居場所
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部屋のドアが乱暴に開け放たれた。誰かなんて見なくても分かるほどびりびりと背中に強い魔力を感じる。いや感じるどころではない痛い。これは相当ご立腹だと内心ため息をつき、意を決して振り返ると、予想通り眉間にしわを寄せて大変憤ったご様子の我が主 ギラヒム様が立っていらっしゃった。うわー今日こそ私死ぬかもなんて考えが頭をよぎるが、それを悟らせないよう笑顔を貼り付けた。
『ギラヒム様…いかがなさいましたか?』
こんな何の役にも立たない私如きの部屋に魔族長であるギラヒム様がわざわざ自分の足で来る理由など一つしかないし、どうせ今回もまた同じだとは思うけれど、万に一つという淡い期待を込めて疑問を投げかける。
『ぐッ!!』
返って来たのは言葉ではなく、指ぱっちんと赤黒い短剣だった。
あぁ、やっぱりか…。
空を裂いて太ももに突き刺さった衝撃に体が一瞬ふらついたけれどすぐに態勢を整える。大丈夫、すぐ治る。心の中で無意味な励ましをしていると、つかつかと歩み寄ってきた彼によってその短剣は勢い良く引き抜かれ、飛び散った紅は私の部屋を汚した。声にならない叫びと共に涙がにじむ。ぼやけた視界には美しい白が妖しく映り、その場違いな色に一瞬見惚れてしまうも、引き抜かれた短剣がその勢いのまま今度は私のお腹に向かって振り下ろされ一気に意識を戻された。グリグリとまるでナカをかき混ぜるかのように執拗に嬲るその腕は真っ赤に染まっている。
『ッく、ぁアあッッ!!!』
お腹から溢れる大量の紅に満足すれば、今度は腕、胸、足…と数え切れないほど切りつけられる。どれだけこうして血を流している?いや実際には一時間も経っていないのかもしれないが、当の私からしてみれば途方もない永遠をこうして切り刻まれ続けているようで、それはまるで終わらない悪夢を見ているかのような錯覚を覚える。
過度なストレスと疲労、そして大量の失血によって目眩を起こし堪らず膝をついた。
「おい何テメェ俺の許可なく座ってやがる。そんな傷くらいすぐに治せるだろこの愚図が!」
『は、い…。申し訳ありません…』
いくらなんでも無理がある。他の魔物や、魔族長であるギラヒム様よりも傷の回復は早いけれど、いくらなんでも中身をぐちゃぐちゃにかき混ぜられてはそんな簡単に治すことなど出来ない。それに、前回切断された腕だって昨日やっとくっついたばかりで、そっちに魔力が使われていたために今はあまり残っていない。
それでも、どんなに理不尽なことでも無理難題でも、ギラヒム様に言われたことは絶対なため、なけなしの魔力をお腹の傷と手のひらに集めて傷を覆い、内側と外側の両方から傷を修復させていくもやはり治りは遅い。
「…………」
『…?、ッい"ァあアアッ!!!!』
外だけ塞いで中身は後回しにしようなどと考えていると、不意に傷を覆っていた手を捕まれ治りかけの傷に強引に指を突っ込まれ無理矢理傷を開かれた。あまりの痛みに意識が遠のくのを感じたが、気絶できたらどんなに幸せだろうか。ギラヒム様が大人しくそうさせてくれるわけもなく、傷に追い打ちをかけられすぐに覚醒した。
彼がどんな顔をしているかなんて知らない知りたくもない。痛みと恐怖が頭を支配し何が何だかももう自分でも分からない。この痛みを少しでも和らげようと逃げようとうずくまり、気付けば泣きじゃくる子どものようにただただ泣きながら謝罪の言葉を繰り返していた。
『ぅぐ…ぃたい…いたい…!!ひっく…ごめ、なさい…!ごめんなさい…!!』
「おやおや、もうおしまいなのかな?」
『や、…だ!いやだ!もう痛いのは嫌だよぅ…!!』
「 ロイ、逃げたいかい?救われたいかい?
ならば好きにおしよ。ワタシは追わないから」
その言葉に急速に頭が冷やされていく。
『やだ…!やだ…!捨てないで!お願いです…!もう二度と泣き言なんて言いませんから…!!ギラヒム様のお側に置いてください…!!お願い………一人にしないで…!!!』
血だらけの体で縋り付いたためにギラヒム様の服は汚れてしまったけれど、当の本人は気にする様子もなくしゃがみ込む私と目線を合わせると血塗れのその手で私の涙を拭い去った。
「それでいいんだよロイ」
どんなに痛がろうと嫌がろうと自分から離れることはないだろう。どんなに傷つけられても、どんなに酷い目に合わされようとも。
私には帰る場所も待つ人も、ただの一人でさえもいないのだから。
そして、
ここが私の
居場所であり、帰る場所なのだから。
居場所
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