『当施設では昼夜を問わず、常に介護を担ってくれるロボットがいまして。その子がまた、入居者さんやそのご家族様から大変人気なんですよ』
『へえ、何だかすごいですね！一体どんなロボットなんですか？』
『今から呼んできますので、ちょっとお待ちください』

そのやり取りの後、テレビの画面には人間と何ら変わりのない姿かたち、仕草をしたロボットが映し出される。インタビュアーから寄せられた質問へ答えていく際の言葉もとても流暢で、事前知識なしにこの景色を見たら、冗談でもなく人との違いなどこれっぽちも分からない。
また、その後に流れてきた普段の仕事の様子なども、人と比べた時に特別大きな違いもなさそうに見えた。むしろ機械という利点を生かし、コミュニケーションや炊事など以上に力仕事を主として請け負っているようだった。
…つまり、人とロボットとで隔てる要素は機械であること、半永久的に生きる存在である、というところぐらいなのだろう。技術の進歩はすごいものだ、とどこか他人事になりながらふと思う。

いつの頃だったかに機械工学や電子工学、情報工学などといった分野が飛躍的に伸びた結果、人と同じように暮らしているロボットたちが身近にいるようになった。
かといって風景は特別近未来的な訳でもなく、手元にあるデバイスやそれこそ今私が見ているテレビなんかも、飛躍的に進化してホログラムに近しい物になった…なんてことはなく、ありふれたスマホや液晶テレビばかりだ。それこそ、よく話題として上がりやすい空を飛ぶ車は、実用化に向けた実験がされている、という話を風の噂でしか聞かない程である。

「…すごいですねえ」

隣でそう言葉を漏らしたのは、今まさに紹介されているロボットと同じく、人と同じように暮らすことのできる機械の女性であるルカ…巡音ルカ、本人だ。
厳密に言えば個体によっても、また過ごしている環境によってもかなり、特に性格なんかは分かりやすく左右されるので、"うちの”ルカという方が正しいけれど。

「ルカだってそうでしょ？」
「まあ、そうですけど…やっぱりこの突き詰めすぎた感のある技術、なんで他に活用しないんでしょうね」

テレビに映る事例は、活用した事例なのかもしれませんけど。
そう言って首をかしげるルカを横目でちらっと見てから、もう一度画面へ目を戻す。…勿論、ルカの疑問自体はもっともではあるのだが。

『…17：50からは、街中のグルメをご紹介します！今日ご紹介するのは～』
「わ、ねえルカ見て、美味しそうじゃない！？」
「え…？わあ、本当です！」

ぼんやり見ていた中、突如として挟み込まれた紹介予告の画像に、ルカと私二人揃ってつられてしまう。…ちなみにルカはうちに来た当初、こんな風に物事へ食いつくことはまずなかったくらい、大元の性格は大人しかったりする。
もうすぐうちに来て半年だが、それだけの期間でここまで私色に染まったのかと思うと、一周回って感心してしまいそうになる。言い換えれば学習能力が高い、という事でもあるのだが…まあ言わずもがな、余計なところも一緒に学習されている。

「今度時間がある時にでも、行ってみたいですねえ」
「でもテレビに出た後だし、しばらく混むよこれ」
「それなら、同じような物をつくって楽しみます？」
「いいね、楽しそう！」

テレビで美味しそうな料理が紹介されている傍らで、そんなことを脳天気にルカと話す。再現性はそこまで高くないだろうが、まあ楽しく美味しくいただければいいや、とルカ共々考えてしまう癖があるので、結局はこんな形に行き着いていつも終わる。
…そう考えるとある意味、悪い学習の効果のお手本のような状態なのかも知れない…なんて。


この話は、こんなロボットたちと人間…主に絵兎とルカを取り巻く環境と日常の話である。