新しい日
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『可愛いお耳ね。そんなに急いでどうしたの?』
最初の日、うさぎずきんを被って町を奔走していると、ハニーとダーリンの店の前で必ず話しかけてくる女の子がいる。僕と同じぐらいの女の子で何というか…ぽやんとした雰囲気の、3日後に月が降ってくることなんて知らないんじゃないかと思うほどのんびりした子だ。
「言えないけど、とにかく急いでるんだ。君に構っている暇はないよ」
本当は全然急いでなんていなかったけれど、虫の居所が悪かったから強く当たってしまった。一瞬きょとんとした顔になったからちょっと言い方きつかったかななんて思ったけれど、毎回時間を戻す度に同じ会話を繰り広げていることを考えると、まぁ一回くらいはいいかななんて。
でも、そんな心配はいらなかったようで、すぐに笑顔になって「そう、頑張ってね」なんて返って来た。
いつもは、最初の日に戻ったらすぐに神殿に乗り込んで、ひたすらに進むんだけれども、今回はどうしてもそんな気になれなくてただただ意味もなく、ぷらぷらとひたすらに町を走り回っている。スノーヘッドで雪の中を走り回っていたから疲れてるのかな。いやそうだとしたら今こんな風に走れないか。じゃあ気分的なものなのかなと、僕を急かすチャットをよそに一人で納得した。
次の日はやっぱり雨だった。暗雲立ち込める沈んだ空に冷たい雨、張り付く服に前髪。いつものことながら気分は最悪だ。
女の子は黄色い雨合羽を着て水たまりで遊んでいる。楽しそうなのは良いけれど、彼女が跳ねる度に水が飛び散るのは正直迷惑だ。ずぶ濡れの僕からすると、水が跳ねたところで濡れてることに変わりはないし、あまり支障はないけどさ。
「風邪ひくよ。雨の日くらいは家で遊んだら?」
『フフ、おっかしい。あなたの方こそびちょ濡れなのに』
来て。そう言って女の子は僕の腕を掴んで歩き出した。
彼女の家と思わしき建物に入ると、ドアのすぐ横にタオルを常備しているらしく3つほど手渡された。一つで十分なんだけどなぁと苦笑していると何やら美味しそうな香りが漂ってきて、思わずお腹が鳴ってしまった。しまったと思ってももう遅く、バッチリ聞かれてしまったようでいい笑顔の彼女と目が合った。
『どうぞ。##NAME1##のおやつ、半分あげるね』
「…ドーモアリガトウ」
熱くなる顔を隠そうと、髪を拭くフリをしてタオルを被ると外した帽子の中からチャットが出て来た。うわ一番赤くなったところを見られたくない奴の存在を忘れてた。すぐに平静を装うけれど、愉快そうに飛び回ってるところを見るとたぶん見られた。くそぅ。
『##NAME1##ね、##NAME1##って言うのよ。あなたは?』
「リンク。こっちは妖精のチャット」
『妖精……?』
今まで気付いていなかったのか、##NAME1##の目が僕の指の先のチャットを捉えると、すぐに目をキラキラと輝かせ始めた。あ、これはチャットお気の毒に。
案の定##NAME1##はチャットを見て大はしゃぎになった。その勢いと言えば、チャットがびびって##NAME1##の手の届かない天井辺りを飛ぶ程だ。
『すごいすごい!可愛い!妖精さんなんて##NAME1##初めて見た!』
「キャー!いきなりなんなのよもう!」
妖精なんて雑貨屋に行けばいくらでもいるのに。もし教えたら毎日でも通いそうだから教えてあげないけど。ストレスで妖精が死んじゃったら可哀想だからね。
「あ、そうだ。ちょっと床借りるね」
『?うん』
カバンに入れてはいたけれど、このひどい雨で中までびちゃびちゃになってしまったので一つずつ拭かせてもらうことにした。丁度余分にタオル渡されてるしいいよね。使えるものはなんでも使うよ、僕。
一つずつお面を拭いていく僕の手元をじーっと見つめる##NAME1##。穴が開いちゃうからあまり見ないでほしいな。
チャットへの関心は僕が次から次に取り出すお面達への興味に変わったらしく、それに気付いたチャットも恐る恐るだけれど僕の元へと降りてきた。
『あ、これ…。とっても可愛いお耳ね』
リンクがつけるの?
