欺いてでも生きていけ
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ある日のことだ。訓練所でいつものように訓練に勤しんでいると、突然王からの召集命令が下った。出兵なのだと。
それも、実戦経験は皆無に等しい私達訓練兵でさえも。
どうやらハイラル平原に大量の魔物が集結したらしい。
城下町へ踏み込まれないためにも、経験の浅い訓練兵を投入せざるを得なかったようだ。
『あいつは……』
初陣に昂る者、不安に怯える者、各々が様々な反応をする中で、一人怒涛の勢いで敵をなぎ倒しに行く者がいた。
お節介焼きのあの男だ。
初陣とは思えぬほどの凄まじい健闘ぶりに、つい驚いてしまい、それと同時に笑ってしまった。
私もうかうかはしてられない。手柄を立てて上へと上るためにも。
与えられた剣を握りしめ敵へと向かった。
『やぁッ!はっ!!』
大量の魔物が出現したとは聞いていたものの、ボコブリンやモリブリンばかりでそこまで苦戦する敵はいなさそうだ。ボコブリン程度なら、兵士になる前にも何度か倒したことがある。あの時は剣ではなく農具だったし。その経験もあってか私は冷静に戦うことができた。
私の家族は城下町にいるからさほど心配はしていない。門が突破されなければいいだけの話だ。けれど、メーベなど平原にある町に暮らす人々はそうではない。
そう判断して真っ先に私は民家周囲の魔物を蹴散らしに行ったのだが、どうやら私と同じ考えを持つ者が他にもいたようだ。
「父ちゃん危ないよ!一緒に!」
「馬鹿!お前達は家の中に隠れてろ!父ちゃんは大丈夫だから!」
古い木造の家の前で、子どもと女性を庇って立つ1人の兵士と1匹のモリブリンがいた。
兜をつけているため顔が見えづらいが、声を聞く限りあの嫌がらせオヤジのようだ。勇ましく立ってはいるものの、腰は引けてるし剣先は震えている。よくあの状態で魔物の前に立てたものだ。
それでも……例え実力が伴わなくとも自分より弱い者を庇おうとするその心意気は認めよう。
ボコブリンを切り捨てながら走り寄り、その勢いのままモリブリンの足を切り落とした。続けて倒れ込んだその背中に剣を力いっぱい突き刺す。
「お前は…なんで…」
助けられた相手を私だと認識した途端にオヤジは困惑したような表情となる。
そもそも人の命を助けるのになんでもどうしてもない気がするが。
黙って立ち去ろうとすると、オヤジの後ろにいた子どもが目を輝かせて父親を見ているのが目に入り、つい
『君のお父さんは強いんだね』
と、余計なことを言ってしまった。
本人にとっては皮肉に聞こえるかもしれないけれど、子どもの希望を砕く訳にはいかないから。大切な人の頼れる存在になりたいと思う気持ちはよくわかるし。
『あなたはご家族についててあげてください』
子どもを抱き俯いたままこくんと頷いたオヤジを後目にその場を離れた。
目に入ったそばから魔物を切り捨て、ようやっと魔物の勢いは収まってきたかと思った頃、平原北の方にファイアウィズローブが出現したとの知らせを受けた。
炎属性の魔物は平原との相性が最悪だ。すぐに討伐しないと一面焼け野原にされてしまう。
急いでその場に向かうと、既にちらほらと草むらに火がついており、一部の兵士は消火活動に充てられていた。
私は見たことがないけれど、世の中には属性の力を持った武器があるようで、おそらく対極の属性…氷や水属性の武器でなら楽に倒すことができるのだろうが、そう都合よく持っているはずもない。
ウィズローブは空中をふらふらと歩いているため簡単には攻撃が当てられないし、さてどうしたものか。
一定の距離を保ちながら様子を見ていると、足元に魔物が持っていたのだろう弓と矢が落ちているのを発見したため、即座につがえてウィズローブ目掛けて矢を放った。
こいつらは攻撃する瞬間にロッドを上に掲げて止まるため、頭を射抜くのはそう難しくない。
地面に落ちたところで弓から剣へと持ち替えひたすらに切りつけた。
ところが、立ち上がると同時にウィズローブはその場から消え、どこに行ったのかと探している私のすぐ後ろへと現れたのだった。
気付いた瞬間横に飛んだため、振り上げられたロッドや飛び散る炎に当たりはしなかったものの、咄嗟で受け身が取れずに地面に倒れ込んでしまった。
さすがに次のは避けられない。
焼け死にはしないだろうが、金属製の鎧だから火傷は免れられないだろうな、なんて他人事のような考えが頭をよぎった。
「危ない!」
声とともに私とウィズローブの間に滑り込んでくる者がいた。
揺れる金髪に即座にあいつだと分かる。何故兜を被っていないのかは一先ず置いておくとして。
そいつはロッドから射出された火の玉を、盾で受け止めるのかと思えばそのまま力強く払い除けた。
嘘のような話なのだが、飛んできた火の玉をウィズローブ目掛けて弾き返したのだ。
もちろん全然効いてはいないが、自分の放った炎が返ってきたことを不思議に思ったのだろう、ウィズローブが首を傾げている間に十分体勢を立て直すことができた。
『悪い、えっと…』
名前を呼ぼうにもそういえば聞いたことがなかった。
言い淀む私に、こいつは「リンク」とただ一言名を告げる。
『ありがとうリンク、助かった』
「どういたしまして」
『ありがとうついでに更に手を借りていいか?』
「もちろん」
剣を構えて走り出そうとするその背中に共闘を提案し、剣を納めて弓を構えた。
悔しいが、やはり戦闘の技術ではこいつに敵う者はいない。私は弓で射落とすことに集中し、叩きのめすのはリンクに任せることにしよう。
平原に出没した魔物を片付け終わったのはもう日も暮れる頃だった。
負傷した者は多いが今のところ死者は出ていないし、大勝利と言ってもいいだろう。
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