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忘 れ な い で …

勢いよく、重厚感溢れる扉が開いた。

「マスハン!?どこに…」

そこで花の言葉が止まる。
視界のやや隅の方に、動かないまま床へ倒れ込んでいる様子のマスターハンドがいたからだった。

流石にこんな様子を見たことはないのか、花とロイの二人が酷く驚いた様子でそばへ駆け寄る。

その後を追いかけるように、フライとフレアも小走りになりつつ歩いた。

「…あー、こりゃあかなり酷くやられたかな」
「積もりに積もった恨みって、こうも恐ろしいんですね…」
「マスハン、元に戻りそう…?」
「…なんとか、再起できるくらいなら…ギリギリ行けそうかな」
「ちょっと待ってくださいね。あ、もし倒れても気にしないでください」

そんな言葉の後、フレアが手に持つ杖でマスターハンドへ何やら魔法のようなものを加え始めた。
それに続くように、フライが首元へかかっていた赤い珠を外し、これまた力を加え始める。

しばらくすれば、少しずつ二人の表情が苦しそうに歪み始める。

数分ほど続けていると流石に限界も近いのか、段々と手元に震えが見受けられるようになっていく。
フレアに至っては、あと少しでも長引けばすぐに意識を失いそうな様子である。


おねがい、元に戻って…。

そこにいた皆がそう願い続けて、間もなく十分を迎えようとしていた。

「も、もう…限界が…」
「フレア、休んでても…」
「それでフライさんだけに負担が行くのは申し訳ないです…!」

ギリギリ踏みとどまっているのか、フレアの顔は目を瞑ってしまうほどに力んでいる。
かといって、フライもそこまでではないにせよ苦しそうなのはよく分かるほどに、顔が強張っている。

二人が限界を迎え始めていた、その時だった。

「…!」
「あれ…」
「マスハン!」
「花、ロイ…それに二人は…」
「…」

どうにか、再起までは漕ぎ着けたらしい。
眠りから覚めたばかりのごとくぼんやりしているマスターハンドを見ながら、フライたち二人は胸をなでおろしていた。

…同時にいくらブランクがあるとはいえ、すっかり忘れている様子のマスターハンドへ複雑な心境を抱くことにもなってしまった。

エアが怒ったのは、あらかたこれが理由だろう。
そう察したものの、自分たちにはどうもできないことだからと諦め切っていた。

のだが。

「えっ!?もしかしてマスハン、知らないの!?フライとフレアのこと…」
「…花さん」
「フライ、それにフレア…ものすごく懐かしい響きだけど…」
「昔、試験用の存在として作ったんじゃあないの?」
「………ああ、思い出した!って、えっ!?フライとフレア!?」
「…どうも。かなーりご無沙汰だったけどね」
「いろいろ厄介なことになってしまって…。もうここの一ファイターでない身ながら頼むのは不躾かもしれませんが、どうか力を貸していただきたいんです」

そんな二人のへマスターハンドは話は知ってるよ、とあっさり頷いてくる。

「…元は僕が招いたいさかいでもあるからね。エアには申し訳ないけれど…」
「…分かってるよ。頼む、もうそうやってできるのはマスターくらいしかいないんだ」

そう言うフライの言葉に、マスターハンドが頷く。

もう、こんな無益な争いを終わらせなければ。
そんな決意とともに、四人とマスターハンドは部屋を出た。
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