狩人
「えっと、よろしくお願いします」
目の前でおずおずと頭を下げる、兎の獣人の女の子。
あの後実際に依頼をかけてみたところ、どうやら彼女の目に留まったらしく、こうしてやって来てくれたのだ。
…「血に塗れた兎」、「暴兎」と密かに呼ばれているらしいが、私よりも頭一つ分小さいその身と穏やかな雰囲気からは全く想像がつかない。かくいう私は風の噂で「静寂の天使」と呼ばれているそうだが、他者に興味がないが穏便に済ませたいだけの性分なので、天使と言うには合っているようで違うような…と思っている節がある。
「ええと、ミアさん…でしたよね」
「そうです。よろしくお願いします、ラビ」
「こちらこそ…!」
人見知りなのか、私と話す時にそわそわとしているのが目に付く。依頼を受けた際に聞いた話では、どうやら彼女は滅多なことがない限りは誰かと行動を取ろうとしないそうで、私と組む今回はかなり珍しい方なのだという。やや独特な戦い方を好んで使うから、初めは戸惑うかもしれないとも言われた。
それらを鑑みるに、いつものようなコミュニケーションは厳しいだろうか。しかしそうやって心配する私とは裏腹に、目の前の彼女は私のことをじっと見つめてくる。
「どうかしましたか?」
「いっ、いえ!ちょっと、戸惑ってるだけです」
「戸惑ってる…?」
「…すみません、私いつも一人だから…」
不安そうな目を地面へ向け、手に持つ武器をぎゅっと握るのが見える。一応、私が依頼をかけた時に「攻撃役が望ましい」と明記したはずだし、彼女も武器を持っているしで、ポジションとしてはアタッカー相当に違いないというのは分かるのだが…少しだけ心配が過ぎる。
「とりあえず、道中はゆっくり話しながら歩きましょうか」
「そっ、そうですね…」
「怯えなくて大丈夫ですよ。肩の力をもっと抜いてくださった方が、私としても気が楽です」
「すみません…」
さっきからずっと申し訳無さそうにしょげている彼女を見ていると、段々と私までどうしたら良いのか分からなくなってくる。道中も話でもしようと提案したは良いが、いつものような空気感とは違いすぎて何を話せば良いのか分からない。
…とりあえず、討伐対象としてオーガを指定されているので、その対象がいるところまで歩きだすことにした。やはりその道中も、彼女の不安…もとい警戒心はそうそう解けないようで、普段の比にならない壁を感じながら会話をする。
「ラビは攻撃を専門としているんですか?」
「ええと…なんというか…。攻撃に重きを置いた戦い方ではあるけど、攻撃専門ではない、です」
「へえ、何だか気になりますね」
「…えっと、ミアさんは後方支援専門なんですか?」
「ええ。攻撃を出来るようにしようとしたこともありましたけど、素質がないのかからっきしで。もう今は諦めました」
「なるほど、です」
会話を上手く繋げられないのか、度々空白の時間が起こる。その都度どこか申し訳無さそうに顔を曇らせる彼女が見ていられなくて、私の方から適当に話を振ってしまう。良いか悪いかは、この際置いておくとして。
…それにしても、攻撃専門ではないが攻撃重視という戦い方は非常に気になる。どうやらこの形の戦い方はスタイルの確立がやや難しいらしく、私も友人から似たような話を聞いて知っているだけで、実例は一度も見たことがないのだ。それもあり、とりわけ早く見てみたいという気持ちが沸き起こってくる。
「もし良かったら、貴女の戦い方についてもう少し聞きたいんですけど…」
「えっ…?聞いたって面白くはないですよ?一言で言えば、良くも悪くもバランス型みたいなとこで収まってるので…」
「バランス型?」
「…私、こう見えて物理も魔法も両方扱えるんです。一人で倒しに行くことが多いので、できるだけ単騎でも動ける様にしておきたくて…」
どこか自嘲と心の距離を感じる言い回しに戸惑うが、彼女の言わんとしていることは私でも理解できた。バランス型だと卑下しているように見えるが、そもそも両刀で戦うには、それなりの才を持ち合わせていないとかなり難易度が高いはずである。その時点でかなり凄いことだし、同行する私に至っては、攻撃となると魔法ですらからきしな有り様であることを考えると、そもそものポテンシャルや能力が高いのだろう。
だからバランス型といえど、両刀で戦えるというだけても彼女が持ち合わせている大きな強みだと感じてしまう。
「なるほど。でもそれなら攻撃専門じゃないですか。他は…攻撃重視ならバフステータス付与、とかですか?」
「ええと…真逆ですね。デバフステータスを付与するのが得意、です…」
「デバフステータス…なるほど…」
彼女が教えてくれる内容をふまえ、一人何となく考えていく。…それにしても、こうしておどおどしている様子とは反対に位置しそうな戦い方な気がしてきたのだが、私の気のせいだろうか。これを内容の通りに受け取ると、弱い所を一気に攻めるか嬲り殺しに近い形になるかのいずれかにたどり着きそうなものだが…。
言葉にすると中々恐ろしく聞こえる、と考えていたことを頭を振って一旦取り消す。想像でしか語れない今は、考えない方が良いだろうと思ったのだ。
…ちら、とあの中々恐ろしい別名が脳裏をよぎっていったが、変な誇張も入っているだろうからと考えないでおくことにした。
