他人事のように自覚
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
彼女と出会ったのは、迷いの森の奥の奥、二度は行き着けないような、そんな場所だった。
あの日、僕とサリアは森の中でかくれんぼをしていたんだ。
サリアが鬼の番だった。
いつもすぐ見つかってしまうから、今度こそ、絶対に見つからないようにと森の奥に隠れることにした。
その結果が迷子だ。
サリアも、まさか僕がそんなに遠くへ行っているとは思わなかったらしくて探しに来てもらえず、僕は完全にコキリの森へ帰れなくなってしまった。
「参ったなぁ…」
日が沈んで視界が悪くなった頃、僕はついに歩き疲れて1歩も動けなくなってしまった。
明るくなってからまた動こうと、木の根本に座り込み目を閉じた。
正直心細いけれど、これ以上動けないし仕方がない。
『おい、貴様』
「あでっ!」
誰かから殴られて目が覚めた。
なんだ、もう朝か…まだ寝てたいのに…。
『おい、二度寝するな馬鹿者』
「いたっいたたたたっ!!痛い痛い!何!!何だよ!!」
続いて耳を引っ張られ、慌ててその手を振りほどいた。
座る僕の目の前に仁王立ちしていた僕と同じぐらいの女の子は、見たことのない真っ黒な衣装を身に着けていた。おでこからは小さな角が2本生えている。
可愛かったから一瞬見惚れてしまったけれど、頬を両手でつねられて現実に戻ってきた。
「な、何するんだよ!」
『帰りたいなら付いて来い』
「つ、付いて来いって、君道が分かるの?」
僕の問に答えることはせず、女の子は身を翻して歩き出してしまったので、悩んだ末付いていくことにした。
「ねぇ、君は森に住んでるの?コキリの里では見たことないけど」
『私は森のもっと奥に暮らしている。コキリへは用がないから行かないだけだ』
「へぇ、じゃあ今度遊びに行ってもいい?」
『簡単には辿り着けん。また迷うのがオチだからやめておけ』
「じゃあちなみになんだけどさ、コキリの里までは結構歩く?」
『お前を担いで行けばすぐに着くんだがな。
お前でも安全に通れる道を選ぶとかなり遠回りになる』
「じゃあさ、じゃあさ、君は…」
『いい加減煩いぞ』
ピシャリとそう言われ、色々気になるけれど素直に黙って歩いた。
ぐうぅぅぅ
…いや、口は黙っていたんだけどね、ほら、お腹は黙っていられなかったみたい。
僕のお腹の音を聞いて振り返った女の子は、僕と目が合うとプッと吹き出した。
『フフッ、全く緊張感のない腹だ。
お前、すぐ戻るから少しだけここで待っていろ』
「え、あ…うん」
女の子が草むらに飛び込んだ後、そのままじっと待つこと数分。女の子は、大量の果物とビンに入った牛乳を抱えて飛び出てきた。
『腹が減っているのだろう?遠慮せずに食うといい』
「えっと…ありがとう」
口調は強いけど意外に優しい…。
近くの木の根本で10分ほどの小休憩を取り、また歩き出した。
しばらく歩くと、見慣れた景色が目に入る。
いつの間にか迷いの森も抜けていたようだ。
「リンク!」
「あっ、サリア!」
「心配したヨ。…怪我はない?」
「うん、ないよ。大丈夫」
迷いの森の入り口の前にはサリアが待っていてくれて、僕の姿を見つけると駆け寄って来てくれた。
角が生えた女の子は、仲良く笑い合う僕達を見て静かに微笑むと、何も言わずに踵を返した。
「##NAME1##!ありがとう!」
『あぁ。また何かあれば呼ぶといい』
そう言って女の子は森の中へと姿を消した。
そうか、あの女の子は##NAME1##っていう名前なんだ。
「やっぱりコキリ族じゃなかったんだね、あの子」
「##NAME1##はオーグ族なの。
サリア達よりも長くこの森に住んでるから、森の奥にも詳しいのヨ。
リンクがいなくなっちゃったから、一緒に探してもらったんだよ」
「へぇ…オーグ族…」
「##NAME1##は良い子だから、きっとリンクも仲良くなれると思うワ!」
聞いたことのない種族に首を傾げる僕に、サリアはそう言って笑った。
「何作ってるんだ?妖精なしのリンク」
「うるさいぞ馬鹿ミド。あっちに行け!」
##NAME1##へのお礼を作っていたら、ミドの奴が子分を連れて僕の元へとやってきた。
煩く言われないようにとわざわざデクの樹サマの陰に隠れて作っていたというのに、ミドは変に勘が鋭くて嫌だ。
「なんだぁ?それ。…ってまさかサリアに…!!」
「なんでミドは何でもサリアに結びつけるんだよ!」
「違うのか?じゃあ自分でつけんのか」
「なんでだよ!
