死んだその先
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「シーナ!」
ミドナ達と別れてから数日が経ったある日、馬に乗って1人の青年が駆けて来た。緑の服に緑の帽子で、その背には1本の剣を背負っている。
私がいる方向とは見当違いなところに向かって呼んでいるから私のことは見えていないのだと察するけれども、何故彼は私の名前を知っているんだろう。
疑問に思いながらも、私は骨の上から動けないのでただその青年を見つめていると、馬から降りたその青年は何もない宙と何言か会話した後突然あの日の狼の姿になった。
いやーもう、びっくりもびっくり。リンクは実は人間だとか聞いてはいたけど、まさかあれが本当のことだっただなんて。
「ケケ、また会ったな!」
『ミドナ…リンク……!』
本当にまた来てくれるとは思っていなかった。
こんな広い平原の隅っこに丁度良く霊と話せる人が来るとは思えないし、もう二度と誰かと会話することなんてないだろうと半ば諦めかけていたのに。
リンクはこの数日でマスターソードという聖なる剣を手に入れ、自由に狼の姿になることが出来るようになったらしい。ワンちゃんと呼ばれていたことが悔しかったそうで、ワンちゃんという立場から脱するためにわざわざ私に真の姿を見せに来たそうだ。
そんなに悔しかったのか…。知らなかったとは言え悪いことをした。
狼になったリンクに謝罪しつつミドナにもう帰るのかと問うと、明日からは砂漠に行かなくてはならないけれど、今日はまだこっちにいるとの返答をもらった。
どうやら、今日は私に旅の話を聞かせてくれるそうだ。
これからまたハードな冒険になるだろうと予想されるのに、何故私なんかに構ってくれるのだろう。動けない私にとってはとても嬉しいことだけれど。
それから日が暮れるまで、本当にたくさんの話を聞いた。
狼になった経緯やこれまで出会った特徴的な人達、そしてダンジョンでの出来事など、初めて聞くことばかりで驚きの連続だった。
話してくれる間はリンクは人の姿をしているので私の声は届かない。そのためリンクは一人で喋っているようにしか見えないけれど、本人は気にせず快く話をしてくれた。それがとても嬉しくて、リンクの話が全て終わるのとほぼ同時に涙が落ち、そしてダムが決壊したかのように次々と涙が溢れ出した。
ミドナがびっくりするのを見てリンクは姿を狼にしてもらう。するとリンクもミドナと同じように驚いて慌てふためいた。
「な、なんだよ…!どうしたんだ?」
『………ごめ、ん…。…すごく、嬉しいの…』
「………」
リンクは最初はオロオロして右往左往していたけれど、最終的には私が泣き止むまで2人共黙ってそばにいてくれた。
「なぁ、シーナが良かったらなんだけどさ、アンタの話、聞いていいかな…?」
泣き止んだ私にミドナは遠慮しながら聞いてきた。リンクも知りたそうにこちらを見上げている。
泣いてスッキリした私は生前を思い返そうと目を閉じた。
『私、は……。
………私、フィローネの森に父親と2人で暮らしてたんだ』
目を閉じれば昨日のことのように思い出せる数々の記憶。
他人と関わることが苦手な父は、母が亡くなってからはずっと、森の奥に家を建てて自給自足をして暮らしていた。
近くに村があることは、幼いながらも冒険に行ったりしていたので知っていたが、父以外と関わったことのなかった私には村へ遊びに行く勇気などなかった。今思えば、きっとリンクが住んでいたというトアル村がこの村のことなんだろうけれど、実際は分からない。
父が亡くなってからも、私はその村の人と関わろうとは思わなかった。だから、1人で父を母の横に埋め1人で父の死を悼んだのだ。
『あの日…そう、あの日はとても天気が良かったの』
だから、両親が眠る墓に供える花を、気分転換にいつもとは違うものにしようと平原近くまで出て行ってしまったのだ。父にも危険だから行くなと言われていたのに。
いつもあの辺には何もいないからと油断していたこと、そして花を取ることに夢中になっていたことにより、魔物に発見されたことになど全く気付かなかった。
気付いた時にはもう遅く、棍棒を持った魔物に囲まれてしまっていた。
森の中に逃げればきっと魔物から逃げ切ることが出来ただろう。しかしあの時は冷静に判断を下すことが出来ず、ハイラル平原の方に逃げてしまったのだ。
どこまで逃げても、助けてくれる人も逃げ込める場所もなく、結局、逃げる途中に弓を持った魔物に足を射られ、そんな足で逃げ切れるはずもなく、追いついた奴らに殴られ気を失った。
『気が付いた時にはもうこの姿でさ、血まみれの私を未だに殴り続ける魔物を見上げてたんだよね』
「シーナ…」
『死んだことはもういいの。
でも…やっぱり1人は寂しくて…。って、生きてる時に気付ければこんなことにはならなかったのにね』
辛そうにこちらを見るミドナとリンクに笑顔を向けるともっと悲しそうな表情になった。
するとリンクは突然人の姿へと戻る。
「なぁシーナ、俺達と一緒に来ないか?」
『ぇ……ええっ!?