目の前でおずおずと頭を下げる、兎の獣人の女の子。
あの後実際に依頼をかけてみたところ、どうやら彼女の目に留まったらしく、こうしてやって来てくれたのだ。
…「血に塗れた兎」、「暴兎」と密かに呼ばれているらしいが、私よりも頭一つ分小さいその身と穏やかな雰囲気からは全く想像がつかない。かくいう私は風の噂で「静寂の天使」と呼ばれているそうだが、他者に興味がないが穏便に済ませたいだけの性分なので、天使と言うには合っているようで違うような…と思っている節がある。
「ええと、ミアさん…でしたよね」
「そうです。よろしくお願いします、ラビ」
「こちらこそ…!」
人見知りなのか、私と話す時にそわそわとしているのが目に付く。依頼を受けた際に聞いた話では、どうやら彼女は滅多なことがない限りは誰かと行動を取ろうとしないそうで、私と組む今回はかなり珍しい方なのだという。やや独特な戦い方を好んで使うから、初めは戸惑うかもしれないとも言われた。
それらを鑑みるに、いつものようなコミュニケーションは厳しいだろうか。しかしそうやって心配する私とは裏腹に、目の前の彼女は私のことをじっと見つめてくる。
「どうかしましたか?」
「いっ、いえ!ちょっと、戸惑ってるだけです」
「戸惑ってる…?」
「…すみません、私いつも一人だから…」
不安そうな目を地面へ向け、手に持つ武器をぎゅっと握るのが見える。一応、私が依頼をかけた時に「攻撃役が望ましい」と明記したはずだし、彼女も武器を持っているしで、ポジションとしてはアタッカー相当に違いないというのは分かるのだが…少しだけ心配が過ぎる。
「とりあえず、道中はゆっくり話しながら歩きましょうか」
「そっ、そうですね…」
「怯えなくて大丈夫ですよ。肩の力をもっと抜いてくださった方が、私としても気が楽です」
「すみません…」
さっきからずっと申し訳無さそうにしょげている彼女を見ていると、段々と私までどうしたら良いのか分からなくなってくる。道中も話でもしようと提案したは良いが、いつものような空気感とは違いすぎて何を話せば良いのか分からない。
…とりあえず、討伐対象としてオーガを指定されているので、その対象がいるところまで歩きだすことにした。やはりその道中も、彼女の不安…もとい警戒心はそうそう解けないようで、普段の比にならない壁を感じながら会話をする。
「ラビは攻撃を専門としているんですか?」
「ええと…なんというか…。攻撃に重きを置いた戦い方ではあるけど、攻撃専門ではない、です」
「へえ、何だか気になりますね」
「…えっと、ミアさんは後方支援専門なんですか?」
「ええ。攻撃を出来るようにしようとしたこともありましたけど、素質がないのかからっきしで。もう今は諦めました」
「なるほど、です」
会話を上手く繋げられないのか、度々空白の時間が起こる。その都度どこか申し訳無さそうに顔を曇らせる彼女が見ていられなくて、私の方から適当に話を振ってしまう。良いか悪いかは、この際置いておくとして。
…それにしても、攻撃専門ではないが攻撃重視という戦い方は非常に気になる。どうやらこの形の戦い方はスタイルの確立がやや難しいらしく、私も友人から似たような話を聞いて知っているだけで、実例は一度も見たことがないのだ。それもあり、とりわけ早く見てみたいという気持ちが沸き起こってくる。
「もし良かったら、貴女の戦い方についてもう少し聞きたいんですけど…」
「えっ…?聞いたって面白くはないですよ?一言で言えば、良くも悪くもバランス型みたいなとこで収まってるので…」
「バランス型?」
「…私、こう見えて物理も魔法も両方扱えるんです。一人で倒しに行くことが多いので、できるだけ単騎でも動ける様にしておきたくて…」
どこか自嘲と心の距離を感じる言い回しに戸惑うが、彼女の言わんとしていることは私でも理解できた。バランス型だと卑下しているように見えるが、そもそも両刀で戦うには、それなりの才を持ち合わせていないとかなり難易度が高いはずである。その時点でかなり凄いことだし、同行する私に至っては、攻撃となると魔法ですらからきしな有り様であることを考えると、そもそものポテンシャルや能力が高いのだろう。
だからバランス型といえど、両刀で戦えるというだけても彼女が持ち合わせている大きな強みだと感じてしまう。
「なるほど。でもそれなら攻撃専門じゃないですか。他は…攻撃重視ならバフステータス付与、とかですか?」
「ええと…真逆ですね。デバフステータスを付与するのが得意、です…」
「デバフステータス…なるほど…」
彼女が教えてくれる内容をふまえ、一人何となく考えていく。…それにしても、こうしておどおどしている様子とは反対に位置しそうな戦い方な気がしてきたのだが、私の気のせいだろうか。これを内容の通りに受け取ると、弱い所を一気に攻めるか嬲り殺しに近い形になるかのいずれかにたどり着きそうなものだが…。
言葉にすると中々恐ろしく聞こえる、と考えていたことを頭を振って一旦取り消す。想像でしか語れない今は、考えない方が良いだろうと思ったのだ。
…ちら、とあの中々恐ろしい別名が脳裏をよぎっていったが、変な誇張も入っているだろうからと考えないでおくことにした。