##NAME1##は僕が拭いて床に置いたうさぎずきんを手に取り頭に装着した。あ、似合う。…ってそうじゃなくて。
「そうだよ。昨日僕着けてたじゃない」
『でも##NAME1##、昨日はリンクに会ってないと思うけどなぁ』
「会ったよ。可愛い耳だって##NAME1##が言ったの、ちゃんと覚えてるんだから」
僕がそう言っても、##NAME1##はう~んと腕を組んで唸るばかりで一向に思い出さないらしい。何という記憶力だ。僕は3日前に食べたご飯の内容だって言えるのに。というか毎日ミルクとパンだよ。たまにチュチュゼリー。
ごめんね覚えてないと言う##NAME1##に少しショックを受けたけれど、忘れてしまったものはしょうがない。どうせ時間を戻せば##NAME1##以外の人だって僕を忘れるんだから、そう考えれば何のそのだ。
僕はおやつと雨宿りのお礼を言ってその家を後にした。
「あ、##NAME1##ー!おはよ。またお手玉してるんだ」
『うん、おはよう。だって楽しいんだもの』
最後の日、どうせ今回は最後の最後、ギリギリまで何もしないだろうということで開き直って遊ぶことにした。##NAME1##も誘おうとハニーとダーリンの店の前まで来ると、やっぱりお手玉をして遊んでいたので話しかけると呑気な笑顔が返って来た。
『ところであなたはだぁれ?この町の子?』
「……………え?」
『可愛いお耳ね。すごく似合ってるわ』
「えっと…冗談だよ…ね?」
『何が?
あら?ウフフ、その子は妖精さん?##NAME1##初めて見た!』
待って。ついていけない。人より理解力が劣るとかそんなことは別にないと思うんだけど。え?昨日の今日で忘れてる?僕のこと。
『…ねえ?急に黙ってどうしたの?##NAME1##、君に何かしちゃったかなぁ…』
「……っ」
『あっ、ねぇ待って!』
ひどい。ひどいよ。そんな風にふざけるなんて。人に忘れられたことがないからそんなふざけたことが出来るんだ。いい気なものだね僕なんて一人ぼっちになってしまったっていうのに。
たった一人、僕を知ってる友達もどこかに行ってしまったっていうのに。
僕は高ぶる気持ちをなけなしの理性で抑え、踵を返して走り出した。
うさぎずきんを被っている僕に追いつけるはずなんてないのに彼女は僕のことを追ってきて、小さな悲鳴が聞こえたからと振り返ると、後ろの方で転んで涙目になっている##NAME1##が目に入った。けれど、僕はすぐに顔をそらしてその場を離れた。
「…そんなに怒らなくても良かったんじゃないの?
時間を戻せばみんな忘れるんだし、それが早いか遅いかの違いでしょ?」
「チャットは、…忘れられる怖さを知らないからそんなことが言えるんだよ」
「アンタねぇ…」
「もういいよ。さっさとこんな世界なんて救っちゃって、僕はもう行くよ。元の世界に帰るんだ」
僕のたった一人の友達を探しに。
チャットは呆れた様子で僕の帽子に入ったので、オカリナを吹いて時間を戻した。
『可愛いお耳ね。そんなに急いでどうしたの?』
通り過ぎる時に聞こえた##NAME1##の言葉に聞こえないフリをする。
グヨーグとツインモルドを倒し、あとはスタルキッドを止めるために最後の日を待つだけとなった。どんな戦いになるかも分からないから体力を温存させようとも思ったけれど、やっぱり僕は歩き回っている方が性に合ってるみたいで、体は自然と町に繰り出してしまっていた。
「にーちゃん、##NAME1##姉が気になるの?」
「え……?」
次の日、いつの間にか雨合羽ではしゃぐ##NAME1##の姿を目で追っていたみたいで、ボンバーズの一人にそう言われて気付いた。
「##NAME1##姉、なんかのびょーきで一日しか記憶がもたないらしいんだよね。だから僕等ボンバーズは毎日##NAME1##姉にじこしょーかいするんだ!」
にっか、ってやつだよ!
