短編置き場

聞いて、感じて、考えた。
考えたけど、どうしたって未来は変わらない。
アタシの未来視は百発百中、精度は完璧。コントロールできないのが唯一の欠点。
だからそう。ウチの一族がバラバラになることも何もかも、年寄り連中は承知の上である。けど、生きていれば、いつか帰る場所をまた作れる。
アタシたちの一族の強さをナメないでほしい。だけど、だけど、これだけは本当に、最後まで納得は出来なかった。

——星の神、我らを導く光の神よ
——どうしたって、この子は西方へ行かなきゃいけないのかい?
——こんな未来、まだ3つのガキに背負わせなきゃいけないのかい?

——……いや、わかってる。こうしないと、いずれ来る"終末”とやらに抗えないのも視えた。アタシの未来視は絶対だから。


——…………そう、分かった。ならばこの未来に従って、この子だけは西に逃がす。そこでアタシが病に倒れようと。無理にでも受け入れようじゃないか


ふらりと襲う眩暈を振り払う。未来視は便利なものだと認識しているが、狩りの邪魔にもなるこの眩暈だけは忌々しい。
ちっ、と舌打ちをしていると、頬にぺたぺたと柔らかい紅葉が叩いた。

「ねーちゃ?」
「ン……だいじょーぶ、ありがとね」
「ん!」

舌っ足らずな声で己を呼び、きゃらきゃらと笑う幼な子に、胸が痛くなる。目つきが鋭く強く大人びて、背が伸びて、筋肉がついて逞しくなった、この子の未来に、アタシはいない。
きっといつか、寂しがる。わかるのだ。ヴィエラは一族の結びつきが強い種族だから。だから、今のうちに、アンタは愛されていたのだと、めいいっぱいの愛を、アンタに。
いつかこの子を愛してくれる、あの金色の輝きがこの子の前に現れるまでは、アタシがこの子を愛するのだ。

チカチカと視界の端が瞬く。山を超え、草原を駆けて、海原を臨み、生まれて100年と少し。自分も初めて目にした紅玉海に昇る朝日にの美しさに目が眩む。
隣では、まだ世界の何も知りやしない幼な子が声を上げて喜んでいる。

……ああ、そうだ。この子に贈る、この子を愛したカタチが見つかった。

「……『メイ』 」
「う?」
「いいかい、チビ。アンタの名前は、『メイ』だよ。言ってごらん?」
「めー?」
「ちょぉっと違うね……メ・イ!ほら、続けて」
「めい?」
「そ、よく出来たね」
「ん!」

わしわしと頭をなでると喜ぶ。どうやらこれが好きらしい。かわいいものだ。
いつかその名が、この子を照らす導となることを願って。

”明” 東の国で明かりを示すこの言葉を、アンタに贈ろう。
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