時は繰り返す
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広大な平原のど真ん中で目が覚めた。
周りを見渡せば遠くに何か…城壁?…のようなものが見えるが。
ここは一体どこなのだろうか。
痛む頭を押さえてもここに来た経緯は思い出せない。
…考えても無駄か。
とりあえず場所を移動しようと、足元に落ちていた竹刀袋とスクールバッグを拾って立ち上がる。
『(さて…行くか…)』
歩きながらスマホを取り出し電源を入れる。…電池があまりないな。
今日中に帰れるとは思えないから今日はおそらくどこかの宿に泊まることになるだろうし、充電器を貸してもらえるとありがたいのだが。
GPS機能を使って現在地を調べようにも、どうやら圏外のようで使い物にならない。時計に至っては、まだ空が青いというのに22時を示している。
磁気か何かで狂っているのだろうが…日本にこんな厄介な場所があったとは。
『…なんだあの生き物は…』
しばらく歩いていると緑色のゼリーのような生き物に出くわした。
一見無害かと思いきや、こちらを見つけるや否や近寄ってきて足に纏わりついてきたのだ。
足を振って引き剥がそうにもうまくいかない。
そのまま城壁まで行ってしまうことも考えたが、なかなかに歩きにくい。
竹刀を取り出すことを真剣に考え始めた頃、この緑ゼリーに向かって矢が飛んできた。矢が刺さった緑ゼリーはそのまま跡形もなく溶けて消える。
「大丈夫?お姉さん」
矢が飛んできた方向から子馬に乗った金髪の少年がトコトコとやってくる。
弓を構えているのを見ると、先程のはこの子の仕業だろう。
『歩きにくかったのでな、助かったよ。ありがとう』
「どういたしまして。じゃあね」
そうして男の子は去って行った。
私はまた城壁に向かって歩き出す。
入り口には門番が立っていた。
さっきの男の子もなかなか独創的な服ではあったが、鎧とは…。
日本語は通じるがここは日本ではないのかも知れない。
『すみません、ここはなんという国なのでしょうか』
「クニ?ここはクロックタウンっていう町だよ。お嬢さんは初めてかい?」
『ええ、そうなんです』
「観光だったら微妙なタイミングで来ちゃったね」
『…どういうことです?』
「空を見てご覧。どんどん月は大きくなるばかりだ。
この町はね、あと3日後に月が落ちてくると言われているんだ」
『月が…』
見上げてみると、顔のついた不気味な月が空に浮かんでいる。
落ちて来ているかは分からないが、太陽が昇っているというのにその太陽よりもはっきりと見えるのだ。確かに近いな。異常なまでに。
「3日後は丁度時のカーニバルだっていうのに…」
門番に別れを告げフラフラと歩いていると、北の方の広場で洞窟を発見した。
興味本位で入ってみると、とても綺麗な泉がそこにあった。
不思議な生き物が飛んでいる泉のその中心に寄ると、生き物は私の周りを囲むように飛び回りそして
「若者よ、私の願いを聞いてください。
仮面をつけたスタルキッドにバラバラにされてしまいました。
町ではぐれてる妖精を1人つかまえてこの妖精の泉に連れてきてください」
とお願いされてしまった。
見つけたら連れてくると伝え、その場を後にする。
「あ、さっきのお姉さん」
時計台の周りを歩いていると先程の少年に声をかけられた。
「また会えて嬉しいな、僕」
『私も嬉しいよ』
「僕はリンクって言うんだ。お姉さんは?」
『私は高倉伊吹という。好きに呼んでくれて構わない』
「そう?じゃあ伊吹ね。
伊吹はなんでこんなところにいるの?」
少年の雰囲気が変わる。
顔は笑っているのに目はこれっぽっちも笑っていない。
子ども特有の高めの声はどこへやら、やや低めの声でそう問われた。
『何故そんなことを聞く?』
「僕さ、もうこの町のことは解決させたはずなんだよね。全部」
『…?
