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狩人

「はあ…すみません、私の休憩に付き合わせちゃって…」

さっきの不敵な笑みは何処へやら、申し訳無さそうに微笑みながらラビが呟く。
今は、つい先程倒したオーガを人目につかない茂みへ隠し、疲弊しているように見えた彼女へ声をかけて木陰で休んでいるところである。聞けば、体力は不安が残る方らしく、戦い終えたあとは大体休みを挟んでから帰っているのだという。

「良いんですよ。こんな日も好きですし」
「でも…その、すごい人を私なんかに付き合わせて申し訳ないと言うか…」
「そもそも、依頼だって私がかけたんです。私が良いといえば、それでいいでしょう?」
「…まあ、それもそうですね。依頼者本人が良いなら、それが正解か…」

ちらちらと揺らめく木漏れ日と優しい風が、とても心地よい。そんな中ふと隣を見れば、疲れているのかやや微睡み始めている彼女の姿があった。
先程までとはまたさらに変わって、今度はあどけなさが見え隠れするのが可愛いな、とつい微笑んで見つめてしまう。とはいえ、流石にこんなところで寝るわけにはいかないので、軽く名前を呼んで起こすことにした。

「…ラビ」
「…!!」
「帰りましょう?眠るなら家のほうが良いでしょうし」
「あ…すみません、つい…。そう…ですね、帰りましょうか」

眠いのだろう、目を軽くこすってから伸びをするのが見える。…ここがなんてことない場所なら、ずっと貴女のことを寝かせてあげられたのに…なんて、自分らしくないことを思いながら、立ち上がった彼女へ続くように私も立ち上がった。
帰りの道は行きの道とは違い、比較的穏やかに会話をしながら歩いた。

「最初、受けようか悩んだんです。巷でも名の知れた凄い人だから、私が引き受けて良いのかって」
「凄い人だなんて、そんな事ないですよ。天使って呼ばれてるけど、単に他人に興味がないだけです」
「ふふ…でも、何度かバフステータスを付与してもらってて思いましたよ。一つ一つの付与がかなり強力だって」

自然と微笑みを浮かべて、彼女が話してくれる。そんな穏やかな表情が私の中へ優しく入り込んでくるような気がして、私も釣られて穏やかな笑顔を…いつもとは違って、心からの微笑みを浮かべる。

「…私も初めは戸惑いました。貴女みたいな性格の方は初めてだったので、分からなくて」
「ああ…すみません…」
「異名も凄いから、どんな人なのかって思っていましたが…実際に会ってみると可愛くてかっこいい方だなって、強くて逞しい人だって思いましたよ」
「可愛くてかっこいい、ですか…。ふふ、私には勿体ない言葉です…」

照れくさそうに、彼女が笑う。勿体ないだなんて、そんな事全くないのに…と思うものの、重ねてそう言ったところで苦笑いが返ってくるような気がしてやめた。
そんな中、ふと気になってある疑問を訊ねてみた。

「ラビは、これを専業に?」
「いえ…私の本職は全くの別物ですね。ミアさんは?」
「私もですね。つまり、本職じゃないのにあそこまで強い、と…。やっぱり凄い人です」
「ミアさんだって、それ専門じゃないのなら相当な実力者じゃないですか」

そう言って、お互い顔を見合わせながら笑う。…こんなの、気心の知れた友人とも頻繁にはないのに、彼女から漂う柔らかな空気が不思議とそうさせてくれるのだろうか。何であれ、彼女の側は不思議と安心する。
次第に、街の入口が見えてくる。話していたら、もうそれなりの距離を歩いていたらしい。少し名残惜しく感じる私とは反対に、役目を果たしたと胸をなでおろしている様子の彼女に寂しさを覚える。

「…戻ってきましたね」
「です、ね…」
「ふふ、今日は楽しかったです。ありがとうございました、ミアさん」
「えっ、あ…はい」

私の返事が突然歯切れの悪いものに変わったせいか、彼女が少し戸惑っているのが分かる。正直、自分でも突然の感情の動きばかりで、未だに掴めないままなのだが…。
心配そうな様子を見せつつも、ここまで送ったなら大丈夫、と判断したのだろう。それじゃあ、と言って立ち去ろうとする。

「…待って!」

が、それを私が呼び止めた。言わずもがな、彼女は引き止められてかなり困惑している様子だった。

「えっと…?」
「また…一緒に組んでくれますか…?」
「私、ですか?構わないですけど、ミアさんなら他の強い人からも引く手あまただと思いますよ…?」
「他の人じゃダメなんです…!!どうしても、貴女が良くて…」

また、あの表情を近くで見たいから。貴女のことは、不思議ともっと知りたいと思ったから。
いきなり渦巻いた感情をどうにかしようにも、その感情が何なのかが私には未だ上手く分からず、自分でもびっくりするぐらいの勢いで彼女へ頼み込む。
彼女もぽかんとしていたものの、構わないと言って頷いてくれた。

「ミアさんが望む時にでも、声をかけて貰えれば良いですよ」
「…ふふ、ありがとうございます…!」

その後は改めて別れ、私は家への道を歩いていく。いつも以上に足取りが軽いのは、きっと彼女のおかげだろう。
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