況に追い詰める癖に退路を残して選択させる狡いやり口も遣わないし、軽々とフェンスにも登らない。真冬のために死んだりなんて絶対にしない。
「好きだよ」
近くにあった立夏の顔を覗き込む。バチっとあった眼差しを一瞬反らせれる。太めの髪がパサパサと頬の傍で揺れている。耳が真っ赤なのが可愛いと思った。
「俺も好きだよ」
真冬にだけ聞こえるような小さな声で立夏が囁いた。真冬はそのまま立夏の身体に体重を乗せた。小指が触れる。手は繋がない。でも触れたところをはがしたりはされなかった。それだけで十分だと思った。
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