解決?月が振ってくるとかいう話のことを言っているのか?』
「それも。
全部全部解決させてハイラルに帰ったはずなのに、何故か僕はまたタルミナに来てて、そしてまた同じ3日間を繰り返しながら月を止めなきゃいけないくさい。
ホントやんなっちゃうよね」
『ほう。
それで、それが私と何の関係があると?』
「分からない。
でも今まで一度も見たことのない人がたまたまそこにいたから、ちょっと突っかかってみたってだけ」
私に原因があるとでも言いたいようだ。
全て信じたわけではないが、たまーに大人びた仕草をするこの少年を邪険に扱うのも可哀想なので話を聞いてみることにする。
話を聞くよと伝えると嬉しそうに笑い、そして私の手を引きどこかの水場へとやって来た。
ふむ、確かに静かで話はしやすいな。
ふよふよと飛んでいるはぐれ妖精とやらを捕まえ水路のふちに腰かければ、リンクも私に習って隣に座った。
水路には魚が何匹か泳いでおり水質の良さがうかがえる。今の日本では見れない光景だ。
さっきの話の続きだけど、と少年が切り出す。
「伊吹はさ、この世界の人じゃないでしょ?」
『どうだろうな。
隠しているわけではなく、私にも分からないんだ』
「伊吹はどう思うの?」
顎に指を置いて考える。
あの緑ゼリーのことといい顔のついた月といい、確かに私のいた場所なら考えられないことは多い。
だが異世界ともなるとにわかには信じられないのだ。
こういう時、私は私の頑固さが嫌になる。
『私には信じられないが…そうだね。異世界説が一番しっくりくるよ』
「ここでは不思議なことじゃないよ。
だって僕もそうだから」
僕の言葉に何を思ったのかは知らないけれど、この女―伊吹は何も言わずに僕の頭をくしゃりと撫でてきた。
子ども扱いにいい気はしないけれど、彼女の手のひらは大きくて暖かくて、もう少しだけなら撫でられてあげてもいいかな、なんて、そう思ってしまうんだ。
僕の手元にはデクナッツの仮面、ゴロンの仮面、ゾーラの仮面、そして鬼神の仮面がある。
これを使えば、3日後の運命の日に月まで出向いてムジュラの奴をめったんめったんにするなんてことはわけないのだけれども、僕は今のところこのタルミナを救う気はない。
何故か。
だって僕一度この世界救ってるし。何で僕の頑張りが認められないってのにまたこんな世界のために駆けずり回らなくちゃいけないのさ。
それに…。たぶんだけど、タルミナを救ってしまえば伊吹は元の世界に帰ってしまうのだろう。
それに根拠と呼べる根拠はないけれど、タルミナがこうなったタイミングで別の世界の人が迷い込んでるって、明らかに怪しいじゃん?僕はこの世界を救わせるためだとしてもさ。
まぁ、その話は置いておくとして。
「伊吹が帰れるよう僕も協力するね」
本当はこの暖かい手を離す気はないけれど、嫌われたくはないし、なんだかんだ理由付けて一緒にいるのもいいかななんて。
そんな僕の考えは露知らず、伊吹は素直に「ありがとう」と微笑んだ。
「伊吹のそれってさ、もしかして剣?」
妖精の泉に向かう道中、私の持つ竹刀袋に興味を持ったリンクがそう尋ねてきた。
『これは竹刀と言って、竹で出来た剣なんだ。人と人が打ち合うためだから、刃はついてないがね』
「チャンバラってこと?真剣でやればいいのに」
『はは、私の国では本物の剣を持っているだけで捕まってしまうんだよ』
そう言えばリンクはふーんと言って黙った。
やけに物騒な考えをする子どもだな。
はぐれ妖精を泉に戻すと、今度は人の形になって飛び出してきた。
なかなか存在感のある人だ。
「親切な若者達よ。
バラバラになった体を元に戻してくれてありがとう。
お礼に元の世界に帰る方法を教えてあげる」
「えっ!?」
『何だと?』
「そこにいる少年…リンクの力になりなさい。そうすれば道は開けるでしょう」
高らかに笑って妖精は泉の底へと消えた。
リンクに視線をやると何とも言えない顔をしている。
『リンク?どうした?』
「………。
ううん、なんでもない。行こう」
踵を返して泉をあとにする。
「この後はどうするの?」
『そうだな。とりあえずは金の調達といったところじゃないか?』
何でもいいから日雇いでのアルバイトのようなものでもあればよいのだが…。
「お金?…じゃあちょっと待ってて」
町まで戻ってくると、リンクは時計台の根元にいる赤い髪で目を隠した男の元まで行き、何かの話をし始める。そして大きな袋を手にするとまた私のところに戻ってきた。
「はい。これ、自由に使っていいからね」
『?
これは?』
袋の中を見ると、赤青緑といった色とりどりの宝石のようなものが入っている。
「ルピーだよ。僕らの世界のお金」
『なっ!?
こ、子どもに金をたかるわけないだろう!』
「魔物を倒すと手に入るんだ」
だから自由に使っていい。
リンクは繰り返す。
いや、入手方法を気にしているわけではなくてだな…。
受け取りを渋るが尚もリンクは袋を突き付けてくる。
「受け取らないなら僕これ捨てるけど」
『よし分かった。では一旦借りるということにしよう』
渋々といったような形で落ち着いてもらう。
本当はこんな10歳かそこらの子どもに金なんて借りたくはなかったが、何故だか彼なら本当に捨てるという気しかせず、結局借りることになってしまった。
リンクは全くと言っていいほど納得していないが安心してくれ。私も納得はしていないんだ。
「何買うの?」
『それなんだが、剣はどこで買えるだろう。ざっと見て回った感じではこの町に鍛冶屋はなかったと思うのだが』
「あぁ、それならスノーヘッドにいい鍛冶屋がいるよ。
でもなんで?僕、女の子一人守るくらいならわけないけど?」
『さっき泉の妖精が言ってただろう。「リンクの力になれ」と。
私だって少しくらいは剣を振れるからな』
リンクの力になるのもそうだが、大きな目的はリンクへ返すために魔物を倒して金を得るということ。そして何より、魔物がどの程度の強さかは分からないけれども、私の力がどれほど通用するのかを試してみたいのだ。リンクには言わないでおくが。
リンクはただでさえ丸い目をさらに丸くしてこちらを見る。
私が剣を握りたいと言ったのはそんなにも意外なことだったのだろうか?
この世界では剣を持っていてもおかしくないと言うし、リンクのように子どもでも持っているほどなのだから、私が剣を握ったところで何ら問題はないはずなんだが。
「…こんな女の子もいるんだね」
リンクは自嘲気味に笑うと絞るように呟いた。
『リンクの知り合いにはいないのか?
女で剣を振るう人は』
「いや、あれはゴリラだね、絶対」
誰を言っているかまでは分からないが、どうやらいるにはいるらしい。
なら何も不都合は無いだろうに。
「…………」
少し意外だった。何がって、真剣を持ったこともないただの女の子が剣を握ろうとしていること。そして、本人は直接は言わないけれど、返さなくてもいいって言っているのに僕にお金を返そうと魔物と戦おうとしていることが。
まだ他にも何か隠してそうだけど、別にそれはいい。
ただ、ゼルダもルトもマロンも、自分主体で戦おうとするような子じゃなかったから、こんな子もいるんだなって。
伊吹が特殊なのかも知れないけれど、女の子という生き物を誤解していた部分は少なからずあったので、そこだけは反省した。
ちらりと、本当にちらりと一瞬ゼルダの乳母とかゲルド族の女が記憶を過ぎった。あの人達はなかなか好感が持てたけど、女であの強さはどう考えてもゴリラだよね。生まれる性別間違ったよ。
『リンク?』
突然黙った僕を不思議そうに見てくる伊吹に、心配ないよという意味を込めて笑顔を返した。
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