「…病気…」
そうとは知らずに僕は…。
気付いたら僕は##NAME1##に向かって走り出していて、それに気付いてこちらを向いた彼女の手を掴んでいた。突然腕を掴まれ少しだけ驚いた様子を見せた##NAME1##は、僕の顔を見て微笑みそして、
『ウフフ、可愛いお耳がびちょ濡れね』
来て。
この間と同じ声で、笑顔で僕の手をひいた彼女だけれど、僕が一向に動かないことに気付いて振り向き首を傾げた。
『…ねえ?急にどうしたの?##NAME1##、君に何かしちゃったかなぁ…』
「違うんだ。何かしたのは僕の方だ」
『でも##NAME1##、あなたに会ったことないと思うけどなぁ』
あぁ、そうかもしれないね。君は僕の名前すらも知らないだろうねだけど、それでも僕は君に酷いことをしてしまったんだ。きっと傷付けた…。君が覚えていなくても僕が覚えている。
「##NAME1##、ごめんね。僕、君を傷付けてしまったことがあるんだ。
…本当にごめん」
何で謝るんだろうと疑問に思うかもしれないけど、だけど僕は謝りたかった。勝手に一人で怒っていじけて##NAME1##にもチャットにも当たり散らして、ホント、なんてみみっちい男なんだ僕は。
『うーん…##NAME1##もごめんね。君のことも、何で君が謝るのかも、##NAME1##にはどうしても分からないの。
だから、##NAME1##もごめん』
困った顔で謝罪の言葉を述べる##NAME1##に、そんな顔を見たくなくてその手をひいて抱き寄せた。
「いいんだ。だけど、あのさ…今更だけど、僕と友達になってほしいんだ。こんな僕だけど……君と、友達になりたい」
…なんて、虫が良すぎるかな。
『もちろんだよ!』
自分でも都合良すぎるとは思うけど、それでも僕は……、って、
「え、いいの?」
『##NAME1##ね、##NAME1##って言うのよ。あなたは?』
「リンク…だけど…」
駄目と言われるとは思わなかったけど、即OKがもらえるとも思っていなかったため面食らってしまった。
『リンク、ね。
あのねリンク、風邪ひいちゃうから##NAME1##のお家に行こ?
それに……こうしてると、なんだかちょっと恥ずかしいな…』
「あっ!うん!そうだよね!ごめん!!」
段々耳元で聞こえる声が小さくしぼんでいき、やっと自分が##NAME1##に何をしていたのかを思い出した。慌てて彼女の背に回していた腕を離して離れると、彼女は頬を染めて恥ずかしそうに俯いており、つられて僕の頬が熱くなるのを感じた。
ムジュラを倒して迎えた新しい日。
チャットに一時間だけ時間をもらい、僕はまた##NAME1##のいる場所へと向かっていた。見つけた彼女はいつものように一人で楽しそうにお手玉をして遊んでおり、近づく僕に気が付くとニッコリと優しく笑いかけてくれた。
「僕はリンク。君と友達になりたいんだ」
『もちろんだよ。##NAME1##は##NAME1##。よろしくね』
それから少しだけ##NAME1##とお手玉をして遊び、チャットが言った時間も迫っていたのでいよいよお別れすることにした。
寂しい気持ちが出てしまっていたのか、僕の顔を見た##NAME1##の大きな瞳は不安げに揺れていて、少しでもそんな不安を除去したいがために、見送ってくれている##NAME1##をこの腕の中に閉じ込めた。
「…僕、君と友達になれて良かった。##NAME1##に会えて…本当に良かった。……本当にありがとう」
『##NAME1##もリンクと友達になれて嬉しかったよ。だから、##NAME1##と友達になりたいって言ってくれてありがとう。
でも…でも、ね、リンク、
…こうしてると恥ずかしいって言ったじゃん』
「っ!!……フフ、ごめんね僕ってばつい…」
緩む口元に僕の意思とは関係なく潤む視界。そんな情けない姿を見られたくなくて僕は彼女に背を向けた。
「そろそろ行かなきゃ。
見送りありがとう…さようなら、##NAME1##」
エポナに跨り歩き出す。
彼女は、##NAME1##は少しだけだけど僕とのやり取りを覚えていてくれた。本人は無意識に言ったんだろうけど、それでも僕は嬉しかった。
『リンクー!またねー!!』
たとえ##NAME1##が僕のことを忘れてしまっても、僕は絶対に君のことを忘れないよ。
彼女の言葉を背中に受けて僕は走り出した。
もう一人の僕の友達を探すために。
新しい日