ただ意味もなく
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足元より遥か下から吹き上げる風により私の髪が舞い上がる。
最後に切ったのはいつだったろう。特に意味もなく伸ばして今では腰ほどまであるか。伸ばしてもオシャレなんてしないのに、ホント今思えば無駄なところに栄養使ってたものだよね私の体も。
まぁ、今更そんなのどうでもいいんだけど。
眼下の街並みに背を向け、そのまま後ろに重心を傾けた。
重力に従って私の体は地面へと近付いていく。走馬灯が頭を駆け巡る。
あー、ろくなこと思い出さないな私。というかゲームしかしてないな、うん。
…あれ?いやちょっと待ってそろそろ気絶しちゃってても良くない?
閉じてた瞼を開けて天…いや地を仰ぐと地面はすぐそばまで迫っていた。
いやいやいやいや意識あるまま打ち付けられるとか計算外うわわわ。
地面にぶつかる瞬間、瞼を閉じていたにも関わらず強い光が私を襲った。
なるほど、地面に盛大にぶつかればそりゃ星が飛ぶよね、分かる。ってそんな馬鹿な。
いつまでも来ない衝撃に、もしかしたら私既に死んでんじゃね疑惑が私の中で浮上し、ついに私は目を開けた。
うん。知ってた。だって脳内で一人で喋ってる間もずっと風がうるさかったもん。
ただ、…それにしても…。
『…すごい』
何って私の妄想力が。
私確か、ちゃんとした大都会にそびえ立つビルから飛び下りた気がするんだけど、いつの間にやら雲の上を落ちていたよ。
すごいすごい。大きな雲で地面が見えない。
『ごぶしッ!!』
「っセーフ…!!」
いやアウトだよ。
地面とこんにちはする時を目を閉じて待っていたら、まさかの大きな赤い鳥に乗った男の子とこんにちは(物理)してしまった。
超絶良いタイミングで私の真下に飛び出るものだから私はものの見事に首痛めたよ。
首を押さえて痛みにうち震える私をよそに、男の子は鳥を操ってそう大きくないラ○ュタへと私を連れてきた。私達が降りるとすぐに鳥はどこかへと飛んでいき、私は安堵のため息をつく。あぁ、餌にされなくてよかった…。
「ケガはない?僕はリンク!君初めて見るけどどこの島の人?君のロフトバードは?」
『いやいやいやいやちょっと落ち着けリンク君とやら』
早い早い。マシンガンか君は。
『私は##NAME1##。おかげさまで首が痛いよどうもあ り が と う』
「うん、どういたしまして!」
わお。この子嫌味効かないタイプだ☆
今時珍しいこの純粋な男の子…じゃなかったリンク君にこのラピュ○についてだとか、ロフトバードというらしいさっきの鳥のこととか、色々なことを教えてもらった。
天国かなぁともほんの一瞬思ったけれど、生憎あの世を信じるほど心が綺麗じゃないんでね、夢だろうなと結論付けた。やけにリアルだけど、夢でも体験したことのある痛みなら感じるらしいし。
あの高さなら死ねると思ったんだけどっていうか絶対死ぬだろ即死だろ。即死するためにわざわざあの建物を選んだのに全く。ぐぬぬぬ。
「ちょちょっ!ちょっと君何やってるのさ!危ないよ!」
死ねてないならもう一度死にに行くしかない。そのためにはまず起きねば、ということで島から足を踏み出そうとしていると後ろから腕を強く引かれそのまま倒れ込んだ。
『いや何って、ちょっと起きようかなって』
「いやいやいやいや!起きないよ!寝るよ!永眠だよ!」
『あぁまぁそれはそれでいいか』
「良くないってば!」
なんだこの子しつこいな。私の夢なんだから私の勝手にさせてくれればいいのに。
リンク君は私の腕を掴んだまま離さない。離した瞬間飛び下りるとでも思っているんだろうか。信用ないなぁ私。飛び下りるけど。
「なんで##NAME1##はそんなに死にたいの?」
空色の瞳を悲しげに揺らして尋ねる彼に胸がチクリと痛む。
ごめんね君がそんな悲しい顔をするほど大した理由ない!
