褒め言葉
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「掃除をサボって昼寝だなんて、いい度胸じゃないかコギク」
屋敷の屋根の上にて雲一つない真っ青な空を仰いで昼寝していたら、急に視界に雲でない白が入り込み、爽やかな気分は一気にどん底へと落とされた。その白の正体は言わずもがな我が変態…じゃなかった、我が友人ギラヒムだ。
『あ?サボってねぇよ。終わったからのんびりしてんだよこの白タイツが』
「なッ…!……あぁ、そうか。そういえば主に対する言葉の遣い方というものをまだ教えていなかったね。これは失礼」
いつもならただうざったいだけのこいつだけれど、今この時に関しては、私の至福の時を邪魔しやがったためにうざい通り越して殺意が芽生えている。それを悪口だけで済ませてやってるんだから私も心が広い広い。感謝の一つも欲しいぐらいだ。
『誰があんたを主と認めたよ。百歩譲って友人だって前にも言っただろうが』
「友人?フンッ、この大地の現魔族長であるワタシの友人だって?おこがましいことを言うもんじゃないよコギク。
ワタシに友人なんてもの、存在しない」
『あっ………。悪いギラヒム…辛いことを言わせたね…』
上半身だけ起こして振り返ると、太陽を背負ったギラヒムが仁王立ちしていたが、心なしか雰囲気が悲しい。
「テメェの想像で勝手に同情してんじゃねェ!!」
…気がしたけれど、すぐに短剣が飛んできたのできっと気のせいだったんだろう。
『いちいち確認するんだったら最初から自分でやれよ。つーか私客だぞ』
お茶でも飲もうと立ち寄ったら「コギクか、丁度良かったこの屋敷を掃除しておいてくれ」だぞ。何様のつもりだよお茶の一つも出さないで…って魔族長様か。……いやいやそんなこと知らんがな私関係ないし。
『おう、いいぞ』なんて引き受けた私も私だけどさぁいや掃除好きだからいいけどね。でも、こいつのやってもらって当たり前みたいな態度ムカつくじゃない。マジで。
「いちいちうるさいね。折るよ?」
『はいはい怖い怖い。
…で、天下の魔族長様よ、私の掃除テクはどんなもんだい。不備はあったか?』
「……………………ない」
ギラヒムは屋敷中のありとあらゆるものを持ち上げたり覗いたり、時には昼ドラに出てくるお姑のような手つきで階段の手すりを触ったりと、かなり入念なチェックを行った。が、その結果がこれだ。
あまりにも悔しいのかギラヒムは、不備はないと確認した直後だというのに私の掃除の欠点を探すため、必要以上にそして舐めるように入り口の置物を見ていた。
ふはは馬鹿め。それはこの屋敷に入って一番に視界に入るであろうものだからと特に念入りに磨いたものなんだ。だから非など見つかるはずが……って、
『お前がベタベタ触るから指紋だらけじゃねえか馬鹿野郎!ご丁寧に手袋まで外しやがって!!』
「フンッ、掃除のしがいがあるだろう?感謝したまえ」
『あ~っ!!ッもううるせぇ黙ってろ!!』
くそっ。せっかく超ぴかぴかに磨いたってのにこの白ゴキ野郎のせいで台無しだチクショウ。
一度片付けた物品をもう一度持ってきて無言で置物を磨き始めた私を、ギラヒムもまた無言で眺めていた。こいつが言われた通りに黙るだなんて気味が悪いが、静かにしているなら何も問題はない。
結局、磨き終えて道具を片付けるまでどちらも一言も喋らなかった。
『…ん、』
「なんだいその手は」
『察し悪いな。報酬寄越せってんだよ』
せめて昼ご飯寄越せ。サボりだとか変ないちゃもんつけて無駄な仕事増やした分も何か寄越せチクショウという意味を込めて手を出すが、この自分大好き美しいマンには微塵たりとも伝わらなかったようでわざわざ言葉にしてやった。
おら、だから昼ご飯出せや。
「………」
ぽんっ
『………………は?』
ギラヒムは、何を思ったか知らんが私の頭の上に片手を乗せると、真顔+無言でなでなでしてきやがった。というか現在進行形でなでてる。
え、いや…ねぇこれ何の儀式?
「いい子だね、コギク」
アホな顔で固まる私の耳元に顔を寄せ、ポツリと一言。
『はっ!?』
全身に鳥肌が立つのを感じた。
『おま…お前っ、だ、大丈夫か…?私の見ない間に頭打ったのか?それとも熱あんのか…?なぁ…、似合わない真似すんなよ。…な?』
「このワタシが褒めてあげたんだから少しは喜んだらどうだい?たかだか掃除なんかにこんなビッグな報酬を出してやるだなんて、ワタシは美しいだけでなく心が広いよね」
『あ、悪い。元からネジ吹き飛んでたな』
「テメェ…黙って聞いてりゃ言いたい放題言いやがって…」
今日何度目かの素が出たかと思ったら頭を鷲づかみにされ、頭蓋がミシミシ悲鳴をあげている。おいおい、潰れる潰れる。
『でも、なんかな…』
「あ?折れる準備が出来たか?」
『いやそりゃ出来てねーししねーけど。
なんか、頭撫でられるよりこっちの方がお前らしいな、ギラヒム!』
お前が正常だったようで安心したよ。という意味を込めて笑いかけると、少しの沈黙の後に奴は顔をそらして私の頭を解放し、舌打ちを残して自室に消えていった。
え、私何か失言した?
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