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作曲拒否のマスターとルカの日常
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「そういえば、絵兎はどうして私を買おうと思ったんですか?」
布団に入り、さあ寝よう…としたは良いものの、結局寝付けそうにもないまま、もうすぐ時計の針が深夜を指そうとしている今。どうやらルカも私につられてかまだ起きていたようで、静かな空気の中、ぽつりとそんなことを訊ねてきた。
「どうして、って?」
「だって、作曲趣味があるわけじゃないんでしょう?なら、ボーカロイドとしての存在である私を選ぶ必要なんて、これっぽちもないじゃないですか。それこそ、私より安くて同じような性能を持つモデルも、探せば出てきそうなものですし…」
「…まあ、確かにねえ」
この環境下、悪い方向へと考えが進んでいってしまったのかもしれない。珍しく私以上に後ろ向きなルカの言葉を聞きながら、そうぼんやりと考える。
とはいえ、今ルカが言っていること自体は最もだ。色々なモデルの中には、ルカと同じ位の値段でオプションまで付けられるような、それでいて性能はさほど変わらずに価格だけ安く設定されている様なものも、無名であることが多いが実際に存在する。加えて、私が当初ルカを買った理由を考えれば、そちらに流れるほうが至極妥当に思うのも当然だろう。
…少し前に一緒にセールを見たことで、尚の事ルカの中で不安が湧き起こってきたのかもしれない。
「実際のところ、勿論いるにはいるよ。安くて、同じ様な性能を持つ子」
「…やっぱり、そうですよね」
「けど、私が結局求めてたのは"誰か"としての存在じゃなくて、"巡音ルカ"としての存在でしかなくて。私の歌を歌ってほしいだとか、歌姫として名を知らしめたいだとか、そんなものは全て抜きにしてルカがよかったの」
「巡音ルカ、としての存在…」
まるで私が話した言葉を落とし込むように、神妙な顔でルカが呟く。…私としては本音を並べただけで、決してそんなに凄い話はしていないはずなのだけれど。
しばらくの間ぽつりぽつりと呟いたり、黙って考えたりしていたと思うと、分かったような分からないような…と、考えるのを諦めたのが背中越しに伝わってきた。
「いいの、ルカはルカでいてくれれば。歌わなきゃいけないとか、ボーカロイドだからだとか、そんなものは二の次で構わないの」
「でも、私からボーカロイドとしての存在がなくなると、それこそアイデンティティが…」
「失くならないよ。私は生きていく中でルカにいてほしい、それだけだから。…まあでも、そう思う気持ちはわかるけどね」
そう言ってから、少し苦笑いをする。…ルカの言いたいこと自体は、私にも嫌でも理解できたから。
きっと、自分が自分であるための核が、ルカの場合は『ボーカロイド』としての存在なのだろう。私が、絵を描くという事を自分たらしめる要素として持っているように。それが無くなった時、言い方は過激だが自分の存在意義を見失ってしまう。ルカの場合は、尚更に。
…つまり見方によっては、私はある種の酷い仕打ちを、それもきっと本人にとっては一番酷であろうものをルカに強いている、ということになる。普段はいいかも知れないが、改めてこうルカから問われると、私がじわじわとルカを壊しているのかもしれない、といつも思う。
「…絵兎?」
「…ちょっと、色々考えてた。ごめんごめん」
私があまりに黙ったまま考え込んでいたからか、ルカは相当戸惑っている様子だった。そんなルカの方へ向くと、腕を回して体をギュッと抱きしめる。こうしていると、人肌と違って機械的な冷たさをはらんだ温かさではあるが、とりあえず傍に誰かがいると感じて、じわじわと侵食して広がる果てしない孤独感が和らいでいくのだ。また、ルカが優しく抱きしめてくれると、いつもほんのりと安心できて落ち着く。
「…こうやって一緒に居てくれるだけで、私は嬉しいよ」
「…絵兎」
「でも、ルカが歌を歌いたいって言うなら…誰かに作ってもらうってのも考えるよ?きっとネットとか…」
「…いいです。私が歌いたいのは、あくまでもあなたが作った歌だけですから」
そう言うと、ルカが回してくれている腕の力が少しだけ強くなった。…まるで、意地でも私から離れないとでも言うように。
「…というかさ、ルカも分かってるでしょ。私がどういう性格か、ある程度もう…」
「…まあ、そうですね。そこから考えると納得します」
「…なんかごめんね、色々と面倒なマスターで」
そう言いながら、ルカの胸元へ顔を埋める。ルカは特に何も言わないまま、包み込むようにぎゅうっと抱きしめてくれる。…今日はルカも相当不安なのか、心なしか力が強い。
徐々に微睡む意識の中で好き…と小さく零すと、私もですよ、とルカも静かに返してくれた上、優しく頭を一撫でしてくれた。
布団に入り、さあ寝よう…としたは良いものの、結局寝付けそうにもないまま、もうすぐ時計の針が深夜を指そうとしている今。どうやらルカも私につられてかまだ起きていたようで、静かな空気の中、ぽつりとそんなことを訊ねてきた。
「どうして、って?」
「だって、作曲趣味があるわけじゃないんでしょう?なら、ボーカロイドとしての存在である私を選ぶ必要なんて、これっぽちもないじゃないですか。それこそ、私より安くて同じような性能を持つモデルも、探せば出てきそうなものですし…」
「…まあ、確かにねえ」
この環境下、悪い方向へと考えが進んでいってしまったのかもしれない。珍しく私以上に後ろ向きなルカの言葉を聞きながら、そうぼんやりと考える。
とはいえ、今ルカが言っていること自体は最もだ。色々なモデルの中には、ルカと同じ位の値段でオプションまで付けられるような、それでいて性能はさほど変わらずに価格だけ安く設定されている様なものも、無名であることが多いが実際に存在する。加えて、私が当初ルカを買った理由を考えれば、そちらに流れるほうが至極妥当に思うのも当然だろう。
…少し前に一緒にセールを見たことで、尚の事ルカの中で不安が湧き起こってきたのかもしれない。
「実際のところ、勿論いるにはいるよ。安くて、同じ様な性能を持つ子」
「…やっぱり、そうですよね」
「けど、私が結局求めてたのは"誰か"としての存在じゃなくて、"巡音ルカ"としての存在でしかなくて。私の歌を歌ってほしいだとか、歌姫として名を知らしめたいだとか、そんなものは全て抜きにしてルカがよかったの」
「巡音ルカ、としての存在…」
まるで私が話した言葉を落とし込むように、神妙な顔でルカが呟く。…私としては本音を並べただけで、決してそんなに凄い話はしていないはずなのだけれど。
しばらくの間ぽつりぽつりと呟いたり、黙って考えたりしていたと思うと、分かったような分からないような…と、考えるのを諦めたのが背中越しに伝わってきた。
「いいの、ルカはルカでいてくれれば。歌わなきゃいけないとか、ボーカロイドだからだとか、そんなものは二の次で構わないの」
「でも、私からボーカロイドとしての存在がなくなると、それこそアイデンティティが…」
「失くならないよ。私は生きていく中でルカにいてほしい、それだけだから。…まあでも、そう思う気持ちはわかるけどね」
そう言ってから、少し苦笑いをする。…ルカの言いたいこと自体は、私にも嫌でも理解できたから。
きっと、自分が自分であるための核が、ルカの場合は『ボーカロイド』としての存在なのだろう。私が、絵を描くという事を自分たらしめる要素として持っているように。それが無くなった時、言い方は過激だが自分の存在意義を見失ってしまう。ルカの場合は、尚更に。
…つまり見方によっては、私はある種の酷い仕打ちを、それもきっと本人にとっては一番酷であろうものをルカに強いている、ということになる。普段はいいかも知れないが、改めてこうルカから問われると、私がじわじわとルカを壊しているのかもしれない、といつも思う。
「…絵兎?」
「…ちょっと、色々考えてた。ごめんごめん」
私があまりに黙ったまま考え込んでいたからか、ルカは相当戸惑っている様子だった。そんなルカの方へ向くと、腕を回して体をギュッと抱きしめる。こうしていると、人肌と違って機械的な冷たさをはらんだ温かさではあるが、とりあえず傍に誰かがいると感じて、じわじわと侵食して広がる果てしない孤独感が和らいでいくのだ。また、ルカが優しく抱きしめてくれると、いつもほんのりと安心できて落ち着く。
「…こうやって一緒に居てくれるだけで、私は嬉しいよ」
「…絵兎」
「でも、ルカが歌を歌いたいって言うなら…誰かに作ってもらうってのも考えるよ?きっとネットとか…」
「…いいです。私が歌いたいのは、あくまでもあなたが作った歌だけですから」
そう言うと、ルカが回してくれている腕の力が少しだけ強くなった。…まるで、意地でも私から離れないとでも言うように。
「…というかさ、ルカも分かってるでしょ。私がどういう性格か、ある程度もう…」
「…まあ、そうですね。そこから考えると納得します」
「…なんかごめんね、色々と面倒なマスターで」
そう言いながら、ルカの胸元へ顔を埋める。ルカは特に何も言わないまま、包み込むようにぎゅうっと抱きしめてくれる。…今日はルカも相当不安なのか、心なしか力が強い。
徐々に微睡む意識の中で好き…と小さく零すと、私もですよ、とルカも静かに返してくれた上、優しく頭を一撫でしてくれた。