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ネヴァ

「清史郎、春人は元気か」

 薄暗く獣の匂いのする部屋で、煤けた天井を眺めながら、俺は傍にいた清史郎に問う。

「知らねーよ、あんなやつ」

 清史郎はまだこの間、春人が俺に「出ていけ」と云ったことに対して彼に腹を立てているようで返答は素気ない。

「清史郎、まだ怒ってんのか。春人がああいうのももっともだろう。俺はああ云われるようなことをやったんだ」

 春人に「出ていけ」と云われたとき正直驚いた。もしかしたらこれはとても恥ずかしいことだけれど、春人なら俺のしてしまったことを聞いても許してくれるかもしれないなんて思っていた自分がいたのかもしれない。あの汚れのない綺麗な白い手でそっと肩を抱いて一緒に俺の罪を嘆いてくれるなんて思っていたのかもしれない。
清史郎から春人の弟の話を聞いた時、俺は心底自分を恥ずかしく思ったし、自分が嫌になった。
「春人はまだ・・・、何でもない」

「春人はまだ苦しみ続けているのか」そう聞こうとして口を噤む。 彼が解放されることなく苦しみ続けているのは一目瞭然だった。「その人には一生残るのに、鉄平だけ解放されるの」そう悲痛そうに叫んだ彼はきっとまだ自分を許すことができないのだろう。泣きたくなった。理不尽に自分を責め続けなくてはいけない彼にも、自分の兄を無理に憎まなくてはいけない清史郎にも、そして大切なものを木端微塵に壊してしまった自分にも。どうしてこうも救いがないのだろう。

「春人が俺のことで自分を責めてなければいいのに・・・」

 きっと、優しい彼のことだ。仕方がないことなのに俺を追い出したことにも後ろめたさを感じてしまっているんじゃないだろうか。

「鉄平は優しいな」

 清史郎が屈託のない笑みを浮かべて云う。
 俺はまったく優しくなんかないよ。本当に優しい人だったらお前に兄を憎ませることも、春人にしなくてもいい罪悪感を抱かせることもないはずだ。ただただ愚かなだけなんだ。どんどん重くなっていく十字架を少しでも軽くしたいだけなんだ。
帳面張力で保っていた涙はいつの間にか頬を濡らし床に染みを作っていた。
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