「…今日はメンテナンスの日であります、しきかんどの」

そうバインダーを持ちながら声をかけてくるブタマスクへ頷き、連れて行かれるまま歩く。

道中、色々なキマイラ生物を眺めながら、メンテナンスを行う場所まで歩いていくのがいつもだ。

そんな道すがら、隅の方でホコリを被りながら眠る女の子と思わしき存在が目に留まった。

「今日はまず、前に飛んでいる最中に落ちてしまっていますから、羽から見ておくであります」
「…」
「それから…しきかんどの？どうかされたでありますか？」
「…あれ」

そう言って指差せば、あそこですか？と連れて行ってくれる。

近くになると、気になる気持ちが先行し、走ってその女の子の元へ近づいた。

「…なに？これ」
「ああ、しきかんどのの前に試作されたキマイラの少女であります。
たしか、起動テストのあたりで頓挫して、結局こうなったような…」

そう話すブタマスクを横目に、被りにかぶったホコリを軽く落とす。

少しホコリを落とした、その時だった。

「…」
「…あ」

目の前でゆっくりと、瞳が開く。

そのまま軽く見渡していたと思うと、再びこちらへ目線を戻してきた。

「たっ、大変だ！しきかんどのが目覚めさせてしまったぞ！」

近くでブタマスクが慌てる声がする。

そんなブタマスクをスルーして、手を差し出してみる。
その女の子も僕を真似してか、手を差し出し返してきた。

その後はあたふたするブタマスクたちを横目に、その女の子は僕にゆっくりとついてきてくれる。

「…」
「はわわ…大丈夫だろうか…」
「…」

僕が止まれば、女の子も少し間をあけて止まる。
走れば、必死についてこようと小走りになる。

…なんだかちょっぴり楽しい。

しばらくそんなことを繰り返していた時だった。

「！」
「ポーキー様からの命だ。もう一度手を加えるのだそうだ」

そう言って、じたばたと慌てたように暴れる女の子をブタマスク大佐がいとも簡単そうに背中をつまみ上げる。

そしてそのまま、その女の子は呆気なくどこかの部屋へと連れて行かれてしまった。

「…さて、しきかんどの。事は済みましたし、そろそろ本題に入るであります」
「…」

そう声をかけられて、そうだった、と我に返る。

軽く頷くと、再びブタマスクに連れて行かれるまま、メンテナンスをする部屋へと歩き出した。