欺いてでも生きていけ
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今日は天気が良くて助かった。
頭から滴り落ちる雫を見てそう思った。
それは、私がこの国の兵士になってすぐに始まった。
女みたいに華奢だからとか、ノリが悪いからとか。色々言われたが、どれも取るに足らないくだらないことばかりだった。
それでも、そこまでの実害はないから無視していたのだが…。
この間の演習以降、嫌がらせが悪化したように感じる。
目が合った時にニヤニヤしていたあのオヤジ。どうやら演習の時に私に負かされたことを根に持っているようだ。
くだらない。そんなことをする暇があるなら鍛錬したらどうなんだ。
とは言え、こんなことにももう慣れた。
女みたいに華奢だから?実際女だから仕方がないだろ。
ノリが悪い?女だとバレるわけにはいかないからあまり人と関われないんだよ。
そう、仕方がないんだよ。どうにもならないんだよ。
高額の給料目当てで性別を偽り兵士になった私には、嫌がらせにも慣れるという選択肢しかなかった。
「良かったら使って」
皆の前で鎧を脱いで体を拭くわけにもいかず、どうしようかと考えあぐねていると、静かな声と共に目の前に白いタオルが差し出された。
金髪の、おそらく私と同じくらいの齢の青年。
名前は確か……ダメだ出てこない。でも前の演習で無双していたのを見た記憶がある。
『……どうも』
いつまでも引っ込まないタオルを渋々受け取ると、ようやくその男はまた訓練に戻って行った。
みんな見て見ぬふりか陰でコソコソ笑っているだけなのに…変なやつだ。
それ以降も、その男はことある事に私に助け舟を出してきた。演習で私に負けたオヤジが私に近付こうとすると、対人戦の訓練に付き合って欲しいだかなんだか言ってオヤジを遠ざけてくれるのだ。
それなのに、別にあれから話しかけてくるわけでもなく、こちらに見向きするわけでもない。なんなんだ。
私は同情されているのか?
『おい』
訓練終了後、食堂へと向かおうとするそいつを呼び止めた。皆すぐにはけてしまうため、大して時間もかからないうちに訓練場には私とこいつの2人だけとなった。
腕を組みながら仁王立ちで睨む私とは対象的に、この男はまったく表情を変えない。
「君を庇っているつもりはないよ。ただ俺があのおじさんに絡んでいるだけ」
どういうつもりで私を庇うのかと問い詰めると、間髪入れずにこんな返事が返ってきた。
つまり、そんな意図はないが結果的に私が助けられていると言いたいのか?そんなの揚げ足を取っているだけでは…。
まさかの返し方に若干呆れてしまった。
昔から、私は強くあらねばならなかった。
幼い妹達、私達を養うために働き詰めたことで病に倒れた母。
父親のいない我が家では、長女の私が皆を支える柱になるしかなかった。
不幸だと思ったことはない。
だから、同情される筋合いもない。
欲しくもないのに、ただただ惨めになるだけだ。
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