死んだその先
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自業自得だった。人と関わらなかったがためにこんなことになるなんて。
死んでしまったというのに誰にも気付いてもらえないのはとても寂しいということに今更気付いた。
ああ、後悔してももう遅いか。
目の前に散らばった残骸を見る。
元々は自分だったモノだから、不思議と怖くはない。ただ、すごく悲しい気持ちになるのだ。
血まみれの死体はカラスや虫に食われ、荒らされ、そして骨となった。
せめて埋めてあげたかったけれど、この透けた手では何も掴むことはできず、ぐちゃぐちゃになっていく自分をただぼうっと眺めることしか私には出来なかった。
もし私がまだ生きていて、目の前で荒らされている遺体が別の人のものだったとしたら、私はきっと目をそらすかその場から逃げ出すかしていただろう。それほど凄惨な光景だったのだから。
けれども、実際に荒らされているのは私自身であり、そしてそれを見ている私はとうに死んでいるのである。死体に群がる生き物達を払うことも、遺体を埋葬することも出来ない私が唯一出来ることは、ただ、見ることだ。私の正真正銘最後を見届けることで、私の気持ちも少しくらいは浮かばれるだろう。そう思って私は最後の最後まで、ほんの少しも目を離すことなく見届けたのだ。
それで、私の心が救われたかと問われれば全否定するんだけれども。
あの私を襲った魔物達や、私を荒らしたカラスを恨む気持ちはとうに風化して消え去った。が、だからと言って成仏が出来るわけでは決してないことはあらかじめ言っておく。
弱肉強食の世界で起こった食物連鎖の一環だったのだと、理不尽な死に耐えきれない私の心はそう思うように決めたらしいから、腹いせに通りすがりの人を呪ったりとかそんな馬鹿な真似はしないけどさ。
ところで、あの忌々しい日から果たしてどれだけの時間が経ったんだろう。肉の塊が骨になるほどだからかなりの年月が経ったんだろうけれど、1000日を超え、4年目に突入した頃から過ぎ去る月日を数えるのをパタリとやめてしまった私には具体的には分からない。数えたところで何かが変わるわけではないし、暇が潰せるわけでもない。つまるところ無駄だと気付いてしまったからだ。まぁ、何もしなければそれはそれで時間の無駄なわけなんだけれど。
で、どうして今更突然時間を気にし始めたのかと言うと、現在進行形で背中に小さい人を乗っけた真っ黒な犬がこちらに向かって唸っているからである。人には見えないものを動物は感じ取ることが出来るって言うけれど、私が死んでからというもの、私を認識してくれる生き物にはただの一匹も出会わなかったから、正直意外だったし同時に嬉しさも感じた。
『…ワンちゃんは私が見えるんだね?』
唸って吠えて、挙句の果てに私に飛びかかってきたこの真っ黒犬は、私が喋るとは思っていなかったのかなんなのか、目を見開いて、まるで驚いているかのような表情になった。背中に乗っている人も同じく驚いているようだ。
「お前、喋れたのか…?」
『うん…。今はこんなだけど、前はちゃんと生きてたんだもん』
「なんだ、てっきりポゥフィーかと思って攻撃しちまったよ。
悪かったな、飛びかかって」
『ううん…』
小さい人の名はミドナと言って、影の世界とやらの住人らしい。そして黒い犬…じゃなかった、狼はリンクという名前で、今は訳あって狼の姿だけれど本当は人間なんだそうだ。
化け物にさらわれた幼馴染とこの世界を救うために二人は冒険しているらしく、その道中で出会ったジョバンニという人に頼まれておばけ?のモンスター?…なんかよく分からないけどそんな感じの奴を退治しているようだ。対象はポゥとポゥフィーというやつらしく、私みたいな普通の幽霊ではないようなので、私は退治されずに済んだ。まぁ別に今更どうでもいいことなんだけど。
ミドナと話している間、リンクはお座りして黙って待っていた。
尻尾だけはゆらゆらと揺れていてそれがまた一段と可愛い。
「じゃ、ワタシ達はもう行くよ」
『あ、うん。
何も力になれなくてごめんね』
「いいよ、そもそもこんな何もないところじゃあ情報なんか入って来ないだろ」
まぁ、それもそうなんだけど…。
「ところでお前名前は?」
『シーナ…私、シーナって言うの』
「シーナかぁ…。フーン……そんな情けない顔すんなって。また来てやるよ!」
コイツが!
と続けるミドナに驚いて振り返るリンク。
というか、そんなに情けない顔をしていたのか私は…。
確かに、人ではなかったけれども久しぶりに誰かと話せて楽しかったから、また一人ぼっちになるのはちょっと寂しいかもしれない。
『(さようなら…ミドナ、リンク)』
こちらに背を向け走り出す2人が見えなくなるまで手を振り続けた。
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