いじめがあったとか虐待されてたとか、愛されなかったとか嫌なことがあったとか、そんなことは全くなかった。たったの16年、されど16年。そこそこ恵まれた環境で、それなりに幸せに生きていたとも思う。けれど、
『単に、なーんか生きてることがめんどくさいんだよねぇ。生きてる意味も人生への期待も、やりたいこととかも別にないし。
ほんっと、ただなんとなく死にたい』
繕わないで私の正直な気持ちをお伝えしたところ、リンク君は泣いた。
そりゃもう突然にぶわっと。おいおいお前どうした心が不安定か。
「君はなんで…!そうやって………!っそんな簡単に死にたいとか言えるんだ…!!」
『ぅあっ、おうっ、うわっ、ちょっリン、リンク君!』
泣き出して俯いたと思ったら、バッと立ち上がり私の両肩を捕らえると同時に激しく前後に揺すりだした。
ちょ、マジで死んじまうよ…。
「ごめん、でも僕………君に死んで欲しくないから…」
『………』
なんかむず痒い。
死にたがりの私の夢に私の死を望まない人が出てくるなんて…本当は、私自身心の底では死にたくないと思っているとでも言うのか。
「##NAME1##…?」
『死んで欲しくないだなんてそんなこと言われても……私は一体どうすればいい?』
「それは…」
『何も考えてないくせに、無責任なこと言わないで!!』
急に怒鳴られたことに一瞬驚いたような表情を見せたリンク君だけれど、私がその場を離れようとしたのを見てハッとしたように私の腕を掴んだ。
「分かった。責任とるから来て」
『は……?え、何…?』
私の腕を引っ張りながらずんずんと歩き出すリンク君。今までの彼からは想像も出来ないぐらい強引に引っ張られ少し痛いくらいだ。私は彼の中に潜む闇部分を引きずり出してしまったらしい。
互いに無言で歩くうちに学校のような建物に着いた。だからと言って解放されるわけではなく、結局解放されたのは食堂に着いてからだった。
『なんでこんなところに連れてきたの?』
「もうすぐ昼ご飯の時間で、もうそろそろみんな降りてくる頃だから」
『だから、それが一体何なのって聞いてるんだけど?』
リンク君は私の問に答えない。我ながら面倒くさい子を夢の中だというのに出してきたと思う。純粋なリンク君よ、帰っておいで…。
人がちらちらと集まり出すと、必然的に彼らの目は部外者である私に向くわけで、だんだんといたたまれなくなってきたからと視線で訴えるけれど、今のリンク君にそんなものは通用しなかったようだ。
赤い個性的な髪型をした男の子なんか、ここぞとばかりにツッコんできたけれど、「黙れよバド」なんてあのふわふわしたいつものリンク君からは想像もつかないようなドスの聞いた声で凄まれて、ビビリながらも悪態をつきながら自分の席へと戻っていった。強いなこの人。
「みんなに聞いてほしいことがあるんだ」
全員がそろったことを確認すると、彼はおもむろに立ち上がって声をあげた。
なんだなんだどうした。
ざわざわとし出した空気に耐えられずリンク君を見上げると、彼は私を強い瞳で見下ろして優しく微笑んだ。
「僕、この子と結婚します!!」
……………What?
周りポカーン
私ポカーン
そんな空気に当のリンク君きょとーん
『っていやいやいや!君は何を言ってるんだ!正気か!!?』
リンク君の突然のご報告に、私だけでなく周りも一緒にざわつき始める。そりゃそうだろだってあなたいくつよ?私と変わらないくらいじゃない?ぇえ?
「至って正気だよ。君が責任をとれと言ったから僕はこんな行動を起こしたんだ」
『馬鹿かお前はぁ!!
責任のとり方は何も一つじゃないんだよ大馬鹿者!!』
「いいんだ。丁度僕、君に一目惚れしてるから」
『私が良くないん…!……へ?』
飄々と言ってのける所為で一瞬理解が遅れたけれど、彼の言葉を反芻して意味を理解すると、急激に顔が熱くなるのが分かった。
「…ゴホンッ。えー、とりあえずリンクとそこの君、一度私の部屋に来ようか」
「えー!後にしてよホーネル先生ー。僕お腹空いちゃったー」
『ひいっ、すみません!すぐこの馬鹿をお連れします!!』
食事に手をつけようとするリンク君の頭に一発食らわして手を止めさせ、襟首を掴んで食堂の外へと引っ張っていく。
うう…周りの視線が痛い…。
ホーネル先生?とやらは、自身の部屋へと私達を招き入れると静かにドアを閉じた。
「さ、どういうことなのか、一から説明してくれるかい?」
「説明も何も、さっき僕と彼女が話してるのを先生達も聞いたでしょ?それだけだよ」
『あー、すみません、私がお話します。
まず、私は##NAME1##といいます。リンク君に命を助けられました』
色々と省きながら言葉を変えながら、とりあえず出会いから今まで、そしてリンク君の謎の結婚宣言の理由を説明する。ところどころ記憶喪失感出した台詞を混ぜ、もちろん、自殺を邪魔されたなんて言ったらきっとまた、この人もリンク君のようにうるさそうだからそういったことも伏せておいた。
「なるほど…。それでリンクはあんな発言を…」
『ええ、あれは私もびっくりですよ』
「それはそうと、今の話から察するに君は住む場所がないのだね?」
お……おやおやおや?
もしかしてもしかしなくてもこの展開は……
「それならば君も、記憶を取り戻すまでこの寮で暮らしていくといい。もちろん校長と相談しなくてはいけないが、きっとあの人のことだ、快く許可してくださるだろう」
うわー!やっぱりだー!
まさかリンク君、たくさんの人に私という存在を知らしめて自殺が出来ないようにさせる気だったのか!!?飛び降りようとしていたら止められるように!!
ちらりと横目でリンク君を見る。彼は始終私の顔を見てにこにこしていた。
うーん……読めない!!
ホーネルさんが校長に話をつけに行く間、私はリンクと彼の部屋で待機することになった。
ホーネルさんもなかなか平和ぼけした人だね。今日初めて会った女と結婚します!だなんて宣言しちゃうような頭の沸いた男と仮にも女を二人きりにするだなんて。いや頭が沸いてるのは私かこんな夢見るなんて。
「入るわね」
コンコンと控えめなノックと共に、金髪碧眼の可愛らしい女の子がドアから顔を覗かせた。その手には料理が取り分けられた皿が2つ。
まさかこれは……。
「お昼食べ損ねちゃったでしょ?」
「ありがとうゼルダ!僕お腹空いて死にそうだったんだよね!」
「どういたしまして。
ほら、あなたもどうぞ。お腹空いたでしょう?」
リンク君のお礼に返事を返すとこちらに向き直り私の手にフォークを握らせた女の子。へえ、ゼルダっていうんだ。
「ねぇねぇ、ところであなた達二人ってどんな関係なの??」
言っちゃいなさいよ~とでも言いたそうなこの目、女の子ってやっぱり恋バナが好きなんだなぁと改めて思った瞬間だった。
ゼルダちゃんのこの質問に対して、リンク君はすかさず婚約者だよ!と答えたけれど、ゼルダちゃんはそんなリンク君には全く目もくれずに私をじーっと見つめていたので、ホーネルさんにしたのと同じ説明をしてあげた。興味津々の野次馬根性丸出しだった瞳は、私の説明が進むとともに徐々に心配そうなものとなっていく。
私の夢の中の住人はどうも感受性が豊かすぎる気がするけれど、心配されて悪い気はしないのでまぁいいか。
「お、ゼルダもここにいたのか、丁度良かった。
##NAME1##、記憶が戻るまで君もここにいていいとのことだ。それで、部屋はゼルダと一緒に使ってもらいたいんだが…」
「もちろんいいわよ!
同年代の同性の友達が出来て嬉しいわ!」
部屋へと戻って来たホーネルさん。
彼の提案にゼルダちゃんは快く返事をしてくれる。おぉ、こんなに喜ぶか。
いや、まぁほら…ありがたいんだけどね?私の意思は関係ないんかーい!とか思っちゃうよね。
まあどうせ今日中に抜け出すつもりだったしいいけど。
ゼルダちゃんに部屋へと案内され、その後に校長やその他諸々に挨拶や、寮内、すかいろふと?(ここの島)の案内をしてもらい、なんやかんや色々ありまして就寝。
ゼルダちゃんの寝息が聞こえた頃を見計らって、床に敷かせてもらっていた布団からそっと抜け出し、借りていた服を着替えて外へ出る。
今日は月も出ていないみたいで真っ暗だ。
星明かりを頼りにして女神像とやらのところまで来た。民家は出来るだけ遠い方がいい。誰が見ているかも分からないのだから。
『ありがとう。さようなら』
周囲に誰もいないことを何度も確認し、誰も聞いていないということを知りながらもお礼とお別れの言葉を呟いて夜の闇に一歩踏み出した。
「ほら、ね、もう諦めなよ」
『何あの人達…めっちゃ怖い…』
結果から言えば、失敗。
飛び降りてすぐに謎の警備隊に捕まっ救出され、何度場所を変えてトライしても結果は変わらず。
そしてそれを最初から最後まで見ていたらしいリンク君とともに帰路についているなうである。
リンク君には「何度も飛び降りてるからたぶん君、目をつけられたよ。良かったね」とか嫌味紛いのことを言われて軽く殺意を抱いたけれど、私自分の感情コントロールするのうまいからね。許してやんよ。
飛び降りが駄目となると死に方を変えなくてはいけないな…。痛いのは嫌だったんだけど。
「方法変えても無駄だからね?僕が全部止めてみせるよ」
何この人エスパーかよ。
彼なら本当にやれそうで怖い。
仕方がないから、彼が油断をした頃にもう一度トライしてみようか。ということで、それまでは飛び降りを封印しよう。
『いいよ、もう。萎えた』
「萎えたって何さ」
『死ぬ気が失せたってこと。
その代わり、幸せにしてよ』
夢の中での3年が現実での3日だったらいいのに。
「…!
もちろん!」
私は私を殺すその時まで、きっといつまでも死にたいと思い続けるだろう。それでも、夢の住人である彼に情が湧いてしまったのも事実だから、せめて今だけは、彼を悲しませることはしないと誓おう。今 だ け は。
ただ意味もなく