いつの日か君に
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あれから数日、ちらほらと来てくれる人はいるが、これでは到底食べてはいけない。しばらくは自給自足の生活をして節約するしかなさそうだ。
城下町ほどではないが、ここメーベの町も結構人通りはある方だ。それなのにこんなにも来店者が少ないのは、やはり売ってるものが弓矢関連の物ばかりだからだろうか。
弓に矢に矢筒、その他弓がけなどちょっとした小物もあるが、使う人は限られるだろう。それでも、一般的な狩猟用から祭事用まで用意したし、要望があればオーダーメイドだって受けるつもりだ。それに矢だってある程度の種類を揃えている。
開店してひと月も経たないのだから仕方ないとは思うが、自信をもって作っただけに、売れ行きが芳しくないのは少々胸にくる。
「へえ、いい弓使ってるね」
食費節約と小金稼ぎのため、狩りでもしようとりんごの森を走り回っている時だった。丁度目的のヤマシカを射止めた直後のこと。
頭上から声がかかり驚きに振り返ると、目の前に若い紺色のリト族が降ってきた。
「いい弓じゃないか」
男は先程と同じようなことを繰り返す。そしてすぐさま「腕の方はまだまだみたいだけど」と付け足して。
実際弓の腕はそこまでではないから正直どうでもいいが、初対面で随分不躾な奴だ。
『それはどうも』
狩った獲物の血抜きやら何やら処理をしなければいけないのに、こんな失礼な奴に構っている暇はない。肉は鮮度が命!
持っていた弓を置き、腰に携えたナイフを抜きながらその男の横をするりと抜けた。何しに来たのかは知らないがご苦労なことだ。
血抜きのために近くの川までヤマシカをずるずると運ぶ間も、汗を垂らす私の横で、男は手伝うでもなくただ涼し気な顔をしながら物珍しげにこちらを眺めていた。正直気が散るから見ないでほしかったが、話しかける時間さえも惜しかったためひたすら無視することにした。
血抜きと内臓の処理はとうに終え、取り出した内臓を土に埋める間冷やしていた肉を川から引き上げた。あとは肉屋のおじさんのところへ持ち込むだけだ。私の力では骨を断つことはできないし、何より時間がかかる。その間に肉が傷んでしまっては元も子もないためやはりここはプロに任せるに限る。
『あっ、忘れてた…』
愛馬に肉と荷物を積みこもうとしたところでハッと男の存在を思い出した。あれからかなり時間が経っているというのに、驚くことにまだいた。
『何か私に用でもあるの?』
「ああ勿論。でなきゃ待ってないよ」
皮肉気味に言葉を返す男は、その辺に置いていた私の弓をくるくると興味深そうに眺めていた。
弓を作った人が誰なのか知りたかったのだそうだ。そんなの、一言聞けば教えてあげたのに、私が作業中だったからと律儀に何時間も待つだなんて、どれだけ弓が好きなのかと感心してしまう。
その弓を作ったのは私だと教えると、男は一瞬吹き出した後に大きな口を開けて笑いだした。
「ははは!面白い冗談だね!」
『信じられないならメーベの町に店を出してるから来れば』
来なくてもいいけど。
男から弓を取り返しながらボソリと付け足し、引き止める男の声を無視して愛馬と共にその場をあとにした。
最初から最後まで腹が立つ男だったな。
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