厨二病とか恥ずかしくないんですか
「どうだい今の!」
ゼルダ姫様の護衛騎士であるリンク様と広場で話をしていると、突然広場に強風が吹き、何事かと思えばリーバルが下から飛び上がってきた。
そして流れるようにリンク様へと喧嘩を売り始める。まーたこの人は…。
長年リーバルの幼なじみとしてやって来てはいるけど、最近彼のせいで頭を抱える頻度が増えた気がする。リーバルはゼルダ姫様とリンク様の器の広さにそろそろ感謝をした方がいい。
ところで、今のが長い時間をかけてリーバルが練習していた技なのだろうか?
リトの村周辺には上昇気流が発生している場所がいくつかあるけれど、広場周りには無かった。というか、飛び立ったり着地するのに激しい上昇気流は邪魔になるからと、あえて気流のないこの場所に広場を作ったはず。
ということは、今の一時的な上昇気流はリーバルの技と何か関係があるのではないか。
どちらにしても、今のリーバルを隣で見ていたリンク様が息を飲むのが見え、私がもたらしたことではないとは言え少し誇らしい気持ちになった。
『ではゼルダ姫様にリンク様、何かご用がおありでしたらお気軽に私までお申し付けください』
この村に住むハイリア人は私しかいない。だから族長様にゼルダ姫様ご一行のお世話を申し付けられたわけだ。
と言っても特にすることはないのだけど。
宿屋「ツバメの巣」から出て自分の家へ向かおうとすると、我が家の入口によく見知った人が背を預けて立っているのを発見した。
「ちょっと」
一瞬歩みを止めてしまったものの気付かないふりしてそのまま通り過ぎようとしたけれど、さすがにそう上手くはいかなかった。
回り込まれてすぐ目の前で仁王立ちされてしまう。
「ねえ。今日のどうだった?君も見てただろ?」
『えと…どう?…とは?』
「広場でリンクと一緒に見せただろ!僕の新しい技のことだよ!」
ああ。そういうことか。
リンク様だけでなく私にも何か感想を言って欲しいようだ。まあリンク様からは何の言葉も貰えなかったからそのせいかもしれないけれど。でもあれに関してはリーバルがリンク様に口を開く隙も与えなかったから仕方ないと思うけど。
にしても、私の感想を聞くためだけにわざわざ家の前で待っていたと考えると、こんな憎ったらしいリーバルでも可愛く見えてしまうな。
「何笑ってんの。もしかして見てなかったとか言わないよねえ?」
『いえ、すみません。ちゃんと見ていましたよ』
私が小さく吹き出したのを見てリーバルは少し不機嫌になった。
彼の不機嫌は大して珍しいことじゃないし、なったところで放っておけばよいだけだから私にも特に関係はないが、先程の可愛さに免じて本音を話してあげても良いかな。
『本当に期待はしていなかったんですけど…。
正直、凄いと思いました』
なんならあの技を見る時までその話をしていたことも忘れていたぐらいだ。
私が素直に褒めるとは思っていなかったのだろう。リーバルは豆鉄砲を食らったかのような表情を見せ、動揺を隠しきれない様子で口を開いた。
「つ、翼を持たない君でも僕の凄さが分かったようで何よりだよ!」
『ええ。柄にもなく見惚れてしまいましたしね』
彼の皮肉に尚も褒め言葉で返すと、リーバルは眉を寄せて訝しげな目でこちらを見、私の表情から本当のことを話しているのだと察すると気まずそうに目を逸らした。
『それで、技名はもう決めたんですか?』
「あ、ああ。リーバルトルネードにしようかと思ってる」
うわ本当に名前入れてる…。
声にも顔にも出しはしないが心中ででも突っ込まざるを得なかった。
『トルネード、分かりやすくていいですね』
「なんだ、君のことだからもっと口うるさく文句を言ってくるのかと思ってたよ」
『言うことが無ければ何も言いませんよ』
「ふふん、君もやっと分かってきたようだね」
何をだよ。
最初の不機嫌な様子はどこへやら。リーバルはご満悦な様子で自宅へと帰って行った。
可愛いところはあっても、やはり小憎たらしいところの方が多いな。
三つ編みをゆらゆら揺らしながら歩く後ろ姿を見ながら改めてそう思った。
『……え?
リーバルの猛りと書いてリーバルトルネード…?』
後日村の若者からこの事実を聞いてどれほど驚いたことか。
まさかまさかとは思っていたけれど、もしかして彼は厨二びょ……いややめておこう。私がこの事実を受け止めきれない。
そのまま "リーバルの猛り" だったらかっこ良いと思うししっくり来るのだけれど……リーバルトルネードと読むのか……。
考えれば考えるほど思わずにはいられない。リーバルのイキリの間違いではないのかと。
一頻り我が幼なじみのネーミングセンスに頭を抱えた後、この名付けを後押ししたのは他でもない自分自身だということに気付いて更に頭を抱えることになるとは、この時の私は思ってもみなかった。
厨二病とか恥ずかしくないんですか