む、無理だよ!私はここから動けないのに…』
ミドナが気を効かせて私の反応と共に通訳をしてくれる。
リンクはそれを聞いてまたこちらへと視線を向けた。人の姿のリンクには私の姿が見えていないはずなのに、あまりにも真っ直ぐこちらを見るものだから、まるで目が合っているかのような気になってしまう。
「シーナが動けないのは骨が…体がここにあるからだろ?
だから俺が全部拾い集めてあんたを連れて行ってやる。両親の墓近くでもトアル村でも、なんなら俺の家の横とかでもいいぜ」
『ぇ、でも……でも、私…』
「嫌なら無理にとは言わないけど、俺だったらこんなところで雨ざらしは絶対嫌だけどな」
『……………』
「おいリンク、シーナだってすぐには答えを出せないだろうし、砂漠から帰って来たらまた聞きに来ようぜ」
ミドナが助け舟を出してくれた。
最初から私の気持ちは決まっているようなものだけれど、私の我が儘でわざわざ骨を拾わせてどこかに埋めさせるなんて、2人に悪くて素直にうんと頷けない。
「じゃあ、そういうわけで俺達はそろそろ行くけど、次来るまでに返事決めとけよ」
そういうとリンクは馬に跨り来た道を戻って行った。
『……』
「シーナ、お前ワタシやリンクに遠慮してるだろ」
『ミ、ミドナ!
リンクと一緒に行ったんじゃなかったの?』
「お前と2人で話したかったからね」
話?と疑問符を浮かべる私にミドナは続ける。
「お前の顔には行きたいってハッキリ書いてあるし、お前がここに残る理由は何もないはずだろ?それなのにどうしてあいつと一緒に行こうとしないんだ?」
『…………』
黙って目をそらすと、視線の先にミドナが回り込んできた。黙秘はさせてくれないらしい。
『だって…まだ会って日も浅いし、私にそんなことしても2人には何も得がないだろうし、それに何より、死んだ私なんかのために貴重な時間を使わせるだなんてそんなの申し訳なくて』
「分かった。じゃああいつがここまでする理由を教えてやるよ。
本当はあいつに口止めされてんだけどさ、この際気にすることないな」
『え、それ言っちゃっていいの?』
「いいんだよ。あいつ―リンクさ、お前に一目惚れしてんだよ。正確には一目じゃないけど」
『一目惚れ…そうなんだ…。…って、ぇえええええ!!!!!???』
突然私が叫んだものだからミドナには顔をしかめられた。ごめん、あまりにも驚いたもので。
「もう死んでるとは言え、唸るあいつを怖がるどころかワンちゃん呼びで笑いかけたところに惚れたらしいよ。お前には悔しいとか言ってたけどね。
そういうわけだからあいつに遠慮なんかすることないんだ」
『じ、じゃあミドナはどうして?』
「…お前が……。…いや、ワタシがそうしたいからさ」
だから遠慮すんな。
私が何か言う前に、ミドナはそう言って私の影から姿を消した。
ミドナは理由を若干濁していたけれど、それでも私のことを心配してくれているのだと言うことは表情からも十分伝わって来て、そこまで気をかけてくれているのに断り続けるのも悪いということで、2人の好意に素直に甘えることにした。
リンクの一目惚れの件は、本人から直接聞いたわけではないのでとりあえず保留にしておく。
「シーナ!決まったか?」
丁度1週間が経って2人は帰って来た。見た感じケガがないようで、心の中でほっと溜め息をつく。
前回のことで学んだらしく、リンクはもう声をかける位置を間違えなくなった。視線はやや遠くを見ているが…。
『うん…私を両親のところに連れて行ってほしい。…お願いします』
「あぁ!もちろんだ!
もちろん、なんだけど…」
『うん?』
「今すぐお前を自由にしてやりたいのはやまやまなんだ。ホントだよ。でも……」
2人の顔は曇り、不自然な沈黙が出来てしまった。
『…あの、』
流石の私でも察した。
『全部終わって、平和になったらお願いしてもいいかな…?』
すぐにだなんて我が儘は言わない。
幽霊になった私には最早時間なんて関係ないと言っても良いし、2人には2人の旅と使命があるのだから。
「あ、あぁ!任せてくれ!
ハイラルなんかちゃちゃっと救って、そしたらまたここに戻って来るよ」
「気ィ使わせちゃったみたいだね、ゴメンよ」
『ううん、私もまだ全部の骨の位置とか把握出来てないし、大丈夫。
2人が無事に戻ってくることをここで祈って待ってるね』
「全て終わらせて、必ず迎えに来るからな!」
そうしてまた2人は旅立っていった。
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