あーもう!気が散る!
頼むから話しかけないでよ!」
デクの樹サマの枝をゴリゴリと削って、ミドのことは適当にあしらおうと思ったけれど、意外に難しくて話しながらは作業出来ないことに気がついた。
ちぇっ、と舌を鳴らしてミドはまた戻って行く。
「ふぅ、やっと出来た!」
それから数日経って、##NAME1##へのプレゼントはやっと完成した。
ご飯食べたり寝たり、サリアと遊んだり以外はずっと彫ったり削ったりしていたので、段々作業もこなれてきた気がしなくもない。
ということで、ついでにサリアの分も作ってみた。
僕ってばホント器用。
「何が出来たの?」
「あっ、サリア!丁度いいところに!」
人からはどんな風に見えるのかが気になったので、今しがた出来上がったそれを、家まで迎えに来たサリアの目の前にバン!と突き付けた。
「可愛いね、それ。髪飾り?」
「そう!当たり!
実はさ、##NAME1##へのお礼にと思って…。
あ、もちろんサリアにも作ってるんだけどさ。はい」
「いいの?サリア、何もしてないのに…ありがとう!」
サリアはすぐさま髪飾りをつけるとにっこりと微笑んだので、似合うと言って拍手しておいた。
「じゃあ##NAME1##にも渡しに行こう!」
「えっ、でも住んでる場所分かるの?簡単には行けないって言ってたけど」
「それはアタシも分からないから、向こうから来てもらうネ」
そう言うとサリアは迷いの森の中へと入って行ったので慌てて追いかける。
いつもスタルキッドが笛を吹いている場所に来ると、サリアはオカリナを取り出し、いつもの歌とは違う、聞いたことのない曲を吹いた。
その曲は、荒れ狂う怒りの中にも嘆きや悲しみを孕んだような、とても印象的なものだった。
『相変わらず良い音だな』
数分と経たないうちに草を走り抜ける音が聞こえ、やがてその影はサリアの後ろへと静かに降り立った。
「ありがとう。
今日はね、サリアじゃなくてリンクが##NAME1##に用があるのヨ」
『リンク?…あぁ、この間の迷い子か。どうした?』
「あ、いや…あの…」
これ…と言って髪飾りを差し出すと、##NAME1##は頭上にハテナを浮かべた。サリアは微笑ましそうに見守っている。
「助けてもらったからお礼にと思って…作ったんだ」
『作った?お前がか?』
##NAME1##の問にこくりと頷くと、意外に器用だとでも言うように彼女は目を丸くした。
『あれはサリアに頼まれたから迎えに行っただけなんだが…そうか、感謝してくれていたのか…。
ならばリンク、私もお前の好意に応え、1つの歌を教えよう』
「え、歌?」
『あぁ。
我ら一族を友の元へと導く調べだ。聞いてくれ、"オーグのラプソディー"を』
##NAME1##はそこらへんの木の葉を取ると、先程サリアが吹いていた曲を奏でた。
ただの木の葉っぱなのに、それはサリアのオカリナにも負けず劣らずの音色で、むしろ全身に鳥肌が立つほどに感動した。
『この曲を奏でてくれたら、私は何があろうともお前の元へと駆けつけよう』
ただしこの草笛はコツがいるぞ。
吹き終えた彼女はそう言って笑った。
「っ……」
屈託のないその笑顔を見て、胸がきゅっと苦しくなる。
あぁ、僕はこんな短期間で##NAME1##を好きになってしまったんだなぁ…。
なんて、他人事のように考える。
これが僕の初恋だった。
他人事のように自覚