いつの日か君に
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あの人に縁のある物──弓を作り続け、それでいつかこの国一番の弓職人になったのなら、いつかあの人も買いに来てくれるのではと、いつかまた会えるのではと、そう思っていた。
けれど、実際この国一番の弓職人になるにはまだまだ道のりは遠く、あの人と店で再会することはなかった。
「わざわざ律儀に待っていないで自分から会いに行けばいいじゃないか」
『いや〜…何かそれも重いと言うか…』
「人と会うためだけに店を始めるほど行動力があるのに、なんでそこは腰が重いんだよ」
背中を押された私は、彼と共に半強制的に彼の故郷リトの村へと行くことになった。
リーバルも道中付き合ってくれるとのことで、半ば無理矢理だったとは言え持つべきものは友だななんて思った。
リトの村へ近付くにつれ、会えなかったら、いなかったらどうしようという不安が大きくなっていたけど、ここまで着いてきてくれたリーバルの優しさを思うと頑張ろうと思えた。リーバルにとってはただの帰省だけど。
初めて訪れたリトの村はとても和かで、まるで故郷に帰ってきたかのような安心感がある。少し寒いけれど、空気は澄んでいて穏やかに吹く風は心地よい。リーバルに伝えると「ふん」と鼻を鳴らされたが、よく見ると少し嬉しそうな顔をしていた。
「20年前?白い羽毛の?……あぁ、何人か心当たりがあるねえ」
意外にも、欲しい情報はすぐに見つかった。
村を歩く中でそれらしき人物を発見できなかったため、リーバルの勧めでリトの族長に話を聞いてみることになったのだ。
20年前、ハテノ村近くに魔物討伐の任務に来ていた白い羽毛の男性。中でも優れた弓の使い手で………そういえば、今思えばリーバルの持つオオワシの弓と同じ弓を扱っていたような気がして、その情報を伝えると即座にたったの一人に絞られた。
リーバルの父親に。
私がずっと会いたがっていた人が、まさかここにいるリーバルのお父さんだったなんて。それは顔も似てるわけだ。
喜ぶ私に、リトの族長はバツが悪そうに言葉を付け足した。
彼はもう既に亡くなっているのだと。
『……気付いてて言わなかったでしょ』
族長の部屋を出てから後ろを気まずそうについてくるリーバルに、何と言えばいいか分からなかった。ただ、黙ってついてくるリーバルに申し訳ないからと話をしようと思ったのに。口をついて出たのは何とも可愛げの無い言葉だった。
「だって言えるはずがないだろ!あんたがあんなに会いたがってた人がもう死んでるだなんて!」
『ごめん言い方悪かった。むしろありがとね、リーバル』
やはり言葉選びが最悪だった。
これがリーバルの優しさだということは分かっていた。口も性格も悪いけど、素直じゃないだけで実は結構気遣い屋だし。
私に責め立てられるとでも思っていたのか、お礼を伝えた瞬間困惑したように眉根を寄せられた。
怒っていないのかと確認された時には思わず笑ってしまった。
何故私が怒るんだろう。言葉を濁された時、リーバルが何かを隠したのは分かっていて、それでもそのまま尋ねなかったのは私なのに。それを今更どうこう言うのはただの八つ当たりだ。
あれから20年も経っているのに、亡くなっているという可能性を全く考えなかった私が悪い。ハテノ村を出てから今まで、来ようと思えばいくらでも来られたのに、くだらない理由をつけて行動しなかったのは私だ。
『ううぅぅぅぅ……!』
後悔しても遅いのは分かっているけど。
泣き崩れずにはいられなかった。
階段のど真ん中でしゃがみ込んで泣くなんて、周りに申し訳ないとは思うけど立ち上がれない。
本当は……この国一番の弓職人になったんだと、胸を張って言いたかったんだ。
あの時あなたが助けてくれたから、今度は私が、いつかあなたの助けとなる弓を作れたらって。そう思ってたのに。
言い終わると同時に頭上から深いため息が降ってくる。
「代わりに僕が見届けてあげる。この国一の弓職人になるんだろ?
だから泣くのはやめなよ」
あぁやっぱり根は優しいな。
ため息をつかれるとは思わなかったけど、リーバルなりに慰めてくれているようだ。
涙を拭いて立ち上がると、彼は私の顔を見て小さく笑った。
「ははっ、酷い顔」
『………………ふふふっ、だろうね』
今日、リーバルが一緒に来てくれて本当に良かった。
いつか、彼が私の新たな夢を見届けてくれた日には、彼に相応しい最高の弓を作らせてもらおう。
名前は……そうだな、「天駆ける戦士の弓」……いやいや、まだ保留にしておこうか。
いつの日か君に