片想い
いつからかは忘れたけど、いつの間にか彼女に好意を抱いていた。
いつの間にか、彼女を目で追うようになっていた。
最初は、珍獣を見るような目だったのかもしれない。今は……彼女なりに一生懸命やっているのだと、少しは思うようになったかな。
彼女を好きになった理由?そんなのは僕が知りたいくらいだ。
どんくさくて、考えも全然足りない。仕事は遅いし、見た目は…ハイリア人の美醜の基準は知らないけど、前に1度、芋くさいと陰口を叩かれているのを聞いたことがある。
『今日は目が合っちゃいました!』
僕が城に行くたびに、彼女はこうして僕に謎の報告をしに来ていた。
一番最初、僕ら英傑に対してこのくだらない話をしてきた時に、みんなが優しい言葉をかける中、僕だけが辛辣な意見を言ってくれたからというたったそれだけが理由で、あれ以来定期的に僕の元へと相談をしに来ているというわけだ。
最初はやっぱり煩わしくて仕方ないと思っていたけど、今は存外悪くないと思っている僕もいたりする。
「目が合っただけでそんなに喜ぶだなんて、随分燃費がいいことだね」
『えへへ…今すごく幸せなんです』
嬉しそうに顔を綻ばせる彼女に、僕まで顔が緩むのを感じた。
好きな相手のことで頭がいっぱいなのか、彼女には見られず済んだみたいだけど。
彼女は僕ら英傑達の言わば世話係というやつで、僕らが城に滞在する時の雑務を担当してくれていた。
と言ってもそこまで仕事があるようには見えないけど。
長い長い廊下を歩いていると、重そうに荷物を抱えてふらふらと歩く彼女を見かけた。前が見えているのかいないのか…足元のおぼつかない彼女を追うように後ろを歩く。
別に彼女が心配だったわけじゃない。ただ、何を持ってるのかは知らないけど、落として壊したりだとか、人にぶつかって怪我をさせてからでは遅いからね。
『あっ…』
さすがに声をかけようとしたその時、彼女は何かに気付いて小さく声をあげた。恥ずかしがるような、嬉しがるようなそんな表情をする彼女の視線を追うと、そこにはあのいけ好かない退魔の剣の剣士とやらが立っていた。
そいつは彼女の視線に気が付くと、すかさず例の大量の荷物を彼女の遠慮も他所に半ば強引に奪い取って歩き出した。
足取りの軽くなった彼女のその剣士を見つめる横顔に、嫌でも彼女の想い人を察してしまう。
まさか…あの剣士のことが好きだなんて。そんなこと、知りたくはなかった。
同じ方向に用があったけれど、いたたまれなくて踵を返した。
『リーバル様リーバル様!』
彼女の想い人が誰か分かっても、僕と彼女の関係は何も変わらなかった。
彼女は僕に会いに来るのをやめなかったし、僕も彼女が来ても追い返すことはしなかった。
彼女が話をする度にあの忌々しい剣士の顔が頭をちらつくようになってしまったのは問題だけど。
ただ、いつの日からだろうか。
いつも通りあいつの話をしているはずなのに、なんとなく表情が暗いと思うことが増えたように感じる。時には涙することさえもあったから、きっと気のせいではないはずだ。
『今日は…ゼルダ姫様と楽しそうにお話されていました…』
「……へえ?」
『姫様を見つめる彼の目が…とても………愛おしそうで…』
俯いたままぽつりぽつりと話す彼女を見つめても、彼女はこちらを見てくれない。
それ以降口をつぐんだ彼女は静かに泣き出した。
「…………」
黙って聞いていると馬鹿馬鹿しい。
泣くほど悲しいならなんでわさわざ会いに行く?1度や2度じゃない。ここ最近ずっとそうだ。
あいつのために流す涙じゃなければなんて、何度思ったことか。
ああ、腹が立つ。
被害者ぶって泣くのはやめなよ。あいつに傷付けられたくて何度も会いに行くんでしょ。
そうやって彼女を突き放せたらどんなにいいか。
そうしないのは……そうできないのは、きっと、僕も彼女と同じ穴の貉だからなんだろう。
片想い