「…最後…こうやって、誰かがそばにいてくれるなんて、思いもしてなかった…」


『ネスの気が許すなら、だけど…抱きしめていてほしいんだ』

さっき、君から伝えられた最後の頼みというのが、なんだか可愛らしいもので。

死ぬ間際、人のぬくもりの中にいたい…という、いわばちょっとした甘え願望的なものだった。

「もう、短いけど…やっと、帰ってきてくれたね」
「いろいろ…ごめん、ネス…」
「ううん、いいんだ。それより、お帰り」
「…ただいま…」

そういうと、レティは弱々しく僕へと抱きついてきて。

僕も僕でそんなレティを抱きしめ返していると、ある時を境にふっと重さを感じ始めた。

「…レティ？」
「…」

ちょっとした呼びかけにも、全く反応が返ってこなくって。
…変だなあと思ってみれば、やはりというか、とうとうレティが息を引き取ってしまったようだった。

「…きっとずうっと、気持ちがすれ違ってたよね。
でもね…やっぱり…」

一人取り残されて、やりきれない気持ちやら何やらがまとめてこみ上げてきて、一時的に止まっていた涙がまた少しずつ僕の頬を伝い下りていく。

そんな中だんだんと冷たくなる体を抱き寄せて、強く抱きしめた。
そのまま存在をしばらくの間だけでも失いたくなくて、結果自身は微塵にも動かないまま時間が過ぎ去っていく。

「…ごめんね…僕、結局…
それから…ありがとう…」

最後には、そんな呟きがあたりに小さく響